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とくぞうは、えんでぃんぐをむかえた!

オーギュストは既に主神の姿を知っていた。自分が主神になる時期を早めたくなった場合現主神を殺す必要があるためエインセルに情報を集めさせていたのだ。だから、今目の前にいる2人の者の内1人は主神であるとわかっていた。もう1人はまるで知らない顔だったが、それでもこの戦いに介入して来る以上不確定要素は排しておくべきだと武将としての本能が告げていた。


「何者か知らんがしゃしゃり出てきおって」


オーギュストの槍はその者に突き刺さった。しかし、その者は消滅する事無く、槍の方が霧消していった。


「やはり私が産み出した者でなければ我が流儀の効果は及ばないようだな。槍を止めようとしたが無理だった」


「まあどの道死ぬ事は無いしな。今お前を殺すメリットは無いだろうが、一応下がっておけ」


オーギュストは主神と一緒にいる男の正体を分析する事にした。主神と対等に会話しており、自分の槍でも死なない。加えてエインセルが生き返っている。


「お前……冥府の神だな?原始の三神が何の用だ。主神の決定した事には不干渉を決め込むと思っていたのだがな」


「生憎俺は2代目でな。原始の三神の意向と俺の行動とは何の関係も無い。それに主神様は考えを変えたみたいだぜ?」


オーギュストは一瞬驚いたがすぐに何時もの自信満々な表情に戻った。


「は!主神様の気まぐれにも困ったものだ。この地上を平定させる支配者として無個性ですぐ死ぬ種族を作っておきながら、自分が飽きたら捨て置くか!自らの死を前にしてご乱心なさったかな?」


そう言ってオーギュストは主神に嫌味な視線を向けた。主神は目をそらすことなく無表情を貫いている。


「そうじゃない。主神は気付いたんだよ。俺の父親が見てきた世界、人間のみになった世界がどうなったか。結局それぞれの個性を主張し合う事は止まず、争いあって崩壊寸前……まさに人間を作る前に主神が危惧していた通りの、いやそれ以上の事態になってしまっていた……」


「お前の父親……ははっそうか。そうだったのか。やれやれ俺の人生はどこまで神族に引っかき回されるのか!お前あのオークか。随分人相が変わったから気づかなかったぞ。先代の王がお前を排除したがっていた訳だ!全く神族というのは揃いも揃ってクズのような連中ばかりだ!神族を親に持ったというだけでこの世の支配者面をして、我々の事などゴミ程にも思っておらん」


「そんな事お前が言えた義理か?俺は今冥府の神だ……お前が何をしてきたかは知っているぞ。お前の兵士である人工精霊エインセルは人間の身体をベースにしていたな。お前その人間をどうやって手に入れていた」


オーギュストは全く悪びれる事なく答えた


「無論国民からだが?犯罪者、謀反を企てた者、敵国の兵士、人間がベースだと素材に困らなくて助かった」


エインセル兵士はわかっているだけでも数十万はいる。つまりオーギュストはそれだけの人間を手にかけた事になる。クゾーの体は今死者を感じ取る事ができる。犠牲になった国民の事も推測がついていた。


「お前には神である資格は無い。神族というのは絶大な権力を行使するのに相応の覚悟を持ってその座に座る物なんだ。それはこの主神にしたってそうだ。お前が思っているほどこの世は簡単に出来ている物じゃない」


「ほう、俺に神たる資格が無いと宣うか。ならお前達にその間違った世界とやらを正す術があると言うのか?」


「あるさ。全てを失敗し、反省した為政者だから出来ることがな。主神の寿命は俺が伸ばした。こいつはもう一度主神の座に座ってやり直す事にしたのさ」


オーギュストに返答を聞く必要は無かった。なぜなら彼に敗北はあり得なかったからだ。


「なら私はお前達の邪魔をさせてもらうが、それでお前達はどうする?冥神は直接生きている者を殺すことはできないと聞く。さらにそこの主神も私の流儀の前には無力。私は原始の三神の力さえ持っている。神にして神を殺し、海を操る私は今無敵だ。お前達に出来るのは精々私から逃げ回るか冥府に籠る事くらいだ。主神が死なないと言うならそれも良かろう。それでも私はこの世の王にはなれるのだからな!」


