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第10話  愛のかけら 1



 バチバチバチっ!!

 落雷の様な大きな音があたりに響き、虹色の輝きに吸い込まれそうになったレオンハルトは運悪く崖から足を踏み外し、谷底へ放り出されてしまった。


「……っ!?」

「レオンハルト様っ!」

「王子っ!」


 それまで二人から離れた場所で待っていた護衛のアウトゥルとフェルディナントが異変に気付き駆けつけてくる。


「っ! ティアナ様、お怪我は?」


 ティアナは地面にへたり込み、揺れる瞳でレオンハルトが落ちて行ったが崖の方を呆然と眺める。


「あっ……私は大丈夫です……それよりもレオンハルト様が……」

「この下に落ちたようですね。この丘はそう高くありませんから、きっとレオンハルト様もお怪我くらいで命に関わることはないでしょう。それよりもお二人が時空の裂け目に引きずり込まれなくてよかった」


 冷静な声で崖の下を覗きこむフェルディナント。

 アウトゥルはティアナの側にしゃがみ、立ち上がる手助けをする。


「ティアナ様、大丈夫ですか?」

「ええ。さっきのあれは……なんだったのですか……?」

「あの空中に現れる虹色の輝きは、時空の裂け目です」

「時空の、裂け目……?」


 初めて聞く言葉に、ティアナはただ口の中で反芻する。


「はい、通常はこんな場所には現れないのですが、最近は街の近くでも出現すると報告を受けています。時空の裂け目に吸い込まれると永遠に時空の中に閉じ込められて出てこられなくなると言われています。運が良ければ過去または未来に時間を移動するとも言われていますが、裂け目に吸い込まれて助かった者はいままでに一人もいませんので、確かなことはなにも。レオンハルト様も吸い込まれなかったご様子……」


 アウトゥルは言って顔を悲痛に顰め、それを隠すように笑顔でティアナに話しかける。


「とにかく、崖の下へ急ぎましょう」


 そう言ってフェルディナントは近くに繋いでいた馬を連れてきた。ティアナはフェルディナントに支えられて彼の愛馬である漆黒の馬に乗り、アウトゥルは葦毛の馬に騎乗しレオンハルトの愛馬である月毛の馬の手綱を引き、先を行くフェルディナントに続く。

 一行は王城から来た道を下り途中で脇道を進み、レオンハルトが落ちたであろう谷底を目指す。

 脇道をしばらく進むと、舗装された道から土の道に変わり木々が鬱蒼としてくる。

 丘を見上げられる場所で馬を下り、手分けしてレオンハルトを探す。


「レオンハルト様~!」

「レオンハルト王子っ!」

「レオンハルト様!」


 それぞれが声をかけながら崖下を探すと、枝の折れた木を見つけティアナとアウトゥルはその根元に駆けよる。

 青々とした葉が落ちて緑色の絨毯になり、その上に、艶やかな銀色の猫が横たわっていた。



「レオン、ハルト様……?」


 ティアナは半信半疑だったが、約一月一緒に旅をしてきた銀猫の姿を見間違うはずがなかった。慌てて猫の姿で横たわるレオンハルトに駆けより、アウトゥルもそれに続く。


「レオンハルト様……どうして、また猫の姿に……?」


 言いながら、アウトゥルは慎重に抱きあげる。

 二人の声を聞きつけてフェルディナントが駆けつけてきた。


「王子が見つかったのか!?」

「それが……」


 状況をつかめずに呆然としている二人とアウトゥルに抱かれた銀猫を見て、フェルディナントは眉根を寄せる。


「王子……なのか?」

「おそらく……」

「レオンハルト様ですっ」


 あまり自信のなさげなアウトゥルに対して、ティアナははっきりと言い切った。

 フェルディナントは顎に手を当ててしばらく考え込み、ぽつりと一つの仮定を話す。


「もしかしたら、レオンハルト王子は時空の裂け目に触れて時を遡り、猫だった時に戻ってしまったのでは――?」

「それは……」


 考えても結論は出ず、不安と焦りが募ってくる。


「いつまでもここにいても仕方がない。ひとまず王城に戻り、ニクラウス殿に意見を仰ごう」



  ※



「うーむ、わしは時空関係に詳しくないからはっきりとは言い切れないが、時空の裂け目に触れた影響で体が過去に遡ってしまった――という可能性は高いな。まあ、レオンが目覚めたら話を聞いてみよう。猫から人間に戻る方法は分かっておる、焦る必要もなし」


 ほっほっほっ、と朗らかにニクラウスは笑った。

 猫の姿になってしまったレオンハルトを連れ王宮に戻った三人は、急ぎニクラウスの部屋のある王城の南の尖塔を目指したのだが――ニクラウスに、なんでもないというようなやや冷たい態度を取られ呆気にとられるアウトゥルとフェルディナント。

 未だに目を覚まさないレオンハルトをとりあえず自室に連れていくと下がっていってしまい、ティアナはニクラウスの部屋に取り残されてしまう。

 ティアナは、黒革張りのソファーに腰掛けた初めて会うニクラウスを呆然と見つめる。老齢だからこそ深みの増した美しさに見とれていると、奥の部屋から出てきたジークベルトと視線が合う。


「ティア、どうしてここに?」

「私はレオンハルト様のことで……、ジークこそどうしてニクラウス氏の部屋に?」

「俺は……ちょっとニクラウス殿の蔵書を読みに……」

「あら、ジークが勉強? 珍しいわね」

「ああ……」


 ジークベルトは感心するティアナの瞳から視線をそらし、耳を掻く。二人のやり取りを手に持った本を読みながら横目で見ていたニクラウスは静かな声で言う。


「ジークベルト殿、ティアナ姫を部屋まで送って差し上げてくれ」


 その言葉に、ティアナは顔の前で両手を振り遠慮がちに声を出す。


「えっ、そんな大丈夫です。私、一人で戻れますから。ジークも大丈夫だから」


 そう言ったのに――


「いや、ちょうど一度部屋に戻ろうと思っていたとこだから。それではニクラウス殿、また後ほどお伺いします。ティア、行くぞ」


 前半はニクラウスに、後半はティアナに言い、部屋を出る扉に向かって歩き出したジークベルトをティアナは慌てて追いかけた。



「さっき、王子のことで来ていたと言っていたが、何かあったのか?」


 二人が借りている客室に近づいた頃、ジークベルトがそう切り出した。


「えっと――」


 ティアナはレオンハルトに連れられて行った丘であった出来事を簡単に話して聞かせた。


「レオンハルト王子がまた猫の姿に――?」

「ええ。今はアウトゥルさん達が部屋に運んだところで」


 話しながら客室の扉を開きメインサロンに入ると、イザベルが出迎えてくれる。


「あっ、ティアナ様、おかえりなさいませ。お夕食の前にお茶に――」


 そう言ったイザベルの言葉に被さり、慌ただしく扉がノックされ、がちゃりという音と共に蒼白な顔のアウトゥルが駆けこんで来る。


「たっ、大変です。レオンハルト様が、目を覚まされたのですが……ご様子がおかしいのですっ!」




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