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とくぞうはあたらしいわざをおぼえた!

クゾーの流儀。それはオークの流儀とは違う大国徳三としての人生を体現した流儀。

「なんのマネだ!往生際の悪い!そんなに死にたければ望み通り今すぐ葬ってくれるわ!」

騎士団長はいきりたちクゾーとリリアムに斬りかかる。しかし、剣先はそこで止まる。

「なっ…?」

気がつけば薄緑の光がクゾー達を包み込んでいる。騎士団長は動揺を露わにした。

「バカな。貴様何をした!」

どの兵法書を紐解いてもオークがこのような術を使うとは書いていない。

「エルフ族の仕業だな!?」

「俺だよ。こんな隠し球があるならリリアムさんが出し惜しむものか。」

クゾーの顔にはもはや疲労や痛みや絶望は皆無だった。

「お前なぜいきなりこんな技を!ここに至って…。」

「出し惜しみは良くないってお前が言ったんだろ。とっておきを出したのさ。」

本当は今思いついたんだがな。とクゾーは心の中で続ける。

(おのれ豚ごときがこの俺を…だが戦いは常に不測の事態が起こりうるもの。見た所あれは盾。なら回り込んで…。)

「おい貴様ら!」

騎士団長の呼びかけに応じて兵士たちがクゾーの背中を襲う。

「随分やってくれたよなあ…だが今度は俺の番だ!」

クゾーは背後に右手をかざした。するとそこにも光の壁が現れ、兵士たちは跳ね返された。

「ただのゆりかごじゃない。生まれた時から戦闘種族のオークのゆりかごなんだぜ。少々荒っぽいんだ。」

騎士団長は驚きを隠せなかったが、それでも後ろを振り返り、指示を出す。

「おい何してる!矢を浴びせろ!鍵爪を打ち出せ!」

「よそ見すんじゃねえよ!」

クゾーは巨体に似合わぬ俊敏さで鍵爪を引きちぎり、騎士団長の顔面に光の壁を叩き込んだ。

「ぐはあっ!!!!」

「お前は!ここで!死ね!死んでいったオークや他の種族の命や誇りの重さの分、その身に受けろ!」

騎士団長に連撃を見舞う。もはや形成は完全に逆転した。

(…やむを得ん!騎士団に敗北は許されん!)

騎士団長は素早く身を翻し、クゾーの攻撃から逃れた。そして全軍に向かって叫ぶ。

「これ以上の消耗は無意味とみなしこれより戦術的撤退する!!これから森でのフェアリー狩りに切り替える。」

手ぶらでは帰れないというわけだ。クゾーは全員叩き潰さねばならないと思ったが、そこまでの体力はもう残っていない。

「させませんよ。」

と言うとエコーが慢心の力を込めて甲高い声で叫んだ。不思議なことに、その声はクゾーやリリアムには全く聞こえなかったが、周囲の兵士たちは半数以上が倒れ、耳から血を噴き出す者もいた。

「おのれ…フェアリー族が攻撃してくるとは。」

とっさに耳を塞いでいたあたりは流石に騎士団長である。エコーは声を枯らしながら言った。

「…妖精流儀…パニックスタンです…。」

今のはエコーの流儀だったのだ。

「くそが…おのれ許さぬぞたかがオークにこのオーギュスト騎士団長が…貴様名を名乗れ!我はオーギュスト=フィリップス!王国の騎士団団長である。」

「俺はオーク族のニート・クゾー。''高潔の”クゾーだ!」

「その名忘れぬぞ…必ずや貴様の首をとる!王国騎士団をコケにされた恨みは100倍にして返してくれるわ!」

オーギュスト達は逃げ帰って行く。その姿からは微塵も威厳は感じられない。

「たく戦いに死ぬのが騎士の誇り云々言ってたくせにな…。」

クゾーはふいにめまいを感じた。ここまでの戦いで相当疲労が溜まっているらしい。気がつけば満身創痍だ。左腕に至ってはオーギュストが持ち去って行ってしまったようだ。

「クゾーさん!」

リリアムがクゾーにすがりついている。恐怖から解放されたせいか、目には涙を溜めていた。

「ありがとうございます…あなたの勇気と流儀が無かったら今ごろ私たちは…。」

「いや、そもそもの原因は俺ですし…。」

「きっと遅かれ早かれ人間の軍勢は来ていましたよ。」

先ほどの枯れた声ももう回復したらしく、エコーがいつもの調子で言った。

「これでメンツを重んじる騎士団もしばらくここには来れないでしょ。それに、正義と高潔のオーク、ニート・クゾーがいるとなればなおさらね。」

エコーはからかうような視線をクゾーに向けて言った。

「これは当分クゾーさんにはここに残って貰わないと。」

「ええ!?いやそんな…今度来たら勝てるかわからないよ!それに迷惑だし…。」

「何が迷惑な物ですか!それにその左腕、再生するには私がそばについていなければ!」

「治るのこれ!?じ、じゃあもうしばらくだけここに残ります…。」

こういう場面で唇の1つも奪えない辺りがクゾーのクゾーらしいところである。

「ええ。若いオークなら二三日もあれば。」

「残念ながらもう40歳の立派な中年なんですが…。」

「それは人間の暦で言うところの40年ですよね?人間以外の種族にとってはものすごく若いですよそれ。」

「そうなの!?じゃあリリアムさん達は…。」

「森が産まれてから。」

「私は300歳ほどですが…エルフ族は成人してから1000年ほどは若者の姿なのが普通なので。オークも似たようなものです。」

クゾーは開いた口がふさがらない。すっかり自分より年下だと思っていた。

「年上で、美人で気立てが良くて、ずっと綺麗なままですよ。理想ですねクゾーさん。」

エコーがニヤニヤしながらクゾーに囁きかける。

「何を言い出すんだ何を!」

クゾーは赤面しながらエコーを追いかけ回す。

ともかくこれで、森の平和が保たれたのであった。


オーギュスト隊はようやく森の出口まで辿り着いた。兵士はみな負傷しているか疲弊している。

「騎士団長より全軍に告ぐ。この度のオーク討伐作戦は、この先何を聞かれようとも「騎士団の勝利であり、オークの身体の大部分は王国最新鋭装備により焼失した」と伝えよ。騎士団に敗北は許されん。これもまた戦士の務めよ。」

仰せの通りに!と全員が揃って返事をする。

「うむ。皆今夜は疲れを取られよ。王からの恩賞もあろうが、俺からも皆の労をねぎらうとしようぞ。指示は以上だ。では城へ帰るぞ。」

オーギュスト隊はまた進軍を始めた。兵士たちもまた、自分たちの敗北を知らしめる気など無かった。

(このような改竄は騎士の習いに反するが…隊長ともなれば王に処罰され国民に糾弾されるであろう兵士たちの為に気を使わねばならぬ。それにしても…あの忌々しいオークめ!フィリップス家の誇りにかけても血祭りにあげてくれようぞ。)

森の平和は束の間の物になるであろうことは、今現在のクゾーの知らないところであった。


8話へ続く。


neat=綺麗好き

です一応。

いつも読んでいただきありがとうございます。感想募集してます。

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