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シェルバックス・ストーリー  作者: 小田中 慎
☆フゥルフェ礁
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4

 カローン艦隊の前哨艦と小競り合いを演じたあと、ゴルフェは壁のように並んでいる大小三十にも及ぶ軍艦に完全に包囲されている事に気付いた。相手は星系共通の発光信号で司令官からの忠告として降伏を求めて来よった。その相手司令官というのは、あろうことか泣く子も黙るカローン一の武運誇る将星、ストラー・ガントゥルだったのだ。

 しかし、それこそカスケー側が望みゴルフェに託した状況だった。ゴルフェは落ち着いて艦隊を止めると、カローン側へ使者が行くことを返信し、たった一人で小艇を操り、ストラーの旗艦に向かった。


 そこでゴルフェは一世一代の大芝居を打ったのだな。

 ストラーの背後、アーケガルに集結していたカローン帝国軍総司令官直卒の艦隊が、カスケー宙軍総力の奇襲で壊滅したと、ストラーに伝えたのだ。カスケー軍の司令官はストラーの武勇に免じて二つの道を示している、このまま踵を返してカローンに引き上げるか、ここでおとなしく武装解除されるか、と。


 暗黒礁域は恐ろしい場所で、どのような通信も遮蔽して通信装置は役立たず、探査装置も狂ってしまって使えない。あそこは完全に外部から遮断されていて、まるで目隠しをされて音が聞こえない部屋に閉じ込められたようなものだ。ストラーからみれば、そんな中で飛び込んで来た敵の使者。それが突拍子もない戯言を言い出した訳だな。


 もちろん最初はストラーも信じず、たった一人で乗り込んで大胆にも降伏せよと示唆した若者に激怒した。しかし、ゴルフェの落ち着きは崩れず、丁寧に降伏を勧める。

 こういうやり取りが延々と続くと、激しく憤っていたカローンの精鋭どもに、やがて微かな不安が忍び寄った。すぐに殺されるかもしれない運命にある者がここまで落ち着いていられるものか?もし、この若造が言っていることが真実だったとしたら?

 暗闇にとざされ、引くにもアーケガルまで手探りで三日、暗黒礁域の詳細な宙図くうずを持たないカローン軍のこと、ここまで来るにも半数を超える犠牲が出ていたのだ。それを非情な将軍ストラーだからこそやり遂げて、あと少しでカスケーの領域に迫った。

 しかし、後に続く艦隊が壊滅したとなると、今度は逆に彼らが包囲され壊滅することとなる。この若造はカローンの先鋒部隊である彼らを怒らせ突き進ませる罠ではないのか?この先には手ぐすねを引いて待つカスケーの大軍がいるのではないだろうか?いや、もうすぐ後ろに現われるかも知れない。


 そして遂に、ゴルフェの芝居はカローンの精鋭に打ち勝った。

 最後まで嘘と見破っていたストラーも、幕僚全員と、たちまち流れた噂で隊員たちの動揺が始まると一旦引き上げることにした。このまま強引に突き進めば動揺と不審にさいなまれた部下を使ってカスケー軍と衝突するしかない。負けるとは思わないが、かなりの損害が出ることでカスケー本土攻略の第一歩は失敗する可能性がある。カスケー攻略はいつでも出来る。体制を引き締めてまたやってくればよい。そう考えたのだな。

 ストラーはゴルフェを開放すると、静かに艦隊の向きを変え、暗黒礁域のなかに消えて行った。


 賭けに勝ったゴルフェはしかし、喜ぶことが出来なかった。それはそうだろう、カスケーを護るためとは言え、信義を重んじる立派な武人を騙し、己の経歴も汚したのだからな。

 きっとストラーはアーケガルで死んでいるはずの皇太子と出会い、騙されたことを知って怒りに震えるだろう。そしてカスケーの汚い手口を訴えて、ゴルフェの名はカローン人の頭に嘘つきの意味として刻まれることになるだろう。


 それでも彼は、軍が彼に託した時間稼ぎが成功したことを伝えに暗黒礁域を出てすぐの前進砦に向かった。そこで待っていたのは驚くべき知らせだった。

 つい先程、暗黒礁域の中ほどでカローン帝国軍の主力艦隊が暗黒陥穽に捕まって壊滅したらしい、とのしらせだった。ゴルフェとはまた別の、特別な任務を託された者がその罠を仕掛け、ものの見事に敵を陥れたと。カスケーは緒戦でカローンの攻略軍を打破ったのだ。

 

 ゴルフェがフゥルフェの運命を知ったのは彼がカスケーに戻った時だった。なんとカローン本隊を罠にかけた者とは、フゥルフェだったのだよ。

 

 彼女はどうしてかゴルフェの任務を、それが愛しい男の信義をけがすおぞましい任務だと知り、高官の娘と言う地位を利用して軍と政府に訴えた。

 どうか自分を囮に使い、ゴルフェがく嘘、総司令官の死が現実となるようにしてほしい、と。その訴えは認められ、フゥルフェは死出の旅に赴いたのだった。

 フゥルフェは一人連絡船をうごかして、カローン本隊に向かった。そしてゴルフェがしたようにカローンの旗艦に赴くと、カスケーを裏切って暗黒礁域を案内しましょうと掛け合った。

 とうぜん、最初は女ひとりの言うことにカローンが動くはずもなく、フゥルフェは捕縛され監禁された。しかし、必死に訴える女にこころ動かされたひとりの参謀が、女のことを総司令官に告げたのだ。総司令官は興味を持って、女に会って見ることにした。


 それが誰あろう、カローン帝国王家の皇太子であり帝国軍総司令官であるアルフェル・コト・ソーフだったのだな。彼は冷酷で怒りっぽい短気な父王とは反対に、笑みを絶やさぬさわやかな男で、今までも直卒した軍により数々の武勲を打ち立てていて、配下の将兵のみならず帝国民からも慕われていた正真正銘の勇者だった。


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