第七話『子ども達とついでに剛さん』
この小説のジャンルってなんだろう(真顔
「なー春ー」
「んー?」
ポカポカと日差しが暖かい日曜日。
遊園地の騒動から一週間が過ぎ、浮かんだ疑問も解決せず──というか、春に関しては『何も聞かない』スタンスを貫いてあたため、何も解決していないだけだ。
春が自分から言うのを待っている……と言えば聞こえは良いだろうが、その本心は怖いだけだ。
この日常が、壊れるんじゃないかと。
そんな葛藤に踊らされながらも、時間が過ぎるたびに、それも徐々になくなり。
現在、紀里谷萬ノ店の前のベンチに座って、冬はあくびを隠すこともせず、春は猫のように目を細め、ゆっくりとした時間を過ごしていた。
「なんで空って青いんだろーなー?」
「えっと……元々七色の太陽光が、僕たちのところに届くまでに」
「あ、やっぱごめんなさい。いいです言わなくて」
「へ?あ、うん」
そうしてまた、雀のチュンチュンという鳴き声が静かに響き渡る。
「ふぁぁ~……あ、そーいやさ、なんでそんな頭良いの。そこら辺憶えてる?」
「なんとなく……子供の頃から、ずっとやってたから……かな……?あまり詳しくは思い出せないや」
「そっかー」
春の記憶喪失は、日常生活になんら問題ない程度のことは憶えている、所謂、思い出……エピソードだけが抜け落ちている系統の記憶喪失だということはわかっている。
が、なぜそんなことになったのかは皆目見当もつかない。
というかそもそも、春が『誰』なのか。それすらもわからない。
それでも春を快く受け入れたのが、紀里谷冬や、冬が住む彼艸商店街本通の人間たちだ。
元々は冬も、ここの人間たちに受け入れられた側だった。
今ではすっかり、受け入れる側の仲間だが。
「冬姉ー!」
と、その受け入れる側の仲間たちがやってきた。
「んぉー?ようこそアキラと愉快な仲間たちよ。紀里谷萬ノ店へ」
「ちょいちょい、アキラのついでみたいに言わないでほしい」
「はーいはい、アキラがついでだもんなー。ごめんなー?」
「なんでオレが!?」
よく冬に突っかかってくるアキラ。
そんなアキラと幼馴染のカヤ。
そしてその他。
「「「今すげーテキトーな紹介された気がする」」」
「おぉう……お前らエスパーかよ……アキラにカヤ、ミナト、タイジ、レンコ……ほら、良い?」
「「「べりぐー」」」
「どっから憶えてくんだそういう言葉……春も、そろそろ名前憶えたか?」
「うん、ばっちり」
冬とほとんど変わらない身長の五人に、春は微笑みかける。
春も随分この街に馴染んできたもんだなー、とお茶を飲もうとした冬。
そこに。
「春兄!魚通のおっちゃん達が言ってたんだけど、冬姉とデキてるってホントー?」
「ブッ!?」
タイジが、その幼さから悪意なき純粋な質問を春にぶつける。
そしてその質問に、丁度口に含んだお茶を見事な虹を描きながら噴き出す冬。
「デキてる……ってなんだ?」
ポカンとするアキラにレンコが、これまた悪意なき返答を。
「つまり、結婚の約束をしてるってこと!」
「それ違うし!」
冬が堪らずツッコミ入れるも、既に盛り上がった子ども達を止められる者はいない。
「結婚!? 結婚すんのか冬姉!?」
アキラが驚きに目と腕を回しながら大声で喚き散らす。
「だーかーらー!デキてるってのは結婚の約束をしたって意味じゃねーし、そもそもデキてねーよ!」
必死の弁明にアキラはホッと息を吐く。
だが、カヤ、ミナト、タイジ、レンコは止まらない。
「ちょいちょい、冬姉が結婚ですと。今夜はお赤飯ですな」
