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ビュ=レメンの舞踏会 ―魔法のとびら―  作者: 滝沢美月
第4章 あらがえぬ鎖
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第32話  新年にやってくる神様



 リーゼロッテに会いに行こうと決意したティアナは、その本人から呼ばれていると言われてついて行ったのに――なぜか湯浴みさせられ、上質で豪華な衣装を着せられ、連れて来られた場所は、建国の間だった――

 幼い頃に一度だけ足を踏み入れたことがある魔法関連の行事を行う大広間。その見上げるほど大きな扉の前に立たされて、ティアナの胸は早鐘を打つようにドクンッドクンッと飛び跳ね、鳩尾の辺りが冷える。

 なんだか分からないが、この扉の向こうにはよくないことが待っている――そんな恐怖感が襲ってくる。

 しかし、逃げることも引き返すことも出来ず、無情にもその扉が開かれる。

 扉が開いた瞬間放たれた眩しい光に目を閉じ、開くと大広間には大勢の人が集まり、目の前にはリーゼロッテが立っていた。


「近う、よれ」


 ぶっきらぼうな口調で言われ、ティアナは恐々と後に続き、大広間の中央へと連れて行かれる。

 大広間は円形状で、中央に一段高くなった舞台があり、その周りを華やかな衣装で着飾った人が囲む。その中にマグダレーナを見つけて、ティアナは少し安堵する。

 そんなティアナは、自分を見つめるマグダレーナの瞳が驚愕に揺れていることに気づいていなかった。

 舞台には赤や青や緑、色とりどりの糸で織られた絨毯が敷かれ、その中央にリーゼロッテが座り、ティアナは横に座るように言われ従う。


「皆の者に紹介する。この者が、私が昨年の新年の宴で予言した新年にやってくる神様――神の子じゃ」

「おお――っ!!」


 リーゼロッテの爆弾発言に、大広間に集まった者が歓声を上げ、ざわざわと騒々しくなる。

 ティアナは突然のことに、何を言われたのか理解できず目を白黒とさせる。たくさんの視線に注目され、居心地が悪くて身を縮込ませる。


「この者の名は、ティルラ・ローゼマリー・バルヒェット・イーザ(・・・)


 えっ……?


「私の後を継ぎし国守の魔女であり、第五王子クラウス・ユストゥス・イーザの伴侶である」

「おお――っ!!」


 歓声と拍手が大広間を包む。

 さすがにその言葉の意味を理解したティアナは、首を勢いよく左右に振る。


「ちっ、違います……私は神の子なんかじゃ……まして国守の魔女になれるような魔力なんて……」


 持っていません――そう言った声はあまりに掠れ、小さくて、観衆の声にかき消されてしまう。

 リーゼロッテには聞こえているはずなのに気にした様子も無く、つんと澄ました態度で横に置いてあった巻物を手にとり広げると、ティアナの手に押し付け、不遜な態度で言う。


「いいから、これを読め」


 渡された巻物には、見たことも無い文字がびっしりと書かれていたが、なぜか読めて渋々声に出す。


「大地を守護しせり大神四精霊よ、一年を終え新たな一年を始める寿ぎの日により一層の国の繁栄を願う。願わくば、精霊と民の結びつきを強くより深くし、人心の奥の悪を滅し、善と義と徳をもって護り給え。南方の地を守護しせり天空神ティワズよ――」


 ティアナがその名を口にした瞬間――中央の舞台の周りに置かれ僅かに灯る松明の火が燃え上がり紅蓮の光を増して繋がり、大広間に巨大な炎の不死鳥が姿を現す。

 炎の不死鳥は唸るような咆哮を上げ、広間の空気がビリビリと振動する。

 人々は驚愕と歓喜の入り混じった声を上げ、ティアナはルビーのピアスをはめた左耳と胸がズキズキと痛み、あまりの痛みに顔をしかめて額に手を当てる。

 なっ……なんなの、この炎の鳥は――

 巻物に書かれた“ティワズ”その名を読んだ瞬間、胸の中が焼けるように熱くなり、その熱が引いたと思ったら目の前に炎の鳥が現れていて、ティアナは恐怖の宿った瞳で見つめる。

 もしかしなくても、今のは私の魔法……?

 そんなはずはない――体の本当の持ち主であるティルラには魔力はないし魔女でもないとリアから聞いている。それに、ティアナも――王族としてほんの少しの魔力を生まれ持っているが、精霊の声も聞こえないし、魔法も使えない、魔力があると言えるほどのものではない。

 ではなんで――

 そう考えて無意識に左耳のピアスに触れると、炎の不死鳥は広間中に響く咆哮を上げ姿を消し、触れていたピアスが一瞬、熱を帯びる。

 炎の不死鳥が消え大広間を包んだ静寂を、不遜な声音が打ち破る。


「ふむ、さすがじゃ神の子よ。皆の者も、この者の力を見たであろう? 天空神の守護を受けし神の子――私よりも強大な魔力を持った偉大な魔女だ!」

「おお――っ!!」


 歓喜の声が大広間に広がる。


「神の子よ――」

「どうか、この国を護り導いて下さいませ――」

「国の繁栄を――」


 期待の込められた瞳で見つめられ、ティアナは愕然と目を瞬かせる。


「ちがっ……私は――」


 ティアナが発した否定の言葉はむなしくも歓声にかき消され、舞台に上がってきた民に担ぎあげられ、宴の準備のされた広間へと連れて行かれてしまった。




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