とくぞうはあやしいおとことであった!
リリアムは朝からそわそわとしながら家中を片付けていた。
「リリアムよ、何故そんなにバタバタと片付けなんてしているのだ?」
ヘラクレスは朝食を取りながら尋ねた。リリアムは手を動かしながら答える。
「はい、最近の人間達の動きは私たちにはまるでわからないことだらけです。ダリアの事もありますし。それでお父様を呼んでお知恵を拝借しようと思いまして。」
ダリアは時折うわ言のように何かを呟いたり、そうでなければ虚空を見つめていた。
「へえ。そのお父様というのはやっぱりエルフ族なの?」
パンを齧りながらクゾーが言う。
「いいえ。エルフ族というのはそもそもフレイという豊穣神の使いなので、私たちを作ったのも豊穣神フレイなのです。」
「天界アルブヘイムまで声を飛ばすのは骨が折れました…。」
朝からエコーが静かなのも合点がいった。なるほど父親をもてなす為に家の掃除をしていたという訳か。とクゾーは納得した。
「昨日の夜に連絡しましたので明日の朝までには来てくださると思いますが…。とにかく来る前に片付けておかないと。」
「それは面倒をかけてすまないねえリリアム。だが父と娘にそんな気遣いは無用だ。もういいからかけてくれたまえ。」
突然リリアム宅に痩身で美形、黒髪で長髪のラフな服を纏った男が現れた。しかもそいつはリリアムの身体に絡みついている。
「うわあああ!!お父様!!?昨日の今でもういらっしゃるなんて!」
「雷神の使ってる戦車を拝借して来た。久しぶりに会う娘からの誘いだぞ?ちんたらユニコーンなんぞで来れるか。ふむ。体型は変わってないね流石リリアムちゃん。」
その場の全員が呆然としている。この男が豊穣神フレイなのだろうか。なんだか神族という感じからはかけ離れている気がする。
「それはそうと随分手酷く森をやられたんだね。来る時に治しておいたから。ついでに花も咲かせといた。」
窓から外を見ると森に花が咲き乱れている。昨日あれだけ燃えてしまったと言うのに。
「どうやらアレが豊穣神ってのは本当みたいだな…。」
ヘラクレスがつぶやくように言った。
「ありがとうございますお父様。それで、そろそろ本題に入ろうと思うのですが…。」
「ああそうだったねリリアムちゃん。じゃあまずはダリアちゃんの方からだね。」
フレイはダリアの頭に手をかざす。するとリリアムと同じような緑の光がダリアを包んだ。
「人格と一部を除いた記憶は何とか残ってる。本体を殺しもせずに虫でここまで的確な施術はなかなかできないよ。向こうにも相当な使い手がいるな。」
フレイはそう言うと手に力を込めた。光が一層強くなり、ダリアは目を閉じて眠ったように意識を失った。そしてしばらくすると目を開け、目の前のフレイを見つけた。
「お父…様…?」
「やあダリアちゃん。久しぶりだね。」
ダリアは心底驚いた顔をして、それから目に涙を浮かべた。
「お父様…もう会えないものかと…ここはどこ?地下の洞窟ではないの?なぜ私はここに?」
リリアムもまた安心したのか目頭を赤くしている。
「ダリアお姉様…ここは地上の私の家です。お姉様は人間族に脳を破壊されたのです。それでお父様に治して頂きました。」
リリアムの優しさでか、ダリアが人間と結託して襲って来た事は言わない。どのみちその記憶も消されているだろう。
「リリアムも…お父様。本当にごめんなさい。私お父様の気を引きたいばかりに人間を誘ったりして…あげく私はその人間を…。」
フレイはにっこりと笑う。
「もういいんだダリア。私も少しお仕置きが長かったね。もう光のエルフに戻っていいんだよ。」
ダリアは滂沱の涙を流し、フレイに抱きついた。フレイは優しく抱きとめ、また手をかざした。するとダリアの髪はリリアムと同じ綺麗な金髪に戻った。
(父親の愛か…俺には無かった物だな…。)
クゾーはしみじみとそう思った。
「良かった…戻って来てくれて…。さあダリアちゃんも元に戻った所でもう一つの本題に入ろうか。こっちは一筋縄じゃ行かないだろうけど。」
フレイはリリアムに向き直ると真剣な顔つきになる。
「人間族の最近の動き…だよね?」
そこで昨夜リリアムのベッドに入るなり眠りこけてしまった女の子が起きてきた。
「なんだ騒々しい。また敵襲か?」
お前が襲撃して来たんだろうが。とクゾーは思った。フレイは女の子をまじまじと見ながらリリアムに尋ねる。
「リリアムちゃん。度々脱線して悪いんだけど、この子はどうしてここに?」
リリアムは不思議そうに答える。
「はあ。この子も実は昨日森を襲撃して来た人間なのですが、途中で考えを改めたらしくて。悪い子ではなさそうなので匿いました。」
「こんな偶然なんてあるものかな?こっちの子を見た時も思ったけど。」
フレイはヘラクレスを見る。
「あのお父様この子達は一体どういう…」
フレイは間違いない。と呟いてからこう答えた。
「主神殿と人間の間のご子息と、海神殿と人間の間のご子息。同じく神族と人間族のハーフがここに同時にいるだなんてさ。」
16話へ続く
15話まで読んで頂きありがとうございます。
そろそろお話が動いて来ます。




