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18歳の店長さん  作者: SIM
一章『ここはわたし達の街』
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第六話『影』

 ──暑い!

 遊園地にて、しばらくはしゃいでいた冬だが……現在、暑さにやられて、ベンチで伸びている。

「ふ、冬~、ジュース買ってきたよ~……」

「おー……さんきゅー……あぢぃ」

 二言目には『暑い』と言う冬を見て、春はその大きな手で冬の顔を扇ぐ。

 ……確かに暦の上では初夏だけど?

 ……流石に暑すぎじゃね?

 単に冬が柄にもなくはしゃぎ倒したのも原因ではあるが、それも仕方のないことだろう。

 長らく遊んでいなかった。

 公園で子供たちの相手をすることはあったが、こうして遠出して、自らが楽しむために遊ぶというのは、この街に来て以来……いや、もしかしたら、それより以前から、もう何年もなかったかもしれない。

 身を起こし、春が買ってきたスポーツ飲料を豪快な飲み込む。

 喉を甘酸っぱい液体が通過していき、胃に落ちる感覚を楽しみながら最後、プハァーっと息を出す。

 口に残る味も、ボーッとした頭にはほどよい刺激であった。

 ジェットコースター。ウォータースライダー。お化け屋敷。コーヒーカップ。メリーゴーランド。

 外見に見合ったはしゃぎっぷりを見せ、マイペースな春を振り回した結果がこれだ。

「……あぢぃ」

 熱を帯びたテンションが、さらに日の光によって加熱されオーバーヒート。

 こういうところでの加減を知らないのもまた、冬らしい。

「どうする冬?今日は帰る?」

「いや……滅多に来れねえんだから……堪能してやる……」

 怠そうな顔をしながらも、諦める気は毛頭ないといった様子で応える冬に、肩を竦める。

 それを見て冬は、

 こいつも随分人間らしくなったな。

 と、的外れな感想を抱く。

 確かに、街に現れた時にも、空腹に倒れたり、美味しそうに料理を食べたりと、人間らしいと言えば人間らしかったのだが、なんというか……そう、感情表現が上手くなった。

 肩を竦めるなど、まさしく感情表現に慣れた『人間らしい』仕草だ。

 次第に口数も増え、すっかり街に溶け込んでいる。

 そのことを実感し、くすぐったい気持ちになる。

「……うし、あっついけどもう大丈夫。でもまたこうなるのは勘弁だから……室内のアトラクション、行こーぜ」

「了解」

 そうして、知らず識らずの内に二人は手を繋いで、歩き出した。




 冬が一番面白いと感じたお化け屋敷に、三回ほど出入りして、ようやく満足したかのような冬に、

「あ、はは、あはは……ははっ……」

 散々お化けに驚かされ衰退し切った春が、無理やりな笑顔を向ける。

「だ、大丈夫……?」

 流石に罪悪感が芽生え、冷や汗を流す。

 純粋な春は、何度も同じ仕掛けに驚き、その度に悲鳴をあげて、喉もカラカラである。

 冬に手渡された飲み物をあおり、飲み干す。

「あ、ごめん、全部飲んじゃった」

「いいよ、こっちこそごめんだし」

 日も傾き始め、空は朱く染まっていた。

「んじゃ、最後あれ乗って終わろーか」

 そう言って冬が指差したのは──雄大に佇む、観覧車。

 夕焼けを受け、影で黒く染まった観覧車。

 あんなに平べったいのに、強風にも耐える観覧車。

 すげえなぁ……。

 初めて訪れた遊園地で乗る最後のアトラクション。

 あれで、良いよな。




「二名様、ご搭乗くださーい」

 係員に誘導され、揺れるゴンドラに危うく乗る。

 扉が閉まり、狭い空間内に春と二人。

 だけど、普段と変わりない雰囲気。

 あー、気持ち良いなー……こんな感じ。

 気持ち良いというか、居心地が良い。

 ゴンドラがゆっくりとゆっくりと周り、やがて、頂点に辿り着く。

 また来たい、な……。


 ────ヒュンッ


「?」

 冬の耳に、そんな風切音が聞こえ──


 ────バリンッ!!