クゾーは哀れんだ目でオーギュストを見ていたが、勝ち誇ったオーギュストにはそれは単なる負け惜しみとしか映らなかった。


「お前は周りが見えていない……。将軍としてならそれでも良かったのかもしれないが、神になるならそれではまるっきり落第だな」


オーギュストはそんな何気無いセリフに少し違和感を覚えた。そして比喩としてではなく、自らの周りを見渡した。


「確かにお前を殺したり倒す事は叶わないだろう。だがそれが出来なくてもお前を無力にする事は出来る。この主神と冥神が居ればな」


誰一人としていないのだ。さっきまで周囲にいたエインセルも敵の姿も、そこには全く無かった。


「主神殿、そろそろ終わったか?」


「ああ、たった今を持って2つの世界は1つに融合し、余った1つは冥府になった」


オーギュストは驚愕した。とっさに上を見ると、暗いのは夜だからでは無い。太陽どころか月も星もない。今この場に人がいないのも、この場が冥府になったからであると知ったからだ。


「バカな!この世界ごと冥府に変えてしまうなどと……」


「これで世界は人間と他種族が入り混じる世界となる。そしてお前は永久に生きたままこの冥府にて安らかに過ごすといい」


そして主神は去って行った。今光が漏れ出しているのは、冥府の扉が完全に閉じる前だからである。


(俺はここで永久に過ごす事になるんだな……。思えば本当に不思議な人生だったな。45歳で死んだ人間としての人生の後にこんな世界が待ち受けているなんて……でも世界を救ったのかな?まるで小説の主人公だよな……ただ一つだけ気がかりだな……多種族が生きる世界になれば、相対的に何の個性も持たない人間が、今度は虐げられる側になりはしないだろうか……)


どれくらい経っただろうか。もう冥府の扉も完全に閉じる所まで来ていた。もはや辺りは完全な闇だった。オーギュストはもう一言たりとも発しなくなっていた。生きているのか死んでいるのか確かめる術もない。


(クゾーさん)


ふと心の中に声がした。クゾーは気のせいだと思い無視した。


(クゾーさん、聞こえていると思いますので勝手に話しますね。私です。エインセルです。私は今から冥神の座につきます。私は1度生き返らせて貰った時、先代の冥神様にお会いしました。その時エインセルはそれほど長くは生きられないと言われました。事実、世界の融合に耐える事ができず、私は再び命を失いました。なのでこの命、クゾーさんに報いさせてください)


(でも、いいのか?ここは永遠の孤独しか無い所だぞ)


(いいんです。クゾーさんは私だけでない……他にも多くの人々を救って来たんですから。それに、私は他のエインセル達を弔わねばなりません。無意味に産まれて死んでいった哀れな兄弟達を)


クゾーの意識はそこで途切れた。



クゾーが再び目を覚ました時にはそこは見知らぬ病室だった。


「あ、もう目を覚ましたのね。具合はどう?」


クゾーは声の主を見上げた。金髪が美しい女性である。そして病室にある鏡で自らの姿を見た。赤髪の、人間の少年である。


「森で倒れていたのよ。お名前は?どこから来たの?お姉さんにお話聞かせて。あなた人間族よね?豊かな感情と知性を持ち、美しく興味深いお話や物語をするという種族の。この辺りでは珍しいの」


クゾーはにっこりと微笑み、そしてゆっくりと語り出した。


「俺の名前はー」





深い森の中、木から雫が一つ垂れた。それが洞窟に落ちて弾け、反響音を作り出した。その空気の震えが固まりだし、一つの幽かな存在を作り出した。


「ぴちょん」


その存在は、自らを産み出した音を再現した。それはやがて、翼の生えた小さな人間のような姿になった。


森に、新たな生命が産まれた。












ついに完結しました。

初めての投稿で稚拙な部分も多々あったと思いますが、ご愛読頂いた方には感謝が絶えません

また気が向いたら執筆したいと思います



途中わかりにくくなってしまった所もありますので、質問等は積極的にお返ししたいと思います。

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