必死な人達
連載二話目。コメディ要素強めかも?
誤字脱字等ありましたらご指摘お願いします。
国王は必死だった。
第二王女のレイアは十四歳。
王女という立場上、将来の結婚相手、つまりは婚約者がいてもおかしくないのだが、病弱という理由で中々相手ガ見つからなかった。
その天使のような美しさゆえに、候補も多そうだが、美しすぎることが弊害となっている。
つまりは、つり合わない。
身分が申し分なくても、レイアの前ではたとえ美男子といわれる者でも霞んでしまう。
または、畏れ多いと思うものまでいた。
滅多に顔を見せないことが、余計に神秘的な印象に拍車をかけていた。
そして相手が見つからないまま時が経ってしまった。
この国の成人年齢は十五歳。
女性の場合、その年齢になったら結婚するものもいる。
そしてそれは、貴族に多く、特に上流階層が目立って多かった。
第一王女のレイナも、十五歳で隣国の王子へ嫁いでいた。
二十になると行き遅れと認識されてしまう。
(可愛い可愛い天使のレイアを行き遅らせるわけにはいかんのだ! あの子があいつらを説得できれば・・・)
国王の熱意は年々、日に日に増していった。
そして、レイアの母である王妃も国王と気持ちは同じなので、色々と手をかけている。
(レイアの本来の性格を受け止めれなくてはいけない、けどいないのよねぇ。この国には)
が、レイアの本来の性格・・・・面倒くさがり屋というのがネックになっていた。
((このままだと行き遅れてしまう!!))
危機感を募らせた時、隣国から手紙が届いた。
その時の、夫妻はそれを見た瞬間こう叫んだ。
「「よっしゃああぁぁぁっっ」」
その直後、王妃はハッとして、突き上げた手を口元に持っていき、
「おほほほ、わたくしとしたことがはしたないことを・・・・」
と、頬を赤く染め、国王はぷるぷると手紙を持つ手を振るわせ、食い入る様に見つめながら、
「おぉ、私は夢を見ているのだろうか・・・」
と、言った。
目がじゃっかん血走っている。
「今すぐ返事を出そう!」
国王夫妻が喜びに沸いたのは、隣国スカーレットの宰相からだった。
息子を是非にと、しかも、レイアが面倒くさがりだと知った上で婚約し来年には結婚したいと、国王夫妻が待ちに待った願っても無い内容だった。
スカーレットとは、友好関係にあり、国のトップ同士が親友同士であり、それぞれ国の中枢を担う者たちの子供達もお互い仲がよい。
そして、宰相の息子は、アルフレッドとは友人であり、レイアについて聞いており、親や使用人達を説得できたらレイアをもらうと、昔約束していた。
もっとも、その説得がいつできるか分からないし、できないかも知れない。
それを待って行き遅れになっても困るので、相手探しは続け、良い相手がいたらそれでいいと、彼は言っていた。
彼女が幸せになるならと。
結果的には、説得が上手くいったのでお願いしたい。となった。
そして、スカーレッ国宰相の息子が、そう言い出した要因であるアルフレッドなのだが、彼が友人に、極秘事項である妹のことを言ったのは、必要に迫られての苦渋の決断だった。
そう、事の始まりは五年前だった。
五年前、アルフレッドの部屋にて。
「アルフレッドオオォォォ」
バッタァァン
「おぅ!?」
乱暴に開かれた扉の向こうから、ライトブラウンのさらさらした髪にダークグレイの瞳をもった、見た目麗しい少年が入ってきた。
「どうしたライナー、お前らしくない」
いつもは穏やかな大人しくもしっかりした少年で、アルフレッドの部屋を訪ねる時も、ノックをして、返事を聞いてから開けるのだが、今日は様子がおかしかった。
ライナーは、ぜぇぜぇと肩で息をして疲れ切っているが、そんなことはお構いなしと言わんばかりにアルフレッドに詰め寄る。
「天使がいたんだ! あの天使は誰だ!!」
「は?」
いきなり何を言い出すのかと思ったが、ライナーは真剣だった。
引くほどマジだった。色々と。
そしてアルフレッドは、ライナーが誰のことを言っているのかすぐに分かった。
天使といえば、愛する妹しかいない。
どうやら友人は妹に会ったか見かけたのだろう。
(レイアが人と会うとかないから、たまたま偶然天文学的確率で見たんだろうな)
見かけることすら珍獣並なレイアである。
家族ですら、部屋に行かないと姿を見ないのだ。
「俺の愛する妹だな。天使といったら妹しかいない」
「あぁ、あの天使が第二王女か。まさに天使・・・・」
納得した顔で頷き、俯く。
「ライナー、大丈夫か」
うつむいていたライナーは、がばっと顔を上げて
「天使に一目惚れしたなんとかしろ!」
「しらんがな」
「お前なの妹だろう! 病弱と聞いているし、いきなり会うわけにもいくまい」
「あー、まぁ、そうだな(ほんとは人と会うのが面倒くさいだけなんだけどな)」
「おい、なぜ目をそらす」
「気のせいだろう」
きりっとした表情で言い放つアルフレッドにライナーはイラっとしつつも
「確か第二王女は九歳だったな。今プロポーズしても年齢的に俺が変態扱いされそうだし、まずは知り合うところから・・・・」
(こいつ、プロポーズまでするつもりだったのか)
アルフレッドとライナーは、今十三歳である。
この国と隣国では、十歳以上の者が十歳未満の者へ告白やらプロポーズやらしたら変態扱いされる風潮があった。
例えば、十歳と九歳でもアウトである。
なにやらぶつぶつ言い始めた友人の変貌ぶりに引きつつも、アルフレッドはどうするか考えた。
そして・・・・
(まだ妹はだめだ!)
