神に呪われし種族
大雨の中槍とったカスティーヨはその槍を自分の腹に突き刺した。あまりの事にドヴァは動けなかった。
「くはぁ!!!!ぐっ…!!」
ドヴァは咄嗟に道具を使って治療をしようとしたが、カスティーヨがそれを止めた。
「手を出すな…もう無駄だ。いかにお前の術でもな。」
ドヴァは訳がわからないという顔をしてカスティーヨを見ていた。
「見たか…これが人間という種族よ。知恵でも力でも他の種族に及ばない、その為に他種族と戦えば死ぬしか無いか弱い種族だ。だが人間の歴史とは、天敵によって滅ぼされようとする度に皆で力を合わせて生き残ってきた歴史だ…そしてここまで来て、ようやく人間が全ての種族の王になるための一歩を踏み出したのだ…我は1人ではない。必ずまた人間の誰かがお前達を滅ぼすだろう…。」
「でも人間以外の種族は他の種族をみだりに襲ったりしない!僕は人間の争いを好む心理がわからないよ!」
カスティーヨはふっと笑みを浮かべた。
「それこそ強者の余裕なのよ。常に拡大を続けねば滅びへ向かう…人間とは…そういう…弱い…神に…呪われた種族だ。」
カスティーヨは息絶えた。ドヴァは黙ってその亡骸を見つめていた。かけてやる言葉も人間を弔う術もドワーフ族のドヴァにはわからなかった。
リリアムの家の前ではダリアがいたぶられていた。闇のエルフであるダリアの洗脳流儀は長い時間を必要とする。よって彼女はほとんど無抵抗で殴られている。
「そろそろ死ぬんじゃないかこいつ。」
ヘラクレスは白眼を剥きかけているダリアをつんつんとつついた。
「いや狸寝入りかもしれん。ついでにこのまま拷問して王国の意図でも聴きだすか。」
女の子は可憐な見た目に似合わない残酷な発言をしての指の骨を折ろうと3本指でダリアの人差し指を挟んだ。
「ああああああああ!!!痛い痛いやめてやめて!!!わかったから!何でも話すから!リリアムこいつを止めて!お父様に謝ってもうあなた達に危害は加えないから!」
ダリアは情け無い声を出してリリアムに懇願する。もはや王国に義理立てする理由も無いし、頃合いを見てまた王国に寝返ればいい。と彼女は考えていた。
「本当ですね?逃げない様に注意して離してあげてください。そしたらすぐに王国の意図を話してダリア。」
女の子は腕を掴んだままダリアの指から手を離した。ダリアがふーっと息を抜き、油断させるため少しくらい本当の話をしてやるかと思ったその瞬間だった。
「え?」
突然ダリアが身に着けていた袋の中から長い針を持つ異形の昆虫が飛び出しダリアの額を貫いた。
「いやー危ない危ない。持たせておいて正解だった。やあ君達。こんな形ですまないが、私は人間族の王だ。よろしくお見知り置きを。」
その虫は喋り出した。全員がその光景に驚愕する。
「なかなか思い通りに行かないもんだね。絶対やり遂げると言っておきながらもう2度も失敗してる。その上もう用済みのこの女に王国の機密まで喋られてはたまらない。」
誰も驚いて声も出ないというのに王は一人で喋り続ける。
「うん?君たち何を驚いてるの?こんなの闇のエルフが使う躁虫術じゃない。手を出せるのはここまで。この虫の寿命はもうすぐ尽きるし、人を殺せるほどの物でもない。その女も脳の一部を破壊しただけさ。流石のエルフも脳の再生はできないよね?自然治癒しない部位だもの。」
ヘラクレスは虫に向かって叫んだ。
「何故他種族を襲った!!」
王は虫越しでもわかる笑みを浮かべながら答えた。
「まあ建て前は人類の繁栄かな。本音の方は残念だけどまだ言えない。そして君たちがそれを知ることは無い。ああでも安心していいよ。しばらく君たちの森はそっとしておくから。君の所のオークは私にとってもとても重要なんだ。」
「クゾーが?あの男がお前と何の関係がある!?」
「何でもかんでも答えられる訳じゃないよ。一つ言えるのは彼の強さ、その一面だけでもまだまだ君たちは何もわかっていないはずだよ。おや、そろそろ時間か。では失礼するよ。今度は顔を付き合わせてお話しがしたいね。」
虫が小さく爆発した。後には何も残らなかった。
「うーん。あ!リリアムだ。ねえダリアおねえちゃんとあそぼう?」
まるで幼児のような物言いがあまりにも気味悪く、リリアムはその場で嘔吐した。
「どうしたのリリアム?きもちわるいの?いっしょにおとうさまのところにいこう?おとうさまはどこ?」
ダリアはリリアムの身体を揺すっている。その光景を見ていた女の子は自分がいかな外道に与していたかを思い知り怒りに身を震わせた。ヘラクレスがそっと女の子の肩を抱いて言った。
「潰すぞ。あのふざけた王の国を。」
15話へ続く。
読んでいただき誠にありがとうございます。
一話を若干修正しました。