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とくぞうはあたらしいなかまとであった!

「また雨か。薪が湿気ったら燃料にならないってのに。」

「この間君が僕を脅かさなければ薪を貯めておけたんだ。」

クゾーはリリアムの家の庭でドワーフ族のドヴァと一緒に薪割り機を直していた。薪を割る機械だということはわかるのだが、仕組みが全く分からない。丸太の入る穴が開いており、そこに丸太を入れるとカットされて出てくる。

「俺は何もしてないだろ。君が勝手に驚いたんだ。」

ドヴァはこちらを見もしないで答える。

「あんなとこにオークがいたら誰だって驚く。早く次の丸太をくれよ。」

動作をテストする目的で丸太が大量に必要らしい。クゾーは木を切るのを担当していた。騎士団長に切り落とされた左腕はもうすっかり再生している。

「まあ斧一振りだから楽でいいけど。一気に何本か切りたいがせっかく守った森を破壊する訳にもいかないからな。」

森に影響を与え過ぎるとエコーやリリアムにとっては良くないらしい。リリアムなどは倒木を薪にしていると言っていた。

「あんた騎士団を蹴散らしたんだってな。流石に戦闘種族だな。大したもんだ。」

ドヴァはニヤニヤしながらクゾーに言った。

「急に褒めたりして。煽てて仕事させようってか。」

「当たり。丸太くれ。」

やれやれ。とクゾーは斧を振るった。木に対して戦闘も何も無いので流儀を使うことはできない。必然、筋力のみで労働をすることになる。

「もう動作テストはいらないんじゃないの?」

「ああ。これはいつか使う為の薪のストック。」

気がつけば薪がうず高く積まれている。クゾーの身長ほどもありそうだ。

「誰が運ぶんだよこんなに…。」

「あんた。」

ドヴァはさも当然といったふうにそう言った。クゾーは頭を抱えるしかなかった。

「ん?おい、あれ。」

ドヴァが森の奥を指差した。見れば、何やら小柄な人影がこっちに歩いてくる。手には何か大きな物を引きずっているように見える。

「なんだ…?あれは人間の男の子か?」

「みたいだな。手に持っているのはどうやら大型の動物だ。何だかふらついているぞ。」

ドヴァはその子の元に駆け寄って話しかけた。

「どうした?気分でも悪いのか?」

しかし、その子はばったりと倒れてしまった。引きずっていたのはなんと獅子だった。

「こいつは驚いた。この子は獅子を狩ってここまで歩いてきたというのか。」

獅子は既に生き絶えており、顔面の骨がボコボコになっていた。とりあえず獅子をそこらに置いておき、少年をリリアムの家に運んだ。

「ここらでは見ない顔ですねー。時々森に人間が迷い込みますけどこんな子供は見たことがありませんね。」

エコーが少年を覗き込みながら言う。

「まして獅子を素手で狩るなんて。この子は本当に人間なんでしょうか?いずれにしても起きたらいろいろ聞いてみるしかありませんね。」

寝顔を見ると、この少年はかなり整った顔つきをしているいわゆる美少年だ。

(俺の現状よりこの子の方がよっぽどファンタジーには似合うな。ひょっとしてこの子も元の世界から来たのか?)

いやそれはない。クゾーは思い直した。元の世界だろうが素手で獅子を倒せる子供なんていないからだ。

「みなさーん!お昼ごはんにしましょう。」

とリリアムが呼びかけ、料理をテーブルの上に並べた瞬間、少年が跳ね起きた。

「食い物!」

よほどお腹がすいていたと見えて、目を血走らせてテーブルの上を凝視している。

「食っていいか!?」

食い入るようにリリアムに聞いた。

「え、ええどうぞ。」

と言われるが早いか少年はものすごい勢いで料理に齧り付く。テーブルの上の料理を食べ尽くし、リリアムが追加したパンを齧りながら、ようやく少年は言葉を発した。

「いやあかたじけない。獅子を狩ったはいいが肉が不味くて食えたもんではなくてな。途方に暮れていた所だ。なんと礼をしていいかわからん。」

「いやそれはいいのですけど、あなたは一体何族でどこから来たのですか?」

リリアムが少年に質問する。

「これは申し遅れた。あいにく名乗る名は無いが、私は人間族でこの先の東の山から来た。ケンタウロス族に育てられてきたが、この度ケンタウロス族の山が人間族に襲われてな。命からがら逃げて来たのだ。」

人間族なら人間に保護されるのではないだろうか。それに人間なら説明のつかないことがある。

「あなたは流儀が使えるんですか?」

エコーがクゾーの疑問を代弁するように質問した。

「普通人間は流儀が使えないらしいが、私は人並み外れた怪力や、頑健な身体、水の上を歩いたりもできる。」

「聞いたことがない事例ですね。人間であることを差し引いてもそんな流儀の組み合わせなんて。」

クゾーはそこで思ったことをぽつりと呟いた。

「まるでヘラクレスみたいだな。」

全員の視線がクゾーに向く。しまった。説明が面倒になる。クゾーは後悔した。

「なんですかそれは?」

「いや神話に出てくる英雄なんだけどさ。境遇がこの子に似てるんだよ。」

この場で元の世界の話など持ち出すべきではなかった。少年を混乱させるかもしれない。

「うむ。ヘラクレスか。なら私の名前はそれだ。」

少年はいともあっさりとそう言った。

「名前を今決めるの!?」

「呼び名がいるだろう?英雄の名前ならばちょうどいい。」

なんて豪放磊落な。そういえば神話のヘラクレスもかなり行動力のある人物だったな。とクゾーは思った。


10話へ続く。


読んでいただきありがとうございます。

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