「えと……マジで?マジで?冬姉だよ?冬姉が、春兄と……!?」
「結婚!デキてるってのは結婚ってことか!おっちゃん達、だからあんなに嬉しそうにガハハハ笑ってたんだな!」
「冬姉、おめでとう!子どもは何人?」
もしかしたら、一番手のかかるのはアキラじゃないのかもしれない。
だってほら、アキラは一人、めちゃんこ静かにしてるもん。
そんなことを考え、冬はある決心をする。
隣にいる春を見て……ダメだ、やっぱこいつと結婚なんて考えられない。それ以前にこいつとデキる?あり得ない。
そんなあり得ないことを幼い子どもに吹聴したクソオヤジ共、ブッ飛ばす。
「タイジー?確か、それ言ってたのって魚通のおっちゃん達だったよなぁー……?」
「うん?そうだけ……どど、どうしたの冬姉。顔怖いよ……?」
「んー?別にー?怖くないよー?いつもの、みんなの冬姉だよー?……春、ここで留守番しててな。ちょっと、この昂ぶる右手でクソオヤジ共の幻想と腐った脳をぶっ殺してくる」
「え?あ、冬?冬ーぅ!」
そのまま脱兎の如く、冬は走り去って行った。
飲みかけのお茶を残して。
数多ある商店街のうちのひとつ、彼艸商店街。
その中心を南北に突っ切るように存在するのが、本通である。
その本通を突き当たりまで行くと、南北にそれぞれ、T字路のように北通と南通がある。
東西に伸び、また突き当たりまで行くと、東西それぞれに、これまた大きな通りの東通と西通が。
東か西を上にして地図を見ると『日』の字に見えることから、本通と東西南北通五つを、特に意味もなく五大日光通と呼んでいる。
基本的にはその五大通を中心に彼艸商店街は成り立っている。
だがまあ、それ以外にも数多くの通は存在する。
例えば、住宅が建ち並ぶ住宅通。
動物園や遊園地が並ぶ商業娯楽通。
そして、あらゆるモノの中からそれ一つを専門として扱う、肉通や野菜通。これらはまとめて専門通と呼ばれる。
この専門通の一つに、魚通もある。
「……んぉ?なんだありゃ。冬ちゃんか?ってなんだ、こっちに来て──」
「────……ぉぉぉおおおおおおおお!!」
雄叫びを上げながら走り迫ってくるその様子は、軽く恐怖だ。
「お、おーい?冬ちゃん?何をそんな急いで……」
「んぁっ!? おお、剛さん、あのさ、聞きてーんだけど」
「なんだなんだ?」
「あのな?かくかくしかじか四角いムー○。ってわけなんだけどさ。知らね?」
「知らね?と言われてもだな。そんなどこかのCMで聞いたことのあるようなフレーズだけでわかると思うか?」
「なんで!? 普通こういうのはこれだけで伝わるだろ!? 早くしてくれよ、もう尺がねーんだって!」
「お前、現実と創作をごっちゃにするな!いいからちゃんと話せ!」
「お、おう……、……えーと、な?その……えぇい。わたしと春がデキてるだとか、そんなあり得ねーことを子ども達に言ったのは誰かわかるか!?」
「あ、それ俺だわ」
「どっせぇぇぇえええええい!!」
「うごぉぉッ!?!?」
「わたしの右手が真っ赤に燃える!」
「本当に燃えてる!?」
「天元突破グレン○ガン!おいおいわたしを──誰だと思ってやがるッ!!」
「ちょ、冬ちゃ、落ち着い──」
そんな、まるで創作の世界から飛び出してきたかのようなやり取りは、この彼艸商店街では最早日常である。
彼艸商店街は、今日も平和で満ちている。
「ハン!バー!グーッ!!」
「ホント、ホント落ち着けぇぇえええ!」
……少し騒がしいけど、平和なのだ。
パロってる(パロネタ使ってるの意)けどごめんなさい。グレンラガン見てないデス。にわか程度の知識でパロってゴメンナサイ。