「!?」


 ──たかと思うと、突然ゴンドラの窓が割れた。

 窓ガラスがゴンドラ内に飛び散り、高所特有の冷たい風が吹く。

 なんだよ……これ!

 割れたのは冬の後ろの窓。

 後方から何かを投げ込まれた?

 ゴンドラ内には何も投げ込まれたモノはない。つまり違う。

 後ろのゴンドラに乗っている人物を確認しようとしたが、夕日が作った影で、顔までは見えない。

 あいつが、何かをした──ッ!

 日常から逸脱した現象。

 これはなんだ……!

 そうしている内に、ゴンドラは観覧車の四分の三を周り切った。

 もう少しで地上……そこで後ろの奴の顔を……。

 いつまた攻撃が来るとも知れぬ緊張感の中、春を庇いながら待つ。


 ────ヒュンッ


 また風切音。

 今度は春の後ろの窓が割れ、風がゴンドラを強く揺らす。

「……ッ!」


 ────ヒュンッ


 また……!

 今度はどの窓ガラスが割れるのか、身構えていた冬。

 だが、春が動いた。


「──何を、してんだッ!!」


 普段の大人しい口調はなりを潜め、語気を荒くして、見えざる敵に叫ぶ。

 そして、冬は見た。


 ──春の身体が、淡く、白く輝くのを。


 ……窓ガラスは、割れなかった。

 風切音がして、数分が経過したが、割れなかった。

 そこにどんな意味があるのかはわからないが、ゴンドラは地上に着き、理解の追いつかないまま冬はゴンドラを降りた。

 係員も異常に気づいており、早く避難するように促して来るが、どうしても確かめねばならないことがある。

 ──わたしたちを攻撃したのは……誰ッ!

 一つ後ろのゴンドラが地上に着き、扉が開かれ──

「──は?」

 ──中にいたのは、小さい、熊の縫いぐるみたった。




「……危ないことしますねぇ先輩。もう少しでバレるとこでしたよ」

「ええんよええんよ。ちょい確かめたいこともあったし?──まぁ、予想外のモン見れたけど」

 観覧車から少し離れた草陰に、二人の女生徒がいた。

 同じ制服に身を包み、片方は拗ねた顔をし、片方は楽しげな顔をする。

「あーあ、せっかく買った縫いぐるみ、先輩逃がすために使っちゃいましたよ。取りに行けないだろうなー」

「あっはは、新しいの買ってやるから、許してくれん?」

「本当ですかッ!? じゃあじゃあ、少し大きいのでも良いですかッ!?」

「ま、まあわがまま言ったのはウチやから、ええけど……あんま高いのはナシにしてな?」

 財布の中を覗き溜め息をつきながらも、その顔は楽しそうに笑みを浮かべていた。


「──修学旅行なんて、って思っとったけど、こんなこともあるんやねぇ……」


 心底楽しくてたまらないといった風に、くひひっ、と声を漏らし。

「アレは……『消す能力』ってところやろね?ウチの『貫く』のまで消すなんて、特異なの持ってんやん」

「『消す』ぅ?……それって、あたしの『代える能力』にも効くんですかね」

「どーやろ。それをどんな感じで消すんやろね……想像もつかんわ」

 本当は、冬が能力者かどうかを確かめたかったんやけども……。

「──本当にそれだけですかぁ?」

 にたぁりと、嫌な笑顔を浮かべて言う彼女に。

 これまた意地悪い笑みを浮かべ。

「──そんなわけあらへんやろ、……昔の、つ、づ、き♪」


 二つの影は、夕日が作った巨大な影に同化し、消え去った。

エセ関西弁キャラ……あからさまに怪しすぎてアレだった。

ここいらからドンドン不可思議な展開になっていきますよー。僕にも先は予想できません(おい)。

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