1
前投稿していた物が読みにくかったので、少し変えました。
内容はほぼ変わりません。
***
足元を風が吹き抜ける。
高い。
――しかし、大舞台だ。たくさんの人の目の前だ。
少し笑った。頬がひきつっただけかもしれない。
いいさ。
女は愛嬌と云うじゃないか。
******
――誰かきっと、助けてくれる。その甘え。その思い込み。
当たり前にあったものはもう手の届かない所へ行ってしまった。
(助けて、誰か! この人を! 死なないで、息を吹き返して!)
――誰かがきっと、助けてくれる。
――ううん、誰も助けてくれない。
(嘘だ! こんなの嘘だ! 嘘だよね、嘘でしょう!?)
だれも たすけてくれ や しない …
戦場では誰も助けてくれない。助けたい人も助けられない。手を取り合っても届かない。
帰りたいのに帰れない。私は何処へ向かっているの?
*******
「王は我々を裏切ったのだ! 助けに来るはずがない!」
多くの怒声、悲しみ、怒り、嘆き、苦しみが渦巻いている
大きく息を吸い込んで辺りを見た。
ひどい、有様だった。やっと辿りついた城は、緊張状態の中にある。
城の外に一歩でも出れば矢は雨のように降り注ぎ、悲鳴と殺戮は再開されてしまうだろう。どうにかして切り抜けなければいけないのに、怪我人ばかりだ。
……泣きたいのは、私だけじゃない。
「最後に!」
彼女は声を張り上げた。部屋の中でみんなが見える見渡せる場所を選んで、明るい声を心がけた。
「やりたいことがあります。みなさん私にチャンスをください!」
「…はあ!?」
「何言ってんだ」
「ガキが!黙ってろよ!!」
「俺たちはもう終わりだ。ここで死ぬんだ。」
味方から一斉にヤジが飛ぶ。
……これはまだ序章だ。大丈夫、口角を上げて、にこやかに笑って。
多くの絶望だ。絶望だけがこの部屋を、この城を支配している
誰かが殴ろうとこぶしを振り上げる。
「まちなさい。」
一人の騎士が殴ろうとした男の手をつかみ制止をかける。
「何をしたいんだね?」
ここが正念どころだ。気負うな、怯えるな、堂々と、心髄に。
「……この籠城は、奇跡でも起こらない限り絶望的です。それは皆さんも、もちろん気がついてるだろうし、私にもわかっています。だけど、祈って奇跡を待つ前に、まだできることがあると思うんです。」
強い瞳に息をのむ。
「でも危ない。すごく危ない。だから、誰か手を貸して下さい。塔の上へ昇りたいんです。けれどそんなことしたら弓兵に狙われます。その時誰か助けて欲しいんです。無茶を言っているのは分かっています。お願いします。力を貸して下さい。」
騎士の鋭い瞳と視線が合う。強い目だ、鋭く覚悟のある目だ。気圧される。だが、目は逸らさない、逸らせない。ここで諦めたら意味が無い。死ぬなら全力でやって死にたい。
一音一音私が言葉を発するたびに、周りからは痛いほど視線が私に突き刺さる。
「ふむ。」
しばらく考え込んでいた騎士は問いかけた。
「何人必要だね?」
「お待ちください!ロノアール隊長ッこんなガキの言う事に、人員をさくなんて!!」
「しかしだねハール、3日しのいできたが援軍は無し。我々は見捨てられたも当然だろう。みなが絶望している。子供が未来を見ているというのに我々はあきらめている。
もう打つ手が無い?助けが来ない?だから何だというのだ!だから何もしないのか?絶望に打ちひしがれ、やる気の無い兵士と未来を見据え今だあきらめていない子供。
我々がもう何もできないのならばこの子供にチャンスをやるのもまた一興。ともすれば、相手の意表を突く剣になるやもしれん。
何も打つ手が無いと諦め絶望する。この現状を見て誰が我々を王国最強の部隊と呼ぶ?貴様らは誇りを何処へ捨てた!我々は何だ!王国の騎士団だ!国を守るだけでない、庇護されるべき存在を目にし何もしないのか!?いいや違う、そうだろう!!」
最初は静かに言い聞かせるように、しかしだんだんと鼓舞するように彼の声は部屋いっぱいに響き渡った。絶望にあった兵士たちの目に光が戻ってくる。
「たとえ戦場であっても、子供に未来を示すのが騎士と言うものだ。」
そう言ってしゃがみこみ、私と同じ高さで目線を合わせた。
「何が望みだ、君はどうしたいんだね?」
ドクドクとまだ心臓がうるさい、声が震える。
「矢を防ぐ方2人と旗を持ってくれる方2人。私に付いてきてほしいんです。そして私を守ってほしい。それから皆さんにもお願いしたい事が一つだけ…」
目指すのはこの城の、一番外側。見張り台だ。
******
階段を上る。
石畳の廊下は冷たい。日はとっくに落ち、夜になっている。
子供が後ろを振り向き、付いてきた大人4人に語りかける。
「これからどうするのかさっきも話したけど、あなたたち二人はただ前を向いて、旗だけ持っていて。決してなにがあっても振り返ってはならない。いい?
……で、もう二人。あなたたちも同じく、私の合図があるまで、しゃがんで待機。いい、待機よ?見えないようにね。 そして私が「守れ」と言ったら立ち上がって。あとはまあ、いつもと同じように剣をふるって。…最後に。これが一番重要だから、確認しておくね……あなたたちは、私に命を預けらる?」
はいとぴったり重なった四人分の声が返ってきた。
彼女はほがらかに笑って頷き、預かった、と王国騎士団方式に礼を返す。
「今から、あなたたちは私のもの。私の許可なく死んではいけません。ちゃんと、なにも損なわず、戻してあげる」
だから、安心してついてきて。ふわ、と優しく微笑んで告げられた言葉に、4つの返事。しっかりとそれを聞いて、彼女は身を翻して歩き出した。
―――そして場面は冒頭へと至る。