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第11話  愛のかけら 2

 


 小走りに先導するアウトゥルの後ろにティアナ、ジークベルトが続き、レオンハルトの私室を目指す。

 コンコン。

 アウトゥルが急く気持ちを抑えて扉をノックすると、中から凛とした声が帰ってくる。


「はい、どうぞ」


 レオンハルトの声だ。

 ゆっくりと扉を開けたアウトゥルは、ティアナ達を室内に促す。


「どうぞ、ティアナ様」

「はい、失礼致します……」


 ティアナが室内に足を踏み入れると、同じく呼ばれたのか部屋の中央にいたニクラウスが振り返り会釈する。

 会釈を返し中央に進むと、長椅子の上に、猫用と思われる籠型のベッドが置かれ、そこに艶やかな銀色の毛並みの猫が品よく座っていた。


「レオンハルト様、目が覚めたのですね。どこも怪我などはありませんか?」


 問いかけたティアナを群青色の瞳が仰ぎ見、くりっと広がる。


「申しわけありませんが――どなたでしょうか?」


 その言葉に、ティアナは唖然とし、部屋の中が静まり返る。困ったティアナが助けを求めるようにアウトゥルを振り返ると、眉根を下げてレオンハルトに近づき、側に膝をついてしゃがみこむ。


「レオンハルト様、こちらはティアナ様ですよ。イーザから一緒に旅をしてきて、舞踏会にも一緒に御出席になられたではありませんか?」

「何を言っているのだ、アウトゥル。忌々しい舞踏会は二ヵ月後だろう? まったく母上は勝手に私の花嫁を選ぶ舞踏会など決めて……」


 ぶつぶつと愚痴をこぼすレオンハルトは、尾で苛立たしげにパタパタと籠の下に敷かれたクッションを叩く。



  ※



 レオンハルトの私室を出、近くの部屋に移動したティアナ、ジークベルト、アウトゥル、ニクラウス。


「レオンハルト様が目を覚まされて、ティアナ様と丘に行った話や時空の裂け目の話をしたのですが、全く記憶にないご様子で。おまけに、『ティアナ様とは誰だ?』とか仰られて……」

「本当に私のことを覚えていないようでしたわ」

「どういうことなんだ?」


 考え込む三人に対して、ニクラウスが薄茶色の瞳を涼しげに光らせ言う。


「レオンは体だけでなく、記憶も二ヵ月前――つまり、猫にされる魔法をかけられた直後に戻ってしまったのだろう。舞踏会は“まだ二ヵ月後”と言っておった、おそらくそうじゃろう」

「二ヵ月前――」

「ってことは、ティアや俺に会う前で、俺たちに会った記憶や一緒に旅してきた記憶はすべてないということか?」

「記憶を失くしたのか、一時的に忘れているのか――それは分からぬが、ちと困ったことになるなぁ」


 ニクラウスが白い顎髭を触りながら、困っているとは思えない様な穏やかな声で言う。


「ニクラウス殿、何がまずいのでしょうか?」

「アウトゥルよ、考えてもみるのじゃ。レオンが自分の魔法を解くためと言えど、初対面の女子に接吻させると思うか――?」

「あっ……」


 大きな口を開け、手を当てたアウトゥル。ジークベルトは鼻で息を漏らし天井を仰ぎ、ティアナは居心地悪そうに視線を床に落とした。


「それは、確かに……。レオンハルト様なら、首を縦には振らないでしょね。なんとしても他の方法を探すと言って城を飛び出して行ってしまいそうな……」

「別にキスじゃなくても、方法があるだろう?」


 ジークベルトがニクラウスを見て言う。


「王子は俺に、魔法を解く準備をして待っている魔導師がいる、力を貸してほしいと言っていた。まあ、こうして俺は城まで来てるわけだし、俺とニクラウス殿で……」

「無理なのじゃ……」


 ニクラウスは眉根を寄せて首を横に振る。


「確かに、ただ魔法をかけられただけの状態ならば。しかし、今は違う。時空の裂け目に触れたことによってレオンにかけられた魔法はだいぶややこしくねじれてしまっている。本来ならかけた魔法使いにしか解けない様な魔法、それがあんな複雑になっては、我々魔導師では解くことはもはや不可能じゃ……」

「そんな……っ!」


 アウトゥルが悲痛な叫びを漏らす。


「それではレオンハルト様は、一生猫の姿のままだというのですか?」

「ニコラウス氏、他に魔法を解く方法はないのですか……?」


 ティアナとアウトゥルは期待を込めた眼差しでニクラウスを見つめる。


「ある……」

「あっ、本当ですか!?」


 歓喜に、ティアナとアウトゥルの声が重なる。


「しかしなぁ……」

「どんな方法なのですか? 私に出来ることならばなんでも致します。元々レオンハルト様は時空の裂け目に触れようとしていた私を助けて猫の姿に戻ってしまったのですから……」


 必死に訴えるティアナ。ジークベルトはぴくりと眉を動かす。


「レオンハルト様を元に戻すためなら、なんでも……」


 切実に訴えるティアナに、ニクラウスは負けたようにため息を漏らし、顎髭を撫でていた手を止め、じぃーっとティアナの翠色の瞳を覗きこむように見る。


「王宮の北には北欧の森という古の力が強く残る魔の森が広がっておる。言い伝えでは、北欧の森の奥深く、持つ者に時を自在に操り移動する力を与える石があると言われておる。その石の名前は――時空石」

「時空石――聞いたことがあるが、それは神話の中だけのものだと……」


 言い淀むジークベルトに、ちっちっと指を振りニクラウスが窓の外、王宮の北に広がる森の方へと視線を向ける。


「実際に存在しておる――その石があれば、時を操り、レオンが時空の裂け目に振れる前に戻すことができる」

「しかし、北欧の森は魔物が巣食い、森に迷い込んだ者は二度と出てこられないと言うではありませんかっ!」


 アウトゥルが眉根を寄せてニクラウスを見つめる。


「ああ、そうじゃ。しかし、他に方法はないのじゃ――」




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