とくぞうはどうする?→にげる
「闇のエルフ…?じゃああなたは!」
その人物はフードを脱いだ。
「久しぶりねリリアム。お父様が私をアルブヘイムから放逐して以来かしら?」
リリアムは呆然と立ち尽くしている。
「ダリア!あなたどうやってここに!?」
ダリアはニヤリとしながらリリアムの所へ一歩一歩近づいていった。
「また会えて嬉しいの一言も無いのね。以前はあれだけ私を慕ってきたのに。それもすべて人間族のおかげよ。お父様も地下を掘り起こす種族は想定していなかったみたいね。」
ダリアはリリアムの髪に触れる。
「きれいな髪ね。闇のエルフの髪はこんなにガサガサになるのに。」
リリアムはその手を振り払う。
「何故今あなたが出てくるの…?森が襲われている今…。」
ダリアが舌打ちする。
「本当にイライラするほど純粋な娘ね。簡単に言えば利害の一致よ。」
「どうして!?他種族を襲う者なんかに!?」
リリアムは声を荒げて言った。
「利害の一致と言ったでしょ?王国はいずれ神族にも届き得るわ。その上エルフ族に復讐までさせてくれるなんて最高の条件じゃない。」
その時森に爆発音が轟いた。ダリアはその方向に向き直った。
「どうやら頑張ってるようね。私の人形は。」
ダリアは爆発音のした方へ歩いて行った。
「それじゃ私はお人形劇を鑑賞といくわ。また後で会いましょうリリアム。」
ダリアはまた姿を消す。リリアムは膝から崩れ落ちた。
「それで心当たりってのは?」
走りながらクゾーがドヴァに尋ねる。
「以前コロボックル族の依頼で作った降雨装置だ。それ自体は今ここには無いがまたあれさえ作って大雨を降らせられれば炎の槍など恐るるに足らん。」
カスティーヨの槍の炎は消せる事がわかっている。隙間も無いほど大雨を降らせれば火がつく余地など無い。
「すごい!それでそいつはどれくらいでできるんだ?」
クゾーの心に希望が産まれた。怪力の女の子の方はヘラクレスが上手くやってくれているか気になるが、この危機を脱する事ができるかもしれない。
「仕組み自体は簡単な物だ。水を水車で汲み上げて空高くまで飛ばす。そして空気の中のチリを含んで雨となる。しかしそれを一から作るとなるととても時間が足りん。さらに電気を通す金属製の部品も必要だ。」
「じゃあそんなの絵に描いた餅じゃないか!」
ドヴァはニヤリとして答える。
「僕を誰だと思ってる。ドワーフ族歴代最年少匠長ドヴァ様だぞ。」
ヘラクレスはよろよろと立ち上がった。目は依然として女の子を見据えている。
「まだ立ち上がるか。大した根性だな。」
女の子がヘラクレスに止めを刺そうと近づいたその時、突然ヘラクレスは身を屈めて女の子に飛びついた。
「貴様なにをする!?往生際が悪いぞ!」
ヘラクレスは素早く女の子の踵へ噛み付いた。
「お前!やめろ!」
足にキツく巻かれたサラシが外れ、素足が露わになる。
「…お前の身体に巻かれているサラシが妙に引っかかってな。胸のは心臓への衝撃を和らげる為だとしても鉄の身体なのに足に巻く意図はわからん。それで私はこう考えた。お前の弱点はその身体の硬さそのものだとな。つまり鉄の硬度のお前の筋肉はその硬さ故に、骨との継ぎ目にあたる腱の部分がとても切れやすいのだろう?足にサラシを巻いておくのは踵をガードする為と、固定しておき動いた時に切れないようにしてあると見た。」
ケンタウロスと共に培った狩人の洞察力である。ヘラクレスは無意味に攻撃していたのでは無くずっと弱点を探っていたのだ。ヘラクレスは尚も噛み付いて腱を切ろうとする。
「あーあ、辞めだ辞めだ!私の弱点を見切られてはお前には勝てぬ。まいったまいった。これ以上は無意味だ。」
ヘラクレスは拍子抜けした。罠かとも思ったが、思わず拘束を解いてしまった。
「上手いわ!さあ今のうちに殺してしまいなさい!私の人形!」
ダリアが叫ぶ。しかし女の子は冷めた表情でダリアを見据える。
「何を言っている。もうこいつには私は勝てない。それにやはり無抵抗の者に襲撃を加えるもの達など信用できん。私はこの戦い降りるぞ。」
ダリアは唖然とした。
「は?洗脳が解けたの…?」
「馬鹿を言うな。私にお前ごときの術が効くか。どこにも行くアテが無いからお前達に付き従っていただけの事。元より卑怯者に与する気は無いわ。」
女の子は最初から自分の意思で戦っていたのである。
「そういう訳だから。良ければしばらくここに置いてくれないか?ああその前にこいつらを片付けねば。私の知る限りではあのオークと戦っている方の髭面はなかなか手強いぞ。」
ヘラクレスは笑顔で答える。
「おう!後でリリアムにそう言っておけ。オークの方なら心配するな。あいつは強い。今朝も私が試してやったらちゃんと気配を察知していた。」
ヘラクレスが馬小屋に入ったのはクゾーの実力を計る為だったのだ。
「そうか、なら…。」
2人はダリアの方を向く。
「後はこいつだけだな!」
「ひいいいいいいいいい!!!!!」
森に悲鳴が響いた。
「ふむ。そろそろ森を焼き尽くす頃か。」
カスティーヨは自分が圧倒的有利とは思っていなかった。
(あのドワーフ族が出てきたのは計算外だしケンタウロスのガキがあれだけ戦えるとはな。未だに戻ってこない所を見ると苦戦しているのかも知れぬ。)
カスティーヨは持ち前の豪胆さで不安を一蹴した。
「まあこの短時間では何の対処もできまいて。どれ、我が直接行って燃やしてくれるかな。」
カスティーヨが森に向かって歩き出すと、顔に雨が一粒当たった。すると見る見るうちに大雨となった。
「雨!?まさか!雨は昨日までで、今日からはしばらく晴れるとの王の予言ではないのか!?」
カスティーヨは森の中心に向かって走り出す。昨日のケンタウロスとの戦では雨が降る前に勝負を決する事が出来た。その後降った雨で火が消えてしまう事も確認済みだ。
「くっ!火が消える前に!」
「残念ながらもうあらかた火は消えてるよ。」
ドヴァが森から姿を現わす。
「貴様らどうやって…!」
カスティーヨは明らかに狼狽している。
「ドワーフ族の秘術さ。雨を降らすことなど容易いのだよ人間族。」
ドヴァは満足気な笑みを浮かべてながら説明する。
「材料さえあれば時間などかからない。とはいえこの森には木しか無いからちょっと工夫した。使ったのはこのオークの流儀だ。」
説明されてもカスティーヨには意味がわからない。
「どういうことだ…?」
「わからないか?このオークの流儀はいろいろな物に形を変えられるのは知ってるだろ?それを加工したのさ。」
カスティーヨは完全に戦意を失っている。もともと機転の効く男ではない。こうも計算違いが起こっては対抗手段が思いつくはずは無かった。
「さあ僕の特製拘束具のコレクションを味わって貰おう。聞きたい事があるし殺しはしないよ、雨天中止の大豪傑さん?」
カスティーヨは槍を手にとってドヴァを睨みつけた。
13話へ続く
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