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邂逅

主神の邸宅は静まり返っていた。別に従者が必要な訳ではないので、広い家には主神1人がいるのみである。死期が近いとはいえ、神族にとっての自然死とは単なる消滅である。そのため、病床で休むといった行為は不要である。主神は虚ろに庭から外を見ていた。天界の最深部に位置する邸宅の周囲は全く人気が無い。


「思えば死とか消滅とかいった物は私が世界を作る前からあったな」


主神はそう呟いた。誰も聞いているはずがない事だった。主神は自分が死ぬ段になってようやく自分が一人である事に気がついた。別段寂しいという感情は生まれてこなかった。自分がいなくなった世界では一体この世はどうなるのだろうか。そんな疑問が頭をよぎったが、それすらどうでもいいことだった。


「この世の物の量は変わる事はなく、永遠に同じ所には止まらない。ならば死があるのは当然の事だよ」


誰も答えるはずのない呟きに誰かが答えた。主神はそちらを向いた。懐かしい声に思えたからだ。この声は自分の兄ー自ら冥府に下った冥神の物ではないかーしかし、主神の目に映ったのは兄ではなく、見覚えの無い顔だった。兄と同じ黒髪、すらりとした長身で恐ろしく整った顔つき。全ての無駄を排したようなフォルムに、どことなく漂う神々しさ。


「何者だ、お前は」


「前に一度会っただろう?豊穣神と一緒にここへ来たオークさ」


「そんな姿のオークなど作った覚えは無い」


オークという種族はもともと主神が他の種族に力があり大きくて知能が低い者は危険であるという事を学習させる為に作った物だった。姿まで醜悪にしたのは他の種族に外見も美しくあるべきであると意識させるためである。


「それは神になった反動という奴でね。尤も遺伝的にはこっちの姿の方が適切らしいけど」


「遺伝……そうかお前は……。私が実験用に作ったもう一つの世界に送った時の事か……」


主神は全てを察した。目の前の男は兄の子であると。


「お前は伯父って事になるんだな。創造主のお前に親など存在しないだろうから本当に伯父って訳ではないんだろうけどな」


「私を殺しにでも来たか。どのみち私はもう長くないぞ」


「そんな事は分かっている。俺は今や冥神だぞ。俺はお前に、後悔は無いのか聞きたいだけだ。これまでこの世界の創造主であり続け、今こうして死期が近づいている。お前の人生はこれで満足かと問いたいだけだ」


主神はその問いが予想外だったようで、少し目を見開いた。それから少しの間考え込んで、答えた。


「強い者が生き残るのが摂理だと私は考えていた。ならば個体によって差別化が出来ない一種のみが地上を支配するのが最良だという私の判断自体は間違っていなかった。しかしいかに単純で寿命の短い種類の生き物であっても、その中でまた差別や競争がある事は避けられない事だったんだな」


「その通り。俺はあんたが気まぐれで作った世界でその事を学んできた。あんたは全能であっても全知の神ではなかったみたいだな」


「それで?恨み言でも言いに来たか。お前ほど神に振り回された者などいないだろうからな」


「いいや」


クゾーは穏やかに、余裕を持った声で答えた。


「俺なんてまだマシな方さ。あんたらの気まぐれで命を落とした奴もたくさんいる。例えば俺から見て小虫同士の争いなんて目に入らないだろうよ。過ちを犯したのは仕方ない事だ。だがお前は今第3の選択肢を得ている」


「どういう事だ?」


「ここから先はお前の自由だ。オーギュストか、ヘラクレス…あんたの息子か、それとも第3の人物か」




(このままオーギュストを主神にして良いはずがない……だがそうなれば俺自身が主神になる事になる……なら、やるしかないのか……)


ヘラクレスは考えあぐねていた。自分が主神になるなと考えられない。ゲリラ襲撃で王国と戦ってはいるが、それは自分が神になる為ではない。1年前に投げ出した問題に今になって悩まされていた。自分はどうすべきか、それ以前に自分は何者であるか。こんな思いのまま神になどなって良いはずもない。


「あのオーク野郎ならなんて結論出すだろうな……」


ふとクゾーの事が思い出された。それと同時に自分には仲間がいた事も。快活でどこへ行っても仲間に恵まれるヘラクレスではあるが、あの時の仲間ほど自分の境遇と近い者たちが集まっている時は今までに無かった。


「あいつらに会っておきたい」


ヘラクレスは立ち上がって部隊に伝令を送った。程なくして、流浪の民は大移動を始めた。


「オーギュスト様。ヘラクレスが指揮する流浪の民の集団が移動を始めました。王国領外の森の方角です」


エインセルがオーギュストへ報告する。ヘラクレス隊の末端のほんの数人にエインセルを紛れ込ませてあるのだ。


「かつての仲間と合流する気か。ゲリラ戦法など猪口才な手を使ってコケにしてくれたが、今度はこちらがやる番だな」


オーギュストは飲んでいた酒を置いて静かに言った。


「明日の朝1番だ」


それだけで、エインセルへの指示には充分だだった。


34話へ続く


更新遅れて申し訳ないです

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