第20話 混血の皇子
「セブラン皇子、バンザーイっ!!」
「セブラン皇子に栄光あれー!」
王に絶大な信頼を寄せられたセブラン皇子に広間の中大きな声援が送られる一方で、皇子の方を見ようともせず嫌悪感を露わにする人々がいることにティアナは気づく。異なる二つの反応を示している民達を見て、ティアナは首を傾げリアに小さな声で尋ねる。
「ねえリア、なんかおかしくない?」
「何が?」
こちらを見ずに聞き返され、ティアナは言葉に詰まる。
「なにって……」
ここがどうゆう国で、どうゆう国民性なのか、とか――今、自分の置かれている状況の半分も理解できていないティアナだが、違和感を覚える。
「ここにいる一部の人、すごい態度悪くない? まるで――そう、まるで皇子に対する態度には見えないわ」
しっくりくる言葉を見つけて、ティアナは一人頷く。それなのに、リアはあまりに平静に言う。
「そんなのいつものことじゃない――」
憐れみでも怒りでもなく――なんの感情もこめられていない――本当に、いつものことだと言うように。
いつものこと――!?
「どうして――っ?」
急かすように尋ねるティルラに一瞬視線を向け、リアがため息をつく。
「本当に今日のティルラは変ね――まるで別人みたい。いいわ、あなたの聞きたいことにちゃんと答えてあげる、だけど、王様のお話が終わってからよ――」
ティアナだけに聞こえるような小さな声で言われ、王の話の途中だったことを思い出して息を詰める。
「――弓の使える者は森にさ迷いこんだ敵兵を討ちに森へ、それ以外の者はこの王宮に避難するように。指示は追って大臣が伝えるだろう」
※
広間を出たリアに続き、ティアナは先ほど目覚めた部屋へと戻ってきていた。
ベッドに腰掛け足を汲み、豊満な胸の前で腕を組んだリアは、部屋の中央に佇むティアナをまっすぐに見つめる。
「話の続きをする前に一つ、ティルラ、あんたも弓、使えたね?」
ティアナは尋ねられ、お腹の前で両手を握り姿勢を正し、こくりと頷く。
実践で使ったことはないが、自国の王族教育の一環で弓矢の稽古もしている。
「森に行く弓隊は一時間後に広間に集まることになってる。それから、セブラン皇子も一時間後に砦へ出発するらしいよ」
「そう――分かったわ」
話をするのは一時間だけ、そうゆう意味で言われたと理解したティアナは頷いた。
ティアナは、自分はティルラではなく七十七年前から来たのだと打ち明けようかとも考えたが、リアを信用していいかまだ分からなかったし、言ったとしても信じて貰えない確率が高いと判断して、まずは状況を整理するだけの情報を得ることにした。
「さっきの話だけど、広間にいた一部の人はセブラン皇子を良く思っていないような、嫌悪するような瞳で見ていたわ。それがいつものことって――どうしてなの?」
リアは肩眉を上げてティアナは訝しげに見て。
「なぜこんなこと聞くのかしら……ティルラにはその“どうして”がよく分かっているはずよ――?」
「それは――っ」
言葉に詰まるティアナを見て、リアはふぅーと息を吐いた。
「セブラン皇子は――人間じゃないからよ」
「えっ!?」
「まあ、半分は人間だけどね、残り半分は魔族――魔王の血をひいた混血の皇子なのよ」
「こん……けつ……?」
「そう、ホードランド国王の息子ではなくて、国王の妹君と魔王の子供がセブラン皇子よ。ちなみに言っておくと、私の母は皇子の乳母、あなたのお父様は皇子の教育係――つまり私達は幼い頃からの皇子の知り合い、幼馴染っていう関係よ」
リアは腰を曲げて、ティアナを指さす。それから、わざとらしく口元に手を当て。
「あっ、違ったわ。ティルラは皇子の幼馴染であり――恋人だったね」
そう言ってリアはにんまりとからかうような笑みを浮かべる。




