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とくぞうはみぶるいした!

クゾーは手から光の盾を出した。さらに、力を込めてその盾を何重にも重ねて行く。


「Orc-cradle……多重防壁!!!」


ついには分厚い壁が出来上がる。そして、ドヴォルザークの正面に立ちはだかる。


「いいぞクゾー!槍の効力は神殺しだけとは限らない。破壊されても大丈夫なようにそうして何重にも重ねておくんだ!」


クゾーはこの時槍の効力を知らなかったが、この場で防御行動ができるのは自分だけで、アキレウスを守る必要がある事は直感していた。


「俺はどうなってもいいのか!てかなんだ神殺しって!?この槍がそうなのか!?」


状況を完全には飲み込めないクゾーは叫んだが、ドヴァはその問いかけを無視して投石器を構えた。


「今説明している暇なんて無い!とにかくお前は死んでもここにいる神族を守り抜け!」


そしてドヴァはドヴォルザークに向けて石を放った。石は散弾のように細かく散らばり、ドヴォルザークに何発も命中する。しかし、いずれも致命傷には至らない。


「は!そんなただの石ころではわしが死ぬ前にこの槍が盾を突き破るぞ!」


「ただの石ころでは、な。」


ドヴァはそう言うと指を鳴らした。それに呼応するように、細かい石の一つ一つが爆発する。その中の一つが、ドヴォルザークが槍を持つ手に付けていた籠手を焼いた。


「ぬっ……!」


瞬間、ドヴォルザークは槍から出る青い炎に包まれた。


「やはりか。その武器は神族でもないお前が扱える物ではないだろう。武器自身に力があっても所有者以外が直接触れてその力を行使すれば、言わば重大な契約違反状態になるのは必至だ。元の神族殺しの力が暴発するって訳だ。流儀の効果を触れた面だけ無効にする籠手なんていう珍品を身につけてるから何かあると思ったが、やはりか。」


それでもドヴォルザークは槍をクゾーに向けて突き出すが、防壁を何枚か破壊するにすぎない。


「ドワーフってのはな。所詮は職人でしかないんだよ。ドワーフ族だけじゃない。種族を支配する権限が与えられた神族でもなければ、いや神族だったとしても、自らの分を超えた高望みなんてしてはならないんだよ」


「知ったような……事を……。奴はな……あの国王は……誰よりも知っていたぞ。知り過ぎていた……知らなくてもいいような事をな……。私は……心から同情したのだ……」


やがてドヴォルザークは力尽きた。青い炎は彼を焼き尽くし、槍を残して消えた。


「……やれやれ。神殺しの槍とは、私たち泣かせの武器を作ってくれたよね。冥界の奈落谷にでも落として来るのがいいだろう」


フレイが槍に近づき、直接触れないように手をかざして槍の下から木を生やした。


皆は安心しきっていた。槍はあれど、それを操る者がいないのだ。しかしそれは一瞬の出来事だった。槍から閃光が迸る。そこにいた全員が思わず目を閉じ、次に開けた時、槍はフレイの身体を貫いていた。さらに、槍を握るついさっきまでは確かに存在しなかった金の6枚羽を持ち、人間を金属部品で継ぎ接ぎした様な異形の者が居るのを、皆は目の当たりにした。


「…………なっ………?」


フレイは驚きの表情を浮かべたまま一瞬で絶命していた。槍は青い炎を出し、フレイを包み込んだ。炎はすぐに消え、次の瞬間にはフレイはいなかった。


「お父様ああああああああああああ!!!!!!!!!」


リリアムが絶叫する。


「何者だテメエッ!!」


ダリアが槍を持つ者に対して叫んだ。それと同時に、エルフの一撃を相手に放つ。


「神族……権限発動。攻撃を……拒否」


しかしその一撃は手をかざしただけで無効にされる。


「まさか……あれは……そうか、人為的に作られた神族が霊装なんて作れる訳がないんだ……僕はバカか!!ならば、神殺しの流儀を持つ神族を槍に封じ込めていたんだ……ドヴォルザークは最初からそれが狙いか!」


ドヴァが歯噛みする。その間にも、異形の者はこちらを見て、手をかざし、何事かを呟いている。


「神族……この場に複数……2体、いや3体……物量的に不利、加えて加工直後の初期不良、撤退が最良と断定」


見た目通りの何とも人間味の薄い喋り方で、それは呟いた。そして、確かにこの場にいる神族を3体と言った。そして、それは翼を広げてそこから立ち去ろうとした。


「待て」


異形の者がその翼を若干止めてその声に反応する。


「エルフ族長リリアム。この時より豊穣神の空席に座す。森、太陽、大地の恩恵を以って、主神の祝福を受けし豊穣の神として神族の樹形図が一角とならん」


リリアムが詠唱を始めると、リリアムの体が光輝き始めた。


(他種族が神族に昇華する所なんて見た事ない、けど分かる!リリアムさんは死んだフレイの代わりに神になろうとしている!奴が言った3体目はリリアムさんか!)


クゾーはただ見ているしか出来なかった。やがて光が消えると、中からリリアムが現れた。見た目こそ見慣れたリリアムの姿だが、圧倒的に違うのは、闘気、覇気、殺気。およそリリアムから感じた事のない気の圧力だった。


(あいつを手を触れずに殺す)


リリアムの心はドス黒い感情に支配されていた。そしてその感情はリリアムに未だかつて無い流儀の使い方をさせた。エルフ族の長であり、今や豊穣神となったリリアムの流儀の権力は自然全般に強力な影響を与え、通常のエルフ族ではあり得ない事までも可能にしていた。


例えば地面に命じて重力で相手を縛る事も


例えばその下から木を生やして敵を貫く事も


例えば虫や微細な生物が仇を食らおうと襲いかかる事も


今のリリアムには造作もない。


「神族……権限……」


異形の神は必死に抗う。しかし、リリアムの命令で自然が行う拷問は、神族権限では無効には出来ない。加えて、森の木々は際限なく襲いかかる。いくらなぎ倒そうとも森が枯れる事は無い。


「……撤退に失敗。自己防衛のため、攻撃元の迎撃への移行が最適と断定。遠距離攻撃用体型、射出型に変形」


異形の神の槍が弓矢の形になり、リリアムへ射出された。


「うおおおおお!!!!!」


クゾーが咄嗟にリリアムの前に出てギリギリの所で矢を防ぐ。矢は防壁を破壊する毎に威力を弱め、半分あたりで防壁と相殺された。その時、リリアムはふっと意識を失った。神族へ昇華した直後で、流儀を使い過ぎたのだ。


「攻撃の停止を確認。速やかに撤退する」


異形の神は去って行った。後には、荒れ果てた森が残った。自らの意思によって生み出されてしまった悲惨な姿がそこには広がっていた。それは、先ほどの異形の神も同じであった。


(あいつ……オーギュストだ……)


クゾーはリリアムを抱き起こしながら、国王の残酷さに身震いした。


24話へ続く







いつもありがとうございます

ちょっと長くなりそうです

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