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Ninfea  作者: 蠍ノ丘
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57話 古い屋敷

 ロギアが慣れない手つきで食器の跡片付けを済ませると、そのタイミングで呼び鈴が聞こえアリアは手を拭き急いで玄関へと向かう。


 此処へ来たばかりの時に新調してもらった靴を履き玄関の扉を開く。


「おはようございます、アリアさん」


「お、おはよう……ございます」


 そこには礼服を着た褐色肌の青年、桐ケ谷尊信の姿があった。


「マザーがお戻りになられました。後は貴方がたの準備が出来次第いつでも面会可能ですよ」


 青年の口から出た言葉は二人にとって待ちわびた物だった。


 マザー側の諸事情でかれこれ二日間もの間待たされていた事もあり、ロギアに関しては若干の不満はある様だったがその二日間のおかげでアリアについては此処に来た当初よりも今は心に余裕がある。


「ああ、俺は一応出来ている」


 ロギアは短くそう答え、振り返るアリアにも確認する。


「大丈夫、行こう……」


 アリアはさっと部屋を見回し戸締りを確認すると玄関を出ようとし――



【―――君は世界の救済する事が出来る二人目の『新人類』なんだ。いずれ君の頑張りが報われる時が来る……君は他の贋物とは違う新人類の『イブ』なのだから――――】



 「――ひっ!?」


 嫌な記憶が蘇る。


 アリアは唐突に目眩を感じフラフラと立ち竦みそうになるもののロギアが身体を支えた。


「大丈夫か?」


「う、うん――大丈夫……」


 苦笑いで応えアリアは部屋を振り返る。


「どうした?」


「ううん……何でも無いの。ただ――ちょっと嫌な事思い出しちゃっただけだから」


 頭に響く様にじわじわと蘇る嫌な記憶を必死に振り払いつつも、中々それを全て頭から消す事が出来ず胸が締め付けられる様な感覚に駆られた。


「――そうか、なら良いんだが……」


「それでは行きましょうか」


 青年はアリアが玄関から出て来たのを確認するとそう柔和に微笑んだ。


「う、うん――」


 アリアは一瞬何て応じようかと戸惑ったものの直ぐにお辞儀で返し、ロギアは何時もの様に目を合わせるだけだった。

 



 周囲を植物の塀で囲まれた道の手前で車両は停止した。


 「ここから歩きましょう」


 青年の言葉の通り二人は車両を降りる。


 右側には高い植物の塀があり、左側には何本もの太い幹と手入れが行き届いているとは言えない程の草が生えていた。


 フェンスや塀にすると圧迫感が出てしまう為それを避けようとしたのか、又は単にマザーの趣味なのか。此の道には狭苦しい印象を受け逆効果に感じてしまう。


 その少し先には左側に車が四台程止められる様な空間が出来ており、そこには子供用の小さい遊具が三、四個とベンチ、そして小さい砂場が設置されていた。


 その空間は人によっては殺風景で不必要な空き地に見られるかも知れないが、辺りが植物に囲まれていながらも朝日が木々の隙間を抜けその公園に降り注ぐその景色は見惚れてしまう程の美しさを感じる。


「さぁこちらです」


 青年は公園に視線を向ける二人に声を掛け、その脇を通り抜け歩を進めて行く。


 そのまま道なりに歩いて行くと塀から植物が無くなりレンガ造りの塀が剥き出しになっていく。同時に傍には薔薇の花が咲いていた。


 入り口とみられるアンティーク状の鉄の門の傍には女神をあしらったであろう銅像が設置されており、それを見ると心がぞわぞわする様な感覚にさせられる。


「まるで幽霊屋敷だな」


 ロギアは自分達が車両から降りて此処迄歩いて来る時に見掛けた光景を頭に浮かべながら率直な意見を口にする。


 それにアリアが同意する様に頷き、青年は苦笑いを浮かべる。


 アンティークの鉄の門、その先にはかなりの大きさの庭と声が漏れてしまう程の立派な屋敷が見えた。


 青年は鉄の門の直ぐ左側に設置されている四角状の小さい機械に手をかざす。


 すると小さな電子音が聞こえ鉄の門がゆっくりと開く。


「此処を電子にするくらいならもっと周囲を固めた方がいいと思うが……それにこんな鉄の門じゃあ余り意味があるとは思えんが?」


 皮肉っぽくロギアが呟く。


「此処の地域はこれでもグリーンエリアなので安全は確保されていますし、もし万が一に此処を感染者や部外者が通過したとしても屋敷の方の体制は全く隙が無く設計してありますので心配には及びませんよ。それに、此の門も此の庭もそうですがマザーの意向もあって実用性よりもデザイン重視なので」


「……」


 ロギアは実用性が一部にしろ蔑ろにされた理由に関して納得とはいかない様子だったがアリアは納得し小さく頷いてから青年に先に進む様促す。


 青年の跡に続き二人が大きな庭の中央部分には噴水、その周りには数々の種類の花々が咲いており幾つもの銅像が目に入った。



 三人がホラーゲームの序盤に出てきそうな不気味な庭を抜け屋敷の前まで辿り着くと、ガチャリと重々しい音が幾つも聞こえ扉が開けられる。


「お持ちしておりました。大婆様――いえ、マザーが奥の部屋でお待ちですよ。アリアさん、オルバースさん」


 七十代と見られる顔に多くの皺を刻んだ年配の女性が扉に近付いてきた三人を出迎えた。


 青年は微笑んで応じ、アリアもそれに倣ってお辞儀をするがロギアは慣れない名で呼ばれたせいか数秒遅れで返事をする。


 その後その女性は青年と幾つか言葉を交わすと少し曲がった背中をロギアとアリアに向ける様にし、そそくさと屋敷の奥へと進んで行ってしまった。


「おい、あれは?」


「彼女は僕がマザーの傍に居ない時の代理をしてもらっている方です。少々口数は少ないのですが悪い人ではありませんよ。どうぞ、こちらへ」


 高級そうな絨毯を踏みしめ、又は壁に掛けられている絵画に目をやりながら二人は歩を進めて行く。


 廊下だと言うのに幅がやけに広く、壁際には本棚が幾つも置かれており、埃一つも落ちていない。


 そう言った事に驚いている内に辿り着いたのか、青年が一つの部屋をノックしてから扉を開け「こちらへどうぞ」二人に先に進む様促した。


この度は第57話を読んで下さりありがとうございました。


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