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とくぞうはちかいをたてた!

オーギュストが去った後も、森には絶望の色が消えずに残っていた。リリアムは気を失ったまま意識を取り戻さないので、ひとまず寝かせた。そして、全員でリリアム宅に戻ってクゾー達は天界で聞いてきた事、アキレウス達は留守中に起こった事をそれぞれ報告し合った。


「……やはり主神が関わっていたとはね。にしても、そう考えるとやはり王国の王は主神の化身か何かじゃないかな?奴はどこまでも計算し尽くした風だ」


ドヴァは頭を抱えながらそう言った。それに答えたのはエインセルだった。


「それは無いと思うな。確かにあの人は人間族とはどこか違うけど、神族にしてはやる事が回りくど過ぎるよ」


確かに、ここまで王が直接手を下した事は無い。主神ならばその日のうちに全種族を滅ぼす事は造作も無いはずだ。


「確かに、主神は自分では手を下さないとも言ってたな。」


主神はどうも自らの全能の力を人間族繁栄の為には使いたくないようだ。彼はただ摂理のみを信じ、そこに干渉してしまえば人間族の繁栄は永遠の物ではなくなるかも知れないと考えているのかも知れない。


「でも、主神はヘラクレスを人間族の王にするって言ってたんだろ?それなのに奴が王の座に座っちまったら主神の計画通りにならないぞ。そしたら、奴を排除して座を空けるくらいはするんじゃねえのか?」


ダリアがそう言ったが、ドヴァがすぐに反論した。


「そうとも限らないよ。主神にとっては誰が王になっても変わらないのかも知れない。ヘラクレスは誰も王が現れなかった時の為の保険で、主神は今の王が王たるにふさわしいと見なしたという可能性もある」


確かに今のところ主神はヘラクレスを人間の王にする為に何も干渉を加えていない。人間から離れてケンタウロスに育てられたりしていては、一生人間族の王などにはなれないかも知れないにも関わらずだ。


「まあそりゃそうかもな。ヘラクレスは王ってタイプでも無いし」


ダリアが冗談めかしてヘラクレスの方を向くと、ヘラクレスは予想外に深刻そうな顔をしていた。


「お、おいお前もしかして人間族の王になりたいってのかよ?」


「そんな事は無い。だけどな……考えてみたんだ。このまま人間族を攻め滅ぼしていい物かとな。王や主神の言う事に賛同する気は無いが、人間族のほとんどはか弱い民衆だと言うのは本当の話だ。私は半人間としてそんな事が出来るのか、と思ってな……」


ヘラクレスは地面を向きながらそう言った。それは、クゾーも考えていた事ではあった。このまま全面戦争を行う事は、果たして正しい事なのだろうか。それは結局、人間族が今他種族に対して行っている事と同じではないか。


「まあ僕らとて別に殺人がしたい訳じゃないけどね。でも、最終的にどちらが生き残るかと言う選択に迫られればそれは自分達が生きる方を選ばざるを得ないよ」


ヘラクレスを睨む様に見ながらドヴァがはっきりと言う。


「育ての親はケンタウロス。父親は人間族以外を滅ぼそうとする主神。 母親は人間族か……。私は一体何者なんだろうな……」


俯くヘラクレスの表情には、どこか暗く、他の者とは心の距離が離れてしまったような印象を受けた。そして、その感覚は翌朝現実の物となった。世話になった。しばらく自分という物を見つめ直して来る。戻るかはわからない。と、それだけを書き残してヘラクレスは居なくなっていた。


「……いずれあいつと戦わなきゃならない時が来るのかな……」


クゾーは1人で呟いて、テーブルの上に紙を戻しておいた。ふと気がつくと、いつも朝は誰よりも早く起きているはずのリリアムがいない。そりゃそうか。とクゾーは思い直した。リリアムは神族になった影響で昨日もずっと寝込んでいたではないか。少し様子を見ようと、リリアムの部屋を見に行った。中に入る度胸など彼には無いが、なんとなく外からでも見ておきたかったのだ。


「あれ……?」


クゾーは驚いた。部屋のドアが開け放してあり、中には誰もいないのである。もしや彼女の身に何か、とクゾーは家を飛び出した。リリアムは森の入り口辺りに屈んでいた。自分で引き抜いた森の木々を新たに生やしているようだった。緑色の光が手から出るのを見ていると、あっという間に短い木が生えてくる。クゾーが見ていると、リリアムがクゾーに気がついた。


「見つかってしまいましたね。別に隠れてやっていた訳ではないんですが……」


初めて会った時と変わらない笑顔でリリアムが言った。クゾーは何と言ったら良いかわからなかったが、やっと声を絞り出した。


「もう体調は問題無いんですか?」


「ええ、もうすっかり。それより、ありがとうございました。あの時クゾーさんが守ってくれなかったら、神殺しの餌食になっていたでしょう」


クゾーは少し照れた。こういう時、人から無垢な感謝の言葉を贈られた時にどうしていいかわからなかったのだ。


「いや何というか……僕に出来るのはそのくらいで……今まで何度もリリアムさんの流儀に助けられてますし……。その草木を生やす流儀も凄いですね。でも、もっと一気に大木を生やしてしまわないんですか?短い木ばかりみたいですが……」


クゾーは照れが最高潮に達して下手な誤魔化しをしていた。


「ええ。短い木から始めないと日の光が遮られて下草が育たないので。その草を食べる虫たちが生きて行けなくなりますから」


リリアムはそう答えると、屈んで今しがた生やした木にそっと触れた。


「木や草だって分け合って生きていく事が出来るんです。なら、人間族とだってちゃんと共存が出来ると思います。私は今はそう信じています。クゾーさん、私は人間族を殺したくはありません。でも皆が幸せを分かち合って生きる世界を取り戻したいんです。これからも、私達と共に戦って頂けますか?」


答えるまでも無い問いだった。正確には、ヘラクレスの一件で揺れていた自分の心がその問いを聞くうちに落ち着いた。この人の手を汚してはならない。もう泣かせてはならない。クゾーはそう誓った。


25話へ続く


読んで頂いて誠にありがとうございます。


投稿遅れがちで申し訳ないです。

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