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アキレウスはやっかいなことになった!

何年か前から、人間族にドワーフ族が加担しているという噂があった。その頃からドヴァはもしや突然行方が知れなくなった前匠長ドヴォルザークではないかと疑っていた。しかし、その時点ではまだ匠長の失踪と噂が出はじめるタイミングが合っていた事による憶測に過ぎなかった。実際に自分の目でドワーフ族が作ったという武器を見ても、それがドヴォルザークの作による物だとは確信はしなかった。ドワーフ族の流儀は求める効果から逆算して材料、工法を直感する事と手先の器用さであるから、ドワーフ族ならば誰でも材料さえあれば作れて当然の物ばかりだったからだ。しかしリリアム宅で気絶したエインセルを見てからは人間族に加担しているのはドヴォルザークだという疑いは確信に至った。他のドワーフと違ってドヴォルザークは直感に頼らず自らの頭で考える事を良しとし、超自然的な物であるドワーフ族の流儀を頭でいちいち解析しようとしていた。その結果、世界の真理や摂理についてまで考えを巡らせるようになり、失踪する直前には精神を病みつつあった。


(彼の回りくどい考え方は全くの無駄とされた。だが実際彼はドワーフ族の流儀の真理に到達しつつあった。精霊を作り出すというのはドワーフ族の流儀を解析しなければ実現できない)


ドヴァは思案しながら森を歩いていた。人工の精霊だというエインセルをリリアムの家に見にいくためだ。この目で確かめねば確証は持てない。単純に好奇心もあり、彼は緊張しながらリリアムの家のドアを開いた。


「邪魔するよ。その人工精霊とやらは……」


ドヴァは絶句した。見ればそこにはアキレウスが2人並んで座り、片方のアキレウスにもう片方がべったりくっついていた。人になりすますとは聞いていたが、何故此の期に及んでアキレウスに変身なぞしているのだろうか。それ以前に、何故この襲撃して来たはずの精霊は何の拘束もされていないのだろうか。


「いやな。こうなったのには訳があってだな……」


開いた口がふさがらないドヴァを見てくっつかれている方のアキレウスが言った。


話はエインセルが気がついたところから始まる。エインセルはひとまず保護されベッドに寝かされていた。その間に戻ってきたダリアが流儀を使ってエインセルから情報を引き出していたのである。


「……は!?」


エインセルは目を覚ました。しまった、撃ち漏らしたならば渡された手榴弾で自害せねば。エインセルは腰の袋に手を伸ばした。


「手榴弾どころかまたぞろ虫が仕込んであったがな。そんなものもうとうに捨てたぞ。」


アキレウスが静かに答えた。エインセルは尚も自害しようとしたがアキレウスは彼女の手を止めた。


「落ち着け。そんな事をして何になる。やっと王国の支配から逃れられたのではないか」


「僕には国王様以外無い!そもそも僕は国王様がお作りになったんだ!その国王様に報いる事が出来無いなら僕に存在意義は無いんだ!いや違う。僕はそもそも存在なんてしてないんだ。そんな僕にやっと国王様が存在をくれたのに!」


「意味がわからんな。お前はそこにそうして存在しているではないか。自分の存在なぞ自分以外の誰が決めるものでもないではないか。」


アキレウスは静かにそう語った。しかしエインセルはまだ目を血走らせている。


「黙れ!お前らに同じ種族の仲間がいない苦しみが分かるか!」


「わかるさ。私とて同じだ。私も誰にも理解されなかった。大抵の人間からは化け物扱いよ。しかしそれでもな、私の育ての親のように奇特な人もいるんだ。あの人達曰く種族が違えど家族になれるんだと。幸いここにいるのも相当奇特なエルフさ。オークでも神族でもなんでも家に入れるお方よ。」


「あのさ、横から口挟んで悪いようだけど、私の流儀は根っからの悪には悪を助長させるだけになるんだよ。お前、他の人間や種族にもなってたんだろ?だったらお前があの国王みてえに心底悪とは限らねえし、私の流儀でべらべら本当の事を喋ったって事はお前はお前の思う正しさつてのが国王とは無関係にあるんだよきっと」


ダリアがそう言い終わると、エインセルは静かに泣き出し、やがてそれは号泣に変わった。アキレウスは優しくその肩を抱きしめた。


「それで、エインセルちゃんはアキレウスさんの事を好きになっちゃったらしくて。姿を真似てるのは愛情表現みたい」


リリアムが説明に補足する。そうしている間も、エインセルはアキレウスの胸に頭を擦り付けていた。


「ええい離れろ!鬱陶しい!」


「ダメですよ。自分という物を持つなら自分の好きな物をよく知らなければ。さあ私に教えてください。アキレウスという人を」


ドヴァは呆れ返った。これが神族の血の為せる技だろうか。敵まで手なづけてしまうとは。




「エインセルが寝返ったか。まあまた作ればいいしな。ドヴォルザーク」


王はまるで見ていたかのように傍のドワーフにそう言った。


「簡単に言ってくれるな。あれを量産するにはまだまだ生贄が足らん。虚無を加工する技術は解明したがどうしても雛形は必要だからな。」


「あれだけ用意してまだ足りないのか。そろそろ感ずく奴らが出てくるよ。」


「まあそんなものわしが例のオークの首でも持って来ればまたお前さんへの賛辞で塗り替えられるじゃろ。ついでに化け物人間のもな」


王とドワーフ族はあくまで対等な関係で話している。


「おいおい。何もお前が直接行かなくても」


「いや、作った以上はわしが行かねば。人間に持たせたところで慢心を招くだけよ。先の兄弟のようにな」


ドヴォルザークはフィリップス兄弟の事を言っていた。王は苦笑して言った。


「あいつらもあれで必死なのだ。そう言ってやるな。それよりオーギュストと何やら作戦について話し合ったようだが?」


「ああ、その事ならちゃんとやっておいたぞ。あの男意外と役に立つ存在になるかも知れん。では明日の朝出かけるからな」


ドヴォルザークはそこまで言うと部屋から出て行った。王は何かを察したのか1人大笑いをしていた。


21話へ続く



更新遅れてすみません。

ご愛読感謝します。


もうちょい続きます。

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