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願い星

七夕企画2011の番外編です。

七夕にちなんだお話を作ってみました。



「降ってきそうな満天の星ですね――」


 舞踏会に向かう旅の途中のバノーファの街で、イザベルの企てで宿屋の中庭で踊ったティアナとレオンハルトは木の側に置かれたベンチに座り、夜空を見上げていた。

 四方を建物で囲われた中庭から見上げる夜空は、四角い額縁に切り取られた絵のように美しく星達が輝き、星の群衆が川のように大きな流れを描いている。


「昔、この辺りの土地には七夕という行事があったそうですよ」


 昼間、宿の人に聞いた話をティアナがぽそりと話す。


「ああ、七夕祭りのことですね」


 レオンハルトがふわりと優しく甘い笑みを向けて言う。


「七月七日の夜、願い事を書いた色とりどりの短冊を笹の葉につるし星に祈りをささげる行事で、バノーファの街では昔の名残で、七夕の夜には笹を中央広場に飾り、町中を飾りつけてお祭りをするそうですよ。私は、一度も行ったことありませんが」

「……行ってみたいです」


 ティアナが俯いて小さな声で言う。


「いつか――一緒に行ってみたいですね」


 頬を染めてもう一度言うティアナを見つめ、レオンハルトは胸がぎゅっと締め付けられる。


「行けたら――いいですね」


 二人とも、それが叶わない夢だと分かっていながら口にして微笑みあう。

 ティアナはそれが悲しくて胸が痛み――あえて明るい声を出す。


「レオンハルト様の願い事ってなんですか?」


 尋ねられたレオンハルトは瞠目し、なぜか頬を染めて視線をそらすように空を見上げた。


「……秘密です」

「えっ、秘密ですか……?」


 思わぬ答えに、ティアナは小さな驚きの声を漏らす。そんなティアナを横目にちらりと見たレオンハルトは、同じ質問を返す。


「ティアナ様の――願い事はなんですか?」


 改めて尋ねられると意外と即答できないもので、ティアナは顎に人差し指を当てて考え込むように満天の星空に視線を向けた。

 私の願い事は――

 そう考えて、すぐ隣にいるレオンハルトの顔を思い浮かべ、それからレオンハルトが猫の姿だった時を思い出す。



 またエルになったレオンハルト様を抱きたい――



 そう考えてはっとしたティアナの顔は見る間に赤くなっていく。



 いえね、抱きたいというのはいやらしい意味ではなくて、膝の上で丸まるエルのあのさらさらの毛並みを撫でるのが好きだったのよ――



 心の中で自分にいい訳をするティアナはその光景を思い出し、膝の上で丸くなったエルが突然、ぼんっと煙をだして猫から人間の姿になる。



「きゃっ……」


 思いがけない場面を想像してしまい、ティアナは悲鳴のような声を出す。そんなティアナをレオンハルトが心配そうに覗きこみ、翠色の瞳と空色の瞳が絡み合う。

 しばし見つめあった二人は。


「あの……」


 ティアナの発した言葉でお互いに視線をそらした。


「……私の願い事も、秘密です」


 レオンハルトだけに聞こえるような小さな声で言ったティアナの頬は赤く、横目でティアナを見たレオンハルトも頬を染め、居心地悪そうに視線をさまよわせる。

 お互いに相手を好きだと自覚しながら――上手く気持ちを伝えることが出来ないでいる二人の間に夏めいた風が吹き抜け、夜空の星は二人を包み込むように優しい光で瞬き、キラキラと漆黒の闇を照らしだした。

 季節は夏に移り変わろうとしている――



七夕当日はシリーズ2の後あたりなので、当日の話ではなくて

シリーズ1第35話の踊った後の話になります。


また行事とかに関連した番外編、書いてみたいです!

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