Prologue
困ったことに待ち合わせ時間にヤマトが来ない。ヒミコは苛つきながら隣で仁王立ちするカーリッヒに怒鳴る。
「まだ来ないの?」
「すまん。必ず来いと伝えたはずだ」
「それにも関わらずなんで待ち合わせの時間に来ないのよ」
雪の降る街道にて幼馴染みに立ったまま待たされている事にヒミコは苛ついていた。長くストレートに伸ばした髪には所々雪が触れて溶けずに残っている。
既に日は落ちつつあり、道行く人々も早足で自分の家へと向かっている。暖炉に火を入れ身体を暖めたいのだろう。
傍らにいた体躯の良い男同様、ドイツ海兵のようなロングコートに身を包みながらヒミコは仁王立ちしていた。
「いい加減にしてほしいわ。いつまでも私無しじゃ何もできないダメ男のままじゃ困るっての」
「いや、多分、それはないんじゃないか。アレは君がいなくとも十分動いている」
懐かしの母国にいるせいかカーリッヒは少し心が落ち着いている。口を酸っぱくして待ち合わせ時刻には遅れるなと言いつけた友人が来なくとも、彼にしては珍しく寛容になれるくらいだ。寒空の下に立たされても気にならなかった。
「待ちくたびれたわ。私たちだけでミッションしちゃダメ?」
「二人だけで終わるか?」
カーリッヒの冷静な判断にヒミコはため息をつく。「...確かに」
「それに。君と俺は相性が悪い」
「...そうね」
「否定してくれよ」
「嫌よ。変態とチームなんて組みたくないわ」
ヒミコは白い吐息をため息とともに思いっきり吐き出した。