第1章 夏の一年 1 夏の始まり
「大丈夫?」
……あれ、俺生きてるのか?
聞こえてきた声に自分の生を期待してしまう。
「もしも〜し、聞こえてる?」
……朧とは違う元気な女の子の声。
うっすらと目を開けるとその女の子が振っているのであろう手のひらが目に入る。女の子らしい小さい手なのに、マメのあとが見えた。
「お!良かった。生きてるみたい」
目を開けると女の子の手のひらは目の前から消え、代わりに大きな膨らみが二つ見えた。
そういえば頭の後になにか柔らかいものが……。
……。
「ひっ!」
自分がその女の子に膝枕されているという状況を読み取った俺は咄嗟に起き上がる。
「うぉっ!」
女の子も急に起き上がった俺にびっくりしたようで後ろに倒れてしまう。
「も〜びっくりさせないでよ〜」
そう言いながら起き上がってきた女の子は大きい目をして可愛い顔をしており、茶色の髪のポニーテールが跳ねていた。
白いワンピースがよく似合っている。
座っているので正確な身長はわからないが、朧より低そうだ。胸は朧より全然大きそうだが。
「もう大丈夫そう?」
「う、うん」
俺はそう答えるとあたりを見回す。
あたりには桜の木がいっぱいで満開より少し前、七分咲というところだろうか。それでも綺麗な桜色の風景が広がっていた。
遠くには高い建物なども見受けられるが、現代日本のそれとは違い、石などで作られているように見える。
……?
空は青く澄み渡り、快晴と言えるだろう。
……
仕方ない向き合おう、ここは何処なのだろうか。
「少し聞きたいんだけど、えーっと……」
「梅雨原炎。炎でいいよ」
彼女に気を使わせてしまったなぁと感謝する。
「ありがとう炎、俺は四季要。今の日付と場所を教えて貰ってもいい?」
「要かぁ、いい名前だね。日付と場所?寝ぼけてるの?」
「……そうかもしれないんだけど、ちょっと思い出せなくて」
「変な要。今はトリオ歴第14期24年3月21日だね。ここはサラサの中央部公園だね」
?????
親切に教えてくれたけど全くわからないぞ……
「トリオ歴ってのもわからなくて、サラサってのもどこだかわからないんだけど……」
「え?ほんとに頭打った?」
「ちょっと俺がさっきまでいた世界は全然違うところだったみたいなんだけど」
彼女が小声で独り言が聞こえる
「私ちょっとめんどくさい人に関わちゃったかなぁ……」
呆れられてるけど、俺には彼女に頼る他ない
「すみません!助けてください!」
とりあえず頼み込む!
「まぁそうだね、何かの縁だし私に出来ることなら協力するよ」
そう言って俺に向けてくれた炎の笑顔は少し眩しかった
「で、とりあえずどうしよっか?」
「本当は帰る方法でも探したいんだけど、埒が明かなそうだから、とりあえずこの世界について軽く教えもらってもいい?」
「うん、分かった。
とりあえず今いるのはトリオ国の首都、サラサにある公園の一つね。トリオ歴っていうのはこのトリオ国が出来てから何年かってことを表してるの。」
「第14期っていうのは?」
「それは今の王様が14人目ってこと。王様が次の人に交代すると増えてくわけ。王様は前の王様がやめるって宣言した年の最後に国の中から強さに自信のある人が集まって、トーナメントで戦って優勝した人がなるの。」
「そんな決め方でちゃんと政治できてるの?」
「もちろん王様が一番偉いんだけど、王様の周りは選挙で決められて、王様の言ったことが無条件で全部通るわけじゃないんだよね。選挙ってのは……」
「あ、大丈夫。選挙は元いた世界でもあったから」
「選挙があるなんて、四季がいた世界は結構進んでたんだね」
「進んでた?」
「トリオ国は選挙を初めて取り入れた国家で、だからこそ長く続いてるって言われてるんだよね」
「へぇ」
選挙が新しいのか……、やっぱり現代日本よりはいくらか遅れているって考えていいのかな。
「それでね、今の王様は初めての女王様なんだよ」
「女王様?」
「すごいよねー、しかも私と同じ年なんだよ。私もそこそこ強いんだけどね」
「女王か……」
「なんとねその女王、私の友達なんだ」
「女王が友達?」
「知り合ったのは去年なんだけどね。友達になったらすぐに女王になっちゃった」
「女王が友達だなんてすごいな……」
一体どんな人なのだろうか。
「今日ここに来たのもその子に言われたからなんだよね。未来を見る力でもあるんじゃないかって噂もあるし」
「直接聞けないの?」
「彼女、そこだけは頑なに教えてくれないんだよね」
未来を見る力か……、機会があれば知り合っておきたいところだ。
「ごめん、話が逸れたね。3月21日っていうのは」
「それも大丈夫。月日も知ってるや」
「月日ってのも結構新しいんだけどね……、ほんとにトリオ国に住んでるわけじゃないんだよね?」
「うん、それは確か」
「なんか不思議な話だね……、あとは何か聞きたいことはある?」
聞きたいことか……、色々あるがまずはこれからのことだろうか。
「……これからどうすればいいんでしょうか」
炎も困った顔をする。
「とりあえず、魔力検査でも行ってみる?」
「魔力検査?」
「え?」
……え?
「魔力検査ってわからない?」
「うん」
炎は幽霊でも見たような顔をする。
「まさか、魔力検査を知らない人がいるなんて……」
そんなこと言われても知らないものは知らない。
「もしかして、魔法ってのも知らなかったりする?」
「聞いたこととイメージはあるけど実際に見たことはないんだけど」
「おおおおお、まじか、まじですか。別に魔法はトリオ国独自ってわけじゃないから知ってるかと思ってんだけど」
少し考えた素振りを見せた後、
「とりあえず魔力検査行ってみようか。多分私よりうまく説明してくれるし」
そう言って彼女は立ち上がると、俺に手を伸ばしてくる。
少し手を握るのは恥ずかしい。
「大丈夫。立てるさ」
そう言って立ち上がろうとしたところで、木の根に躓いてしまい、倒れてしまう。
彼女を巻き込んで。
「痛た……」
起き上がって彼女を見ると、肘を擦りむいてしまっていた。
俺が恥ずかしがらずに彼女の助けを借りて立ち上がっていれば……。
そう考えた途端、俺の視界がぐにゃりと歪んだ。
「とりあえず魔力検査行ってみようか。多分私よりうまく説明してくれるし」
あれ?
彼女は立ち上がり、先程と同じく手を伸ばしてくる。
「ちょっと待って!」
「え?どうしたの?魔力検査行きたくない?」
「そうじゃなくて、えっと、さっき転んだのは?」
「転んだ?」
「さっき木の根のところで転んで擦りむいたじゃん」
彼女は何言ってんのかなーみたいな顔をする。
「やっぱりまだ寝ぼけてる?」
「いや、大丈夫ならいいんだ」
大丈夫ならいいのだが、やはりさっきのが夢とは思えない。
「とりあえず行こ?」
彼女がまた手を伸ばしてくれる。
今度はその手を借りて立ち上がった。
誤字脱字などありましたらご指摘ください