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ビュ=レメンの舞踏会 ―魔法のとびら―  作者: 滝沢美月
第3章 刻印に秘められた恋
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第23話  北欧の森、再び・・・



「ええ、必ず――生きて再び会いましょう」


 愛おしげに両手でティアナの頬を包んだルードウィヒは優しく口づけると立ち上がり、ぶわりと暖炉の炎の中へと消えて行った。

 ティアナは暖かい感触の残る唇を無意識に指でなぞり、ルードウィヒの消えた暖炉を見つめる。

 ドクンっ、ドクンっ。

 鼓動が大きな音を立てる。


『私もあなたを愛しています』


 無意識にティアナの口から零れた言葉は、きっとティルラの言葉だったのだろう――

 ティルラの体にティアナの魂が入りこんでいるが、心の奥底に残るティルラの魂に同調し、ルードウィヒが愛おしくて自然と出てきた言葉だった。



 タイミングを見計らったように、ルードウィヒが姿を消してから程なくリアが部屋に戻ってきた。その手には、分厚いマントと弓矢二組が抱えられている。


「別れの挨拶は終わったかしら?」


 その言葉にはっとしたティアナは、背を向けて角の机の上に荷物を置くリアに気づかれないように手の甲で涙を拭い、胸はまだじくじくと痛んだが平静を装って声を出す。


「ええ。永遠の別れではないのだもの、だってルードウィヒは強いのでしょう? そう簡単に死んだりはしないわ」


 ティアナは実際、七十七年後の彼に会っているから言った言葉だったが、その言葉に振り返ったリアは片眉を上げ悲痛な瞳で見つめ。


「そう、ね……」


 沈んだ声で同意した。

 リアがなぜそんな反応をしたのか疑問に思ったが、聞く暇もなく準備を急かされ、再び広間へと急いだ。



  ※



「セブラン皇子は先ほど国境の砦に向かわれた。我々、弓隊義勇兵はすでに森に入りこんだ敵兵を打つため、二人一組で樹上に忍び待機する」


 広間には三十名程の女性と子供、数名の男性が集まり、先程の宰相が厳つい黒塗りの弓矢を背負い、ぐりると集まった者を見回す。


「伝令役は、守護妖精のヘンリー殿とメアリア殿にお願い致した」


 そう言った瞬間、宰相の両脇にぽんっという音と煙を立てて、丸まるとした体の二匹の妖精が現れた。


「ヘンリー……メアリア……」


 つい先ほどまで一緒だった二匹よりも若い様に見える。

 周りには聞こえない様な小さな驚きの声を上げたティアナを、一瞬、ヘンリーが睨み、メアリアがにこりと微笑みを浮かべて見た様な気がした。

 ホードランドの王宮の場所が北欧の森だという予想が――確信へと変わる。


「それでは皆の者、いざ敵を打ちに北欧の森へ。武運を祈る!」


 大きな声を張り上げた宰相に続き、ぞろぞろと広間を出、いくつもの部屋を通り抜けて建物の外に出る。

 初めて外から見る建物は、ドルエスハンテ国の王城に比べ小さいと思っていた自国イーザの王城よりもさらに小さい。二階建ての細長い建物の周囲には、天をも貫く細長く高い針葉樹に囲まれ、王城の至るところにも大木が生え、まさに森に守られた王城だった。

 木々の枝葉、王城の屋根は白い雪で覆われ、森の中も雪が降り積もり、目の前には漆黒と白銀の世界が広がっていた。



 吹き付ける吹雪の中、ティアナは火を灯した小さなランタンを持ったリアに続いて北欧の森を進み、大木の太い枝に登る。


「だいたい、国境の砦と王城の間くらいよ。この場所なら、何かあったとしても……きっと大丈夫」


 ティアナがいる枝よりも少し高い位置の隣の枝で身構えるリアに、何が大丈夫なのかと疑問に思ってティアナは首をかしげる。

 そんなティアナを見て、リアはくすり笑う。


「もう次はないかもしれないからね、聞きたいことがあるなら何でも教えるわよ?」


 その言葉に、自分がティルラではないとリアが気づいているのではないかと思いつつも、ティアナにはそのことを打ち明けるよりも、今、知らなければならないことがあった。


「いくつか、聞きたいことがあるわ……セブラン皇子の名前はルードウィヒと言うの?」

「本名はセブラン・ルードウィヒ・メレディス・ファル・ホードランド。セブランは人間界での名、メレディスは魔界での、ルードウィヒは幼名よ。私達は幼い頃からの彼をルードウィヒと呼んでいて、他に人がいない時はその名で呼び合っているのよ」

「そう。では、この国の宝と言うのは――時空石のことね?」


 頼りないランタンの明かりの中、リアが静かに頷いたのが見える。


「時空石は今どこにあるのかしら?」

「王宮内にある宝樹の間よ」

「宝樹の間――?」

「そこで妖精達と魔法使い達が守っているて、時空石を扱えるのは王位についた者だけよ」

「そう……」


 戦が終わったら、宝樹の間に行くことは出来るかしら――

 それよりも、ヘンリー達に会った方がいいかしら――

 ティアナは顎に手をあてて、元の時代に帰る方法を考えながらも、すぐに行動を起こす気にはなれないでいた――



 今はここを離れることはできない――

 胸を締め付けるその感情に、ティアナは逆らうことができなかった。

 ここでどんなに必死に戦ったとしても、この戦の結末は変わらない――いいや、歴史を変えることはしてはいけないのだ。

 この場所で、ティアナ――ティルラは死ぬかもしれない。そうなればティアナの魂はどうなってしまうのか。ティルラの死と共に自分も死んでしまうかもしれない――という最悪の状況を想定しつつも、この場を離れることだけは出来なかった。


“生きてもう一度ルードウィヒに会うまでは――”


 それはティアナの気持ちだったのか、ティルラの気持ちだったのか――



 考え混んでいたティアナの思考を断ち切るように次々と悲鳴が森に響き、弓に矢をつがえ、息をつめて、敵兵が現れるのを待った。




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