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とくぞうはびじんエルフとであった!

「これから行く店ってのはどういう所なんだよ。」

クゾーは森の道中でエコーに質問した。

「エルフのお姉さんがやってるお茶が飲めるお店です。さっきも言った通りオークだからって叩きだされたりはしないと思いますよ。」

「思うって…さっきからずっと森の中を歩いてるけどそんな物見えてこないじゃないか。お前人を迷わせるタイプの妖精じゃないだろうな。」

「失礼な。私は足音の反響で森の中でも道がわかります。迷ったりはしません。」

そういうとエコーは前に向き直り飛び始めた。言われてみると確かに何やら音を聞いているようであった。

「お前は飛んでるからいいだろうけどな…こっちは怪我人だぞ。」

とは言うもののオークになってから肉体の疲れはほとんど感じず、筋力も普段とは比べ物にならない気がする。

「ほらほら見えてきましたよ!あの小さな家です。」

エコーが指差す先には赤い屋根の小さな家があり、その庭先には金髪で耳の尖った綺麗な女性が座っていた。

「御機嫌ようエコーさん。今日はまた珍しいお客さんをお連れですね。」

にっこりとしながら挨拶する。その姿ははっとするほど美しく、クゾーは思わず固まった。

(いかんいかん挨拶されただけで惚れるって俺はどんだけ女性と縁が無かったんだ。40年か。それともこれもオークとしての本能なのか。そうだそうに違いない。)

「こんにちはリリアムさん。こっちはオークのニート・クゾーさん。泉のほとりで倒れてたから連れて来たの。」

ニートじゃないちゅうに。そう思いながらもクゾーの方が通りが良さそうなのであえて訂正はしなかった。

「ど、どうもクゾーです。よろしくお願いします…」

「こちらこそよろしくお願いしますね。私はエルフ族のリリアムです。」

百合から来ているであろうその名の通りリリアムは高潔そのもの。クゾーが徳三であった時にも出会ったことのない超美人だった。

「早速でなんなんですけどリリアムさん。クゾーさんは頭を打って傷になっているので治療してあげてくれませんか?」

「まあそれはそれは…ちょっと失礼しますね。」

リリアムがクゾーを屈ませ後ろ頭に目を近づけるので、クゾーの頭がリリアムに抱き抱えられるような体勢になった。

(うわあああなんだこの香り。やばい体が近すぎて胸が…)

クゾーは全く動けなくなってしまった。

「うん。オーク族の生命力ならこの程度私の流儀でなんとかなりそうですね。」

そう言うとリリアムは傷口に手をかざした。すると、手から柔らかな光が出て、それが傷口を包み込んでいった。

「うおっ!?」

クゾーは驚いたがさらに驚いたのは、自分の傷がふさがっていくのがわかったからである。

「はい!もう大丈夫ですよ!」

リリアムがクゾーの頭を軽くぺしっと叩いた。傷口はすっかり元通りの皮膚になっている。

「あ、ありがとうございます。これがリリアムさんの流儀なんですね。」

「はい。光のエルフの流儀は「祝福」です。人を癒したり豊穣をもたらします。」

「あの、是非何かお礼を…」

「いえ、大した事ではありませんから。それよりも、中でお茶を飲んで行かれません?」

リリアムはにっこりと微笑みながらそう言った。人間だったころには考えられなかった事だ。見返りを求められず親切にしてもらうなんて。

「そうですよクゾーさん。さっきの元は人間だったとかいう話もリリアムさんなら何か知ってるかも知れませんよ。」

「でも今俺一銭も持ってなくて…」

「ここではお金でお礼をもらう事はあまりありません。それに今日はエコーの連れて来てくれたお客さんだから、お友達ということでご馳走しますよ。」

ここで断っても行くあても無いし、エコーの言う通りリリアムに相談すれば何かがわかるかもしれない。

「すみません。じゃあお言葉に甘えます。」

「ではどうぞこちらへ。」

クゾー達は家の中へ通された。小さな扉だったがクゾーはギリギリ入ることができた。中は店内というより普通の西洋の田舎風な民家のようだった。リリアムは台所でお茶を淹れている。コポコポという音とお茶の香り、それに店内の雰囲気がとても落ち着く。人を落ち着かせるのもまたエルフ族の流儀なのかもしれない。

「そういやエコー、その流儀って力には何か制限があったりしないのか?例えばリリアムさんは無制限に人の傷を治すことができたりとかするわけか?」

「力だと考えると理解しにくいかも知れませんねえ。流儀を持たない者からするとたいそう特別な力とか能力に見えるかもしれませんが、例えば私たちフェアリー族が他者に干渉するというのはフェアリー族をフェアリー族たらしめているアイデンティティーの一種なのです。」

「はあ。」

クゾーは半分も理解していなかったがとりあえず生返事をしておいた。

「私たちの姿形、いたずら好きや世話焼きといった性質は、全て私たちが「森の生命力が細かく分かれて具現化したものであり、もともとは観測する者がいなければ存在し得なかった」という出自から来ているもので、私の「声を操る」という力もあくまでその一種なのです。つまり流儀というのはその種族の存在理由であるといった側面が強いのです。」

「なるほどな。この世界の生き物が特別な力が使える理由というのもなんとなく見えてきた。それぞれのアイデンティティーを保つ為に必要に応じて身についた力な訳だ。それで制限があるかということなんだけど。」

「ああそうでした。それは流儀の性質によるとしか言えませんね。リリアムさんのような流儀は生命力を消費します。さっきの傷程度なら生きていくのにほとんど影響は無いくらいの量ですけども。オーク族のように常時発動しているような流儀に制限はありませんね。」

先ほどの説明をオーク族に当てはめると、常にたたかいてー女をおそいてーと考えている事がアイデンティティーであるから、常に攻撃性と強い性欲が働いているということになる。クゾーは自分の種族ながら呆れた。その時、クゾーはふと違和感を覚えた。

「待てよ。さっきから俺が言った『人間』という言葉をすんなり納得しているが、この世界にも人間はいるのか?」

「ええいますよ。」

「じゃあ人間にも『人間流儀』みたいな物はあるのか?」

「いえ、人間族は…例外的に流儀を持たない種族なのです。」


4話に続く。

「流儀」はアーツと読みます。

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