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とくぞうはどうする?→たたかう

クゾーは決して戦闘のプロではない。加えて元来不器用で武器も斧のみでは、いかに体格差や流儀があろうとも勝てる見込みは少ない。ならば、相手の不意を突く事で一気に勝負を決するのが得策。クゾーはそう考えた。

「うおおおおお!!!!」

あいつらが憎い。殺してやる。戦闘は楽しい。オークとしての流儀を引き出すことを考え、斧を振るう。しかしそこは素人。何人かに傷を負わせる程度にすぎない。

(くそっ!反撃の隙を与えず連撃!!)

怖気付かないだけ大したものかも知れないが、斧の攻撃が兵士たちに剣でいなされてしまう。

「何をしている!さっさと間合いを取って作戦行動に移行しろ!」

兵士とクゾーの間に騎士団長が割り込む。すかさず周りの兵士はクゾーから離れる。

「その間は俺が引き受ける!」

おおう!!!と1度はクゾーに驚いて動揺した軍勢の士気が一気に上がる。大振りの片手剣の一撃は他の兵士たちとは一線を画する威力だ。

「雇われオーク。いや飼いオークか?先の殲滅作戦から逃げのびたのかいなかったのか知らぬが、エルフに匿ってもらうオークなぞ聞いた試しがないぞ。」

「黙れ!!!何故他の種族を襲ったりした!」

余裕のある表情を崩さず騎士団長が答えた。

「何を言うか豚め。それはお前らが先であろうが。我らがお前らを殲滅するまでどれだけの者が被害に遭ったか。」

オークが人間を襲っていた?確かにいわゆるオークのイメージそのものではある。

「耳を貸さないでください!まず人間がオークの縄張りに立ち入ったのが原因で、殺してしまったのは多くが人間のオーク狩りに抵抗してのことです!」

エコーが叫ぶ。元よりクゾーにとっては同種族と言えどオーク族の敵討ちというつもりは元よりあまり無い。許せないのは明らかに戦えない種族を襲った事だ。

「それより気をつけてください!こいつら何か企んでます!」

言われてみればさっき「作戦行動」とか言っていた。辺りを見渡すと兵士たちはこちらに向けて何か筒を構えている。

(やばい!何か来る!)

クゾーは反射的に逃げようとするが、遅すぎた。

「全軍構え!てぇっ!」

唸りをあげて筒から鉤爪のついた鎖が射出される。それらがクゾーの足に刺さり、反対側を地面に打ち付けると、瞬く間にクゾーは身動きが取れなくなった。

「弓兵構え!放てぇっ!」

その後クゾーに雨の如く矢が降り注ぐ。クゾーは痛みに絶叫し、ただ身を屈めるしかできなかった。

「よし!やめい!」

騎士団長が指示を出すと、弓兵が矢を放つのをやめた。

「よしよし。貴様ら首を取るのは俺に譲れよ。」

勝ち誇った表情で騎士団長が近づいてくる。

「一匹で我らに立ち向かった勇気に敬意を表して俺が自ら首をとってくれよう。後で剥製にして国王陛下のお城に飾ってやる。光栄に思えよ。」

大剣をクゾーの首元に振り下ろす。クゾーは左腕で頭を庇うのがやっとだった。大剣の切れ味は意外にも鋭く、肘から先が地面に落ちた。

「まだ動けるとは。やはりオークだけあってタフだ。この腕は俺が頂けるかな。」

クゾーはもはや痛みも感じない。俺は何をしているんだ。こんなところで、オークとして人生を終えるのか?実感が湧かない。何もできなかった。流儀を持っていながらただの人間に押し負け、世話になったリリアムさんも守ることができなかった。

(結局いつもそうなんだ。自分のこともままならない分際で、人の事に首を突っ込んでも俺自身もその人も傷つけるだけ…。だから友達も恋人もいない。)

「やはり出し惜しみすべきではないな。性能の検査がてら新装備を使うか。」

騎士団長はそう言うと兵士に新しい剣を持って来させた。

(俺はここで死ぬ…何だったんだろう俺の人生って…何者にもなれぬまま。誰かと心を通わすこともないまま。遊びもせず、真剣でもなく、ただ真面目の仮面を被ってひたすら人に言われるままに動くだけ…)

「よしオークよ待たせたな。今度のは一太刀でお前を絶命せしめるから心配要らんぞ。」

「待ってください!」

リリアムがクゾーの前に立ち塞がる。

「邪魔だエルフ。その死に損ないごと叩き切るぞ。」

「私が王国に下ります…一生国のために働きますからどうかこのオークの命だけは…。」

「エルフ族の慈悲という奴か。分からんな。そもそもそんな交渉に応じなくともオークを片付けたのちにご同行頂くというのに。」

やめてくれ。あなたにそこまでしてもらう理由がありません。なんとか最後の力で時間を稼ぎますから逃げてください…。

(ダメだ。声が出ない…)

「交渉の材料ならあります。エルフ族が墓場まで持って行く秘法をお教えします。」

「我々に口を割らせる方法が無いとでも?これ以上は警告しないぞ。」

ここまで誰かに気にかけてもらえるなら、死ぬ前に思い残す事はないのかもしれない。こんな気持ちになった事は今までに、いや、遠い昔に母がいじめっ子達から庇ってくれたような感覚だ。ああ、母さん。俺を女手ひとつで育ててくれた母さん…。母さんが望んだ大人に俺はなれなかった。ただ幸せにと願って育ててくれた母さんのそんな願いすら叶えられなかった。ただ人が良いだけの救いようのない意気地なし。意識が遠のく中で昔の記憶が蘇る。母さんが寝床で絵本を読んでくれている。

(桃太郎は立派な若者になりましたとさ、めでたしめでたし。)

(『立派な若者』って?)

(真面目で優しくて強くて、弱い人を守ってあげられるような、かっこいい大人のことよ。)

(じゃあ僕も立派な若者になる!)

そうか、俺の原点はここなのか。それが俺の目指したもの。物語の勇者はどれも立派な若者だ。それに憧れて、ここまで人に迷惑をかけず、不正も働かず、言われたことを真面目にやってきた。そんな生き方は人と本当に心を通わす事は叶わず、今目の前にいる男のような連中からしてみれば、騙したり虐げたりするのには絶好のカモだ。

(だがそれでいいんだ。良くないはずはない。自分の信念のままに生きてこられたなら、この40年はムダではなかったんだ。)

「警告はしないと言ったがひとつこの武器の性能を教えて差し上げよう。雷神より賜りし雷を纏う剣だ。」

騎士団長が剣を抜くと剣が紫電を纏った。

「ならば私諸共お切りください。野蛮な者に付き従うならいっそ死ぬのがエルフの誇り。」

(流儀がそのものの存在理由なら、俺は『真面目に正しく生きること』それこそが存在理由。それに加えてオークの流儀を『守る』ただ一点に集中させ新たな流儀を、大国徳三としての流儀を産み出す!でもそんなことができるのか…?)

(できるかでない。やってみろ。)

突然クゾーの頭の中に声が響いた。強く、優しい響き。それでいて有無を言わさない厳格な…。

「…暴獣流儀…Orc-Cradle!!!!!」

森にクゾーの声が響いた。


7話へ続く

いつも読んでいただきありがとうございます。

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