『運命王』
王国の城内には王に謁見するための大広間があった。そこに鎮座する国王の背後には、豪奢なステンドグラスがあり、深夜にもかかわらず祭壇に炊かれた火で昼間のように明るく模様が映し出され、王の威厳を高めている。
「…以上が此度のオーク討伐の戦果であります。これにお持ち致しましたものが焼け残った左腕です。」
王はあまり興味も無さそうに目の前に差し出されたオークの腕を見ていた。
「ご苦労だったな。この腕一つ見てもお前の剣さばきがこの目に見えるような見事さよのう。」
「お褒めにあずかり大変恐縮です。それも国王より賜りました雷撃剣の威力によりますもの。」
褒められながらも 王を持ち上げることは欠かさない。この政治的バランス感覚がオーギュストが隊長として国王に重用される所以である。
「いやいや。あれを使いこなせるのはお前くらいであろうよ。今夜はもう休め、それとも酒でも飲むか?」
「いいえ。これから兵士たちとミーティングがてら軽い祝宴を致しますので。」
「そうか。だがほどほどにしておけよ。」
オークの左腕を指でさすりながら王は言った。
「ではこれにて失礼致します。王もお早くやすまれますよう…。」
「のうオーギュスト。余はお前を信頼しておる。お前は優秀なだけでなく野心家でもあるからな。他の幹部共は余に媚びを売るばかりよ。このようにオークの腕など手土産にはできまいて。」
「もったいなきお言葉。他の幹部連中は皆騎士というより政治家ですからな。我が弟のカスティーヨなどは反対に武芸しか脳の無い男ではありますが…。」
オーギュストは苦笑した。義弟のカスティーヨの事は信頼しているし彼も兄を尊敬しているが、脳みそまで筋肉なタイプの武人であった。
「あれはオークに近いな。此度のオークと戦わせたら面白いかもしれん。」
「オークを狩るには知略に尽きますよ。では部下が待っていますので。」
「引き止めて悪かった。ここ数日は雨が続くぞオーギュスト。風邪など引かぬようにな。」
御意。と一言言い残し オーギュストは広間を後にした。大広間には、王だけが残った。
「この腕…雷撃剣を使ったと言っておきながら、傷口が焼けてもいないではないか…。」
腕をまじまじと見ながら王は笑った。
「欲もあるし嘘もつくのが人間の面白さというもの。それにしてもあのオーク…なかなか数奇な運命を送ってきたのだな。」
王はゆっくりと広間の出口に向かって歩いていった。
「全ての運命はこの『運命王』の物。」
「あの王様は果たしておいくつなのだろうな。」
オーギュストは会議室までの道中で側近に尋ねた。
「さあ…何せあの方は10数年前に前政権を倒した際の主導者で、元は一介の出自も分からない兵士にすぎませんからね。その頃から少しもお姿は変わられない。少なくとも40歳くらいではあるはずなのにまるでついこないだ成人したばかりのようなご様子でいらっしゃいます。」
側近は初老の背の低い男だった。オーギュストは訝しげな顔のまま続けた。
「俺もその折に王から騎士団長に任命された身であるし、この10数年でこの国のみならず人間の歴史を50年は早めた功績は全国民が認めることであろう。しかしあの方は腹が見えぬところがある。」
まあ良いか。とオーギュストは会議室へ急いだ。今夜は対オーク作戦についてじっくり確認せねばならぬ。
あの忌々しいクゾーとやらを討つ為に…。
9話へ続く
読んでいただきありがとうございます。
次からは第2章といった区切りになります。
※サブタイミスってました。すいません