表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18歳の店長さん  作者: SIM
一章『ここはわたし達の街』
9/28

第九話『街』

なんだこれ……なんだこれ……矛盾点とか……どーすりゃいいの……

 ──……ザァァァ──


「──春ッ!春ッ!!」

 雨が地面を穿つたびに跳ね、細く華奢な足に飛びつく。

 既に水溜まりはあちこちを覆い尽くし、跳ねる水の量も多くなる。

 雨樋あまどいは降り落ちる雨の質量に耐えかね、遠く雨の中でもギシギシと音を立てているのがわかる。


 春が帰ってこない。


 雨が降っているとしても、そろそろ着いて良い頃合いだ。

 なんだか嫌な予感がして、待ち切れず、紀里谷きりやよろずみせを飛び出した。

 傘も差さずに。

 春だって傘を持って行っていなかった……!

 そこで傘を二つ持って迎えに行くという発想に至らないのが、冬の冬たる所以である。

「──春ッ!?」

 少ししたところで、倒れる人影を一つ発見した。

 雨が跳ね、輪郭が白んでいる。

「春!しっかり、春!」

 大きい春の身体を肩に担ごうとするも、冬の小さな身体ではそれもままならない。

「誰か……誰かぁ……」

 自分一人じゃ春一人も助けられない。


 同じだ。昔と。


 正義ぶって、武器として正論を振りかざし、悪から守っていたと思っていた。

 だがそれは冬自身の主観に過ぎず、周りからすれば、正論を振りかざす、という間違った行為を堂々と行う暴君にしか見えていなかった。

 それは、冬が守っていた者も同様で。

 たった一人じゃ正義のためには何もできなくて、守れなくて、変えられなくて。


 一人じゃ、逃げることしかできなくて。


 濡れる地面に膝をつき、雨以外の理由で顔が濡れる。

 一人じゃ、ダメなんだ──


「──一人でダメなら、二人、三人ってね」


 雨の中に響く、落ち着いた声。

 いつもなら即拳を飛ばすその声に、冬は救いを感じた。

 ああ、そうだ。

 冬も、逃げて、この街に辿り着いて、そして、何人もの人間に助けられた。

 ──この人も、その一人だ。


「……ふみ……さん」


「はいはーい♪ みんなのお姉さん、志摩しまふみでぇーす♡」


 そういえば、初めて出会った時も、こんな感じだった。

「とりあえず、春くんを運びましょうか」

「あ、うん……」

 普段はおちゃらけた態度で真面目さのカケラもない人だけど。

 本当は、わたしの、一番信頼している人なんだ。

「ほら、流石に私も一人じゃキツいからそっち持って?はい行くよー!」

「……うん……!」


 どうやらわたしはまだ、誰かに頼らずにはいられないダメダメ店主らしい。




「ふっ……ふっ……──ふぅぅ……」

「着い……た……」

「うわぁぁ!? ちょ、冬ちゃん!倒れないで!タオルタオル!身体拭いて!」

 二人掛かりでようやく春を運んで、店に着いた。

「その前に……春、を……うぅ」

 バタリ。

「冬ちゃぁぁぁん!?!?」

 …………。

「あらあら、どうしましょ(汗)」

 雨ではない、冷たい何かが文の背中を不快に這いずり回る。

「……とりあえず二人ともお風呂にぶっ込んじゃいましょ♡ この店、お風呂もあったわよね。……なんでわざわざ隣に家あるのかしら」




「……ん?」

 足や手が軽い……まるで、水の中を漂っているような──って、風呂じゃねーか!

「んぁー……わたし確か気絶して?その後──あれ、その後……もしかして、文さんがわたしの服脱がして風呂に入れた……と?」

 風呂で寝ると危ないだとかよく聞くのだが、大丈夫だろうかわたし。

 というかあの人、わたしの身体に何か変なことしてねーだろうな!?

 急いであちこち確かめてみる。

 と、決して広くはない湯船で、足先にちょこんと当たるモノが。

 視線をそちらに移して行くと……────

「────」

 怯える子鹿の如く身を震わせ、その大きな身体を極限まで小さく体育座りで冬と面向かっている──春がいた。

「いや、ちょ。冬?その、僕だって決してわざとじゃちょま、あ、やめ……ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!?!?!?」

「バカ春ぅぅッ!!」

 この狭い湯船に若い男女が二人。

 何が起こったのか、描写するまでもないだろう。


「ちょ、げふぅ!」

「ばかぁ、ばかぁぁぁぁッ!」


 この二人に限って甘い展開などあり得ない。

 片や、10、11歳程度の外見を持つ18歳強気の店主。

 片や、年相応の外見を持つ年齢不詳ヘタレのほほん店員。

 ……何かが起こるとしても、それはまた先のお話。




「おほほほほほ」

「フシュゥー……フシュゥー……ッ」

「ふ、冬、落ち着いブベラッ!?」

  文、冬、春は、隣に移って紀里谷家にて、同じテーブルを囲んでいた──と言えば聞こえは良いだろうが、その実かなり険悪ムードである。

 原因は全て志摩文にある。

「異議あり!」

「認めん」

 一蹴する冬に代わり春が文に尋ねる。

「え、えーと……異議って?」

「私はあなたたち二人を助けるため──そう、救助活動の一環として、二人をお風呂に入れました!」

「……二人同時に入れたのは?」

「面白そうだったから──うそうそ!一刻も早く二人を温めねばと思ったからです!」

 拳を振り上げる冬は既に話を聞いていない。

「二人とも良い具合にあったまったでしょ?」

「「別の意味でだけどな!!」」

 訂正、冬は話を聞いていた。

 春も珍しく語気を荒め、それを見た文は心底楽しそうに微笑む。

「……まあいいや。いやよくないけど。……今はそれより」

 冬はイライラしながらも冷静さを欠かず、現状を把握しにかかる。


「春、お前なんであそこで倒れてたか憶えてるか?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