とくぞうはしんでしまった!
あなたは勇者だろうか?魔王だろうか?はたまた村人なのだろうか?
僕はオーク。愚かで醜く力があるだけの、豚の怪物オーク。どこまで行っても、死んでもオーク。
(何故俺がこんな事に…俺だけがまるで神に呪われているかのように…。)
男は死の淵でそのように考えていた。走馬灯のように浮かんでくる彼のそれまでの人生は彼にとって空虚な物だった。
(母さん…もうすぐそっちに行くよ…ああでも顔向けができない。大切に育ててもらったのに…。)
意識が薄れてくる。目の前が闇から白い光に変化する。
(やり直したい…できることなら…。)
男の最期の願いは誰にも聞こえなかった。
大国徳三、39歳独身。というか彼女いない歴39年、というか友達すら無し。職業、玩具工場勤務。年収300万(貯金は結構している。使う機会が無いから。)
「つくづく悲惨なステータスだよなあ。」
徳三は工場の帰り道にぼやいていた。
「親しい友人も家庭も無し…これまで誰にでも優しく接してきたつもりだったんだけどな。」
徳三がいきなりこのようなことを気にし始
たのは、彼が明日40歳の誕生日を迎えるからである。貧乏な母子家庭に産まれ、口下手で、小太りの体型で、顔は見ようによっては愛敬があると言えなくもない程度という生まれついての低スペックでありながらも、彼はいたって真面目に生きてきた。母が病気がちだった事で大学進学も叶わず、高校を卒業してからの21年間青春らしい物も無く必死に働いてきた。その母を数年前に亡くしてから、徳三の胸の内には焦りと不安が芽生えてきた。
「まあ俺も税金は納めてるし、人に迷惑もかけちゃいないし、ちゃんと働いてるしいわゆるニートよりはマシだろ。」
自分も孤独死予備軍という立派な社会問題の一種なのだが、今の徳三は自分を無理矢理納得させるのに必死だった。
「物語の主人公には絶対なり得ない…いや最近の流行りは『ダメ人間がある日突然力を得る』だからな。俺もその資格あるんじゃないか。」
徳三が言っているのは彼がよく利用する小説投稿サイトで流行っている小説の形態である。
「姿まで変わるんだよな、俺もイケメンで身体能力が凄くて、ついでに魔法でも使えたらきっと人生楽しくなるんだろうな。」
人生経験に欠けるせいか、徳三は若干精神年齢の幼いところがあった。だからこそおもちゃ作りは彼の性に合っていたと言えるのだが。
「俺なんかがそんなことになっても世界が救える訳ないか。俺も明日から四十不惑、惑わず生きていくか。今日はビールでも買って帰ろう。」
徳三はケータイを見ながら横断歩道を渡ろうと一歩を踏み出した。それが、彼のこの世での最期の一歩となった。ケータイに目を落としていた徳三は赤信号に突っ込んで来るトラックを避ける事が出来なかった。
「おきてくださーい。大丈夫ですかー?」
耳元でキンキン声が響いている。うるさい。昨夜テレビをつけっぱなしにして寝たのだろうか、今日は日曜のはずだからもう少し寝ていよう。徳三はそんなことを考えてそのまま目を覚まさないでいた。
「おきてくださいってば。ひょっとして死んでる?でもオークがこのくらいの傷で死ぬかなあ?死んでるなら埋葬してあげなきゃ。」
珍しい番組だな。アニメかドラマかな?電気代がもったいないからテレビを消さなきゃ。徳三はようやく目をあけた。
「あ、やっぱり生きてた。ねえどうして泉のほとりでなんて倒れてたの?」
徳三は森に倒れていた。そんな所で寝たような心当たりは無い。さっきからする声の主を探すと、徳三は我が目を疑った。羽が生えた手の平サイズの妖精のような生き物がそこにいた。
「妖精!?なんだこれ!?」
徳三は驚いて跳ね起きた。そして反射的に目の前の生き物を手で掴んでしまった。
「ひいいいいい食べないでお願い食べ物なら森にいくらでもあるから食べないで犯さないで骨を抜いて小粋なアクセサリーにしないで!!」
「するかそんな事!てかなんだお前は!?まるっきりファンタジーに出てくるフェアリーそのもの…。」
改めて見てみると小型の人間そのものであり全く作り物という気がしなかった。
「そりゃフェアリー族だもの当たり前ですよ!あなたさまは森のオークでいらっしゃいますくせにフェアリー族も見たことがないでございますでしょうか!!」
妖精らしきものはジタバタともがいていたが徳三はいまだ現状を理解しきれていない。
「あるわけないだろうそんなもん!待てよ今お前俺の事をなんて言った!?」
オーク。確かにこの妖精らしきものは徳三を指してそう言った。
「オークですよオーク!その緑の皮膚!みにく個性的な顔立ち!巨体!どれをとってもオークの特徴ですよ!それともあなたは森で人を惑わすタイプの種族でオークに変身して驚かそうと思ったら頭打って記憶を失ったおばかちゃんなんですか!」
オーク?あのこれまたファンタジーの?序盤の雑魚モンスター?豚の妖怪?俺はファンタジーの世界に来たの?
「そんなバカな…」
徳三は近くにあった泉を覗き込んでみた。するとそこに映っていたのは紛れもなく3メートルはあろうかという怪物のーオークの姿であった。
「そんなバカなああああああああ!!??」
森に徳三の声がこだました。
2話へ続く。
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序盤は説明多くなるんでもう少しお付き合いいただければ幸いです。