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シェルバックス・ストーリー  作者: 小田中 慎
☆誇りを守りに
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 警察相に案内され連れて行かれたのは、彼女の父が閉じ込められた監房の更に先にある建物だった。そこは確か軍の特殊部隊が使用する隊舎で、今は非常時のため、どこへ出かけたのか隊舎はもぬけの殻だった。

「ここで待っていなさい」

 会議室のひとつに案内すると、警察相は逃げるように去って行った。すると入れ替わりに数人の男女がやって来てフゥルフェの前に立つ。

「護民官様。これは一体どういうことです?」

 この星の責任者であっても、フゥルフェは物怖じせず立ち向かう。

「そう怖い顔をしないでおくれ、フゥルフェさん」

「父をどうするおつもりですか?こんなことが許されるとお思いですか?」

 護民官は首を振る。

「私に当たられても困るね。証言はあなたの父の三十年来の同士である財相から出ている。これが私の側近だったら、真実であってもさぞかし嘘に見えたことだろうが……大丈夫だ、フゥルフェ。公表はされない。父上は病気で入院したことにする。実際、あの様子では治療が必要だ」

「そう言って、父を無きものにしようというのですね」

 護民官は唸って、

「どうもいけないね、フゥルフェ。私は何も悪いことなどしていないよ。そういう態度は身を滅ぼしかねない。まあいい。ところで……」

 護民官は静止撮影画を取り出し、フゥルフェの前に置く。

「この男を知っているね?」

 フゥルフェは表情を変えないようにするのが精一杯だった。

「さあ……どうでしょう」

「嘘を吐かなくてもいい。有名な話じゃないか?次席護民官の娘が宙軍の若手ホープと付き合っている、という話は」

 画像のゴルフェがこちらを見てはにかんだように笑っている。何かの祝宴での一枚で、こんな時にもそのゴルフェの制服姿をほれぼれと見てしまうフゥルフェだった。

「何でもご存知なのですね」

 諦めたフゥルフェは冷静に護民官へ視線を送る。

「そうでもないがね。あなたとこの上級統率官の付き合いは三年前から噂には聞いていたよ」

「で、彼がどうしたのです?」

 次の言葉を、フゥルフェは絞り出すような勇気で言った。

「彼までもがあなたの排すべき標的なのでしょうか?」

 最早、護民官も建前を崩していた。

「とんでもない、フゥルフェ。彼はわが宙軍の至宝だよ。正義感に溢れ、常にカスケーの大義を念頭に任務へ邁進する。あの思い切りの良い判断。その指揮振り。実に見事じゃないかね?」

 護民官はゴルフェの画像を指先でこつこつと叩く。それがフゥルフェには、この男の命は私の命令でどうにでもなる、と伝えているようにしか思えない。

「安心しなさい、フゥルフェ。彼にはとっておきの任務を与えた。そう、正に星を救う究極の作戦を実行する任務を、だ」


 そして護民官はフゥルフェに、これからゴルフェが行わなくてはならない屈辱と苦難の任務を教えた。フゥルフェは、その衝撃をひとり受け止めていた。

 ゴルフェがどういう気持ちでこの任務を受けたのか、あのカスケーを護ることに自身を賭け続けているゴルフェが、そして何よりも誇りを大切にするゴルフェが任務を達成した後、どうなるのか。

 それはフゥルフェにとっても耐え難い未来だった。あんなにもカスケーを護る事に命を賭けて来たのに、その星を代表する者たちの捨て駒にされる彼。

 救ってあげたい。大嘘吐きの烙印を押されたまま、魂を置き去りにしてしまう未来から、彼を。そしてもちろん、父親を。


 フゥルフェの葛藤を、護民官はただじっと眺めているだけでよかった。ここは絶対に口を挟まないことが肝要だ。この賢く勘が鋭い娘に自分から気付かせ、言わせなくてはならない。

 二人の愛する男を救う手立てが準備されていること。それをこちらから伝えてはならない。

 この複雑な作戦は、あくまで自己犠牲の上に実施することで初めて成功する可能性があるのだ。


 やがてフゥルフェが囁くように言う。

「護民官様。私は何をすればよろしいのでしょう?」


 それは娘が敗北を認めた徴だった。



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