それは、アルフレッドがレイアのことを渡すのが嫌なのと、レイアの性格に関して難しいということから得た結論だった。
とはいえ、レイアのことを言うわけにも行かないので、ライナーには色々と理由をつけて、待ってもらうことにした。
諦めてもらうというのは不可能であろうことは、直感的に理解していた。
それからというもの、ライナーは来る度にレイアのことを聞き、来なくても手紙でレイアのことを聞き、とにかくレイアレイアである。
ここまでレイアレイア言われると、アルフレッドもだんだん「もういっか」という思考になっていった。
「寝ても覚めても天使のことばかり、食事は喉を通るが満たされない、何をしても空虚な気持ちになってしまうんだ・・・・父上の仕事を継ぐのが俺の目標なのに、勉強についても身が入らない」
「の、わりには優秀だと評判だぞ」
「ふふ、天使を娶るとなったら、どんな状況でも仕事ができる人間にならないといけないからな。それに勉強自体は簡単だ」
ごく当たり前に言うが、時期宰相としての勉強が簡単なわけはないのだ。
ライナーはものすごく優秀だった。
重度の恋患いにかかっていようとも。
「そんなことより天使に会いたい」
「まぁ、お前がレイアを初めて見たときから一年だもんな」
そう、すでに一年の月日が流れており、その間ライナーはレイアを見ていない。
面会を申し込んだが、やんわりと断られてしまっていた。
国王は、ものすごく申し訳なさそうにしていたので、なんともいえないし、相手が相手だけに言える立場でもない。
アルフレッドと友人ということもあり、親しげにはしてくれるが、一国のなのだ。
「レイア病は治るどころか悪化・・・」
「天使も十歳と言うことは、求婚を申し込んでも・・・・」
(あぁ、ライナーの目が据わっている)
このままだと、国王に直接言いかねない。
父親である宰相を無視して。
それはまずいだろうとアルフレッドは思い・・・・
(あー、もうどうにでもなれ!)
「ライナー、レイアのことで言わなきゃいけないことがあるんだ」
「なんだ今すぐ言え」
即答だった。
アルフレッドは、本当に好きなんだなぁと、思いつつ、レイア真実を告げることにした。
「レイアは、病弱じゃない。面倒くさがりなんだ。筋金入りの」
「は?」
さすがのライナーも首をかしげた。
「病弱っていうのは、面倒くさがって出てこないレイアの表向きの理由だ。さすがに王女が面倒くさがりとか醜聞もいいとこだしな」
「・・・」
「レイアは、物心ついたときには面倒くさがりの欠片がみえていた」
面倒くさがりの欠片ってなんだ。と、常識人がいたら突っ込んでいただろう。
「それが、だんだんひどくなって、気づけばレイアは立派な面倒くさがり屋になってしまっていた」
常識人がいたら立派な面倒くさがり屋とか立派とは言わないだろうと突っ込みを・・・
「レイアはそれはもう天使だった。可愛かった、甘やかしすぎたんだろうな、やることは(最低限)やっていたから、面倒くさいというのを許していたんだ」
そしてアルフレッドは、「そう、やれば出来る子なんだレイアは。なんせ我らの天使だからな」と、常識人がいたら(略)なことを言った。
「まぁ、そういうわけで、レイアのことを本気ならその辺含めてしっかり考えてくれ。でないと妹はやれん。お前も妹も不幸になるだけだ」
と、最終的には実に常識的な事を言った。
それを聞いていたライナーは、軽く首を傾げて
「うん、それのどこが問題だ?」
「おい」
速攻でアルフレッドが突っ込みをいれた。
「俺は天使を愛している。天使が面倒くさがりだろうが、わがままだろうが、殺人者だろうが、病んでいようが全く問題ない」
「いや、レイアはわがまま・・・は、あると思うが、殺人者でも病んでもないからな!?」
その言葉にライナーは憮然として「例えばだ。それくらい愛している」と、言った。
彼は、わざととか強がりとかではなく、本心から言っているようだ。
「うわぁ、もの凄い重い・・・・」
「自覚はあるが、愛してしまったものは仕方ないだろう」
困ったように笑みを浮かべるライナー。
アルフレッドは、かなり引きつつも
「だが、お前が良くても、家族や使用人達は・・・・」
「問題ない。説得する。何年かかろうと必ず。説得できたとき、天使に相手がいなければ俺がもらう。まぁ、もし相手がいて天使に相応しくなかったり、不幸にするだろうと思ったら・・・・」
ライナーのダークグレイの瞳のハイライトな消える。
「こぇーよ・・・・お前こそ病んでるんじゃ、いや、なんでもないからその目をこっちむけんな」
「そういうわけで、王様と王妃様に話をしたいから頼む」
そう言うライナーは、瞳に光がもどり、先ほどの様子とは一転、不敵な笑みを浮かべていた。
常識人なんていなかった。