37話 出発
午前八時
「朝食抜きだと体力が持たんぞ?」
そう唐突に言い出したロギアの意見に橘達は少しばかり我慢する様反論したが、ロギア達への信頼が欠落している以上渋々その意見を受け止める事になった。
ロギアに缶詰を渡されたアリアは蓋を開け魚の切り身を口へと運ぶ。
「流石に量は少ないと思うが――――」
ロギアは何かを言おうとして途中でその言葉を止め、アリアへと視線を送る。
「この先どうなるかは分からない。食料も極力消費を避けたい、どうなるかはその時次第だ。何があっても俺がいる。間違っても変な判断だけは起こさないでくれよ」
「うん、ありがとうロギ」
その言葉はアリアの特性を把握しているからだけじゃなく、その優し気な投げかけにアリアはホッとする。
そして魚の切り身を口にし、その味の濃さに目を見開く。
ロギアはそのアリアの大袈裟な反応に満足しつつ自身の口に切り身を放り込む。ただアリアの腹の調子が分からない為、一応他の缶詰も開けてやり目の前へと差し出す。
「そ、そんなに食べないよ」
自身の目の前にずらりと並べられた缶詰を見て驚いたように声が出る。
「そうなのか?」
勿論この行動がアリアの特性を知っているからこそなのは理解している、ただ――――
「聞いてくれれば良いんだよ?」
その言葉にロギアの顔が並べられた缶詰達を捉える。
「まぁ、開けちまったんだから仕方ないな。勿体ないし食うぞ」
ごまかす様に笑いながらロギアも一つ缶詰をとる。その様子にアリアは苦笑しながらも自身も開いた缶詰に手を伸ばした。
予想よりも大分時間をロスしてしまっていた。
「まぁ、こればかりはしょうがないかぁ」
橘は朝食を取り終える二人を見ながらそう小声でぼやく。
「お前達も何か口に入れとけよ」
橘がそう水琶とユズルに言うや否や自身もレーションを取り出し始める。
「了解しました」「へーい」
水琶は今の状況がちゃんと見れている為かきちんと返事をしユズルは不安ありげに返事を返す。
橘はロギア達とのファーストインプレッションが大きく失敗した事に後悔しつつも、どう距離を縮めるか頭を回転させながら手に持つレーションを口へと運ぶ。
「今のレーションってこんな味もあんのな」
「隊長……」
その一言に水琶は呆れ顔を作った。
二人のピリピリ感が減っている事に若干満足げになりながら窓から空を見上げる
「何にも起きないといいけどねぇ」
橘は空を見上げ何気なく呟いた。
橘達が持つ端末によると今日の昼頃大体二時頃には天候が悪化するらしい。
ロギア達は早々に民家を出立し、遅れを取り戻す様休憩は最低限の回数で怪我人に関しては気遣う素振りも無く一行は廃墟の様な場所を抜けていく。
車両や感染者が多く居そうな場所を出来るだけ避け数時間歩く内に目的地である建物が視界に入る。
「あれが目的地のビルだ。屋上にヘリポートがあるからそこで待機する手筈になっている」
橘のその言葉に部下である水琶とユズルは返事をするがロギアの中では一抹の不安が頭を過る。
「――ロギ?」
その不安を察したかの様にアリアは首を傾げた。
「いや――何でも無い」
どんよりとした黒い雲が空一面を覆い、湿った空気に乗りひんやりとした風が頬を撫でる。今にも雨が降りだしそうな中一行は目的地であるビルへと歩を進めていた。
アリアは草臥れた溜息を吐きながらも、疲労で周囲への警戒を緩める事の無い様に意識を集中させる。
しかし突然腹の音が鳴り響き、空腹感に襲われアリアは咄嗟に自分のお腹を抑えた。
自身にだけ大きく聞こえているのか分からず視線をロギアへと向ける。音が聞こえているのは自分だけだったらしく全員が音に気付いた様子は見られない。
今朝民家を出立前にロギアの唐突な申し出で、空腹に関しては安堵したばかりなのに、と自身の食欲に呆れそして自らの不甲斐なさがロギアの足を引っ張り過ぎている事に嫌悪感を抱き同時に自分に対しても恨みが募って行く。
“何で――何で、何で、何で――――っ!?”
今話せばまだ何とかなるかも、そんな考えが頭を巡りお腹を抑える手に力が入る。
“納まれ納まれ納まれ納まれ納まれ納まれ――――”
無駄だと判っていながらも自らの腹部に爪を突き立て何とか空腹感を痛みで消し去ろうと試みるが納まる気配等は微塵も感じずより一層大きくなっていく。
これから向かう都市の事と橘と言う男の言葉の信用性を頭に巡らせると流石に足取りが鈍るだろうと思ったのか、ロギアはちょくちょく歩みを止め声をかけてくる。
此処まで巻き込んでしまった以上どうしても自らの選択が間違っていたのではないか等の思考が脳を支配する。
“今直ぐ話せば――いや……そんな事したら見捨てられる――――っ!? ッ流石にロギアももう許してくれない、こんな事を隠していたんだと知られたら……でもこのままだと皆――――どうしたらどうしたらどうしたらどうしたら――――”
「大丈夫か?」
気付くとロギアがすぐ傍まで来ており、アリアの様子を確認する。
「えっと――ロギ、あのね……私、お腹……」
恥を忍んで耳を赤くしながらそう呟くと、ロギアは自身のバックのサイドポッケから携帯食料を取り出すとアリアに手渡す。
「気にするな、何かあったら言えばいい」
その言葉にアリアは息を呑む。
「ありがと……」
頬を赤くしながらも礼を述べた。
この度は第37話を読んで下さりありがとうございました。
☆マークから評価・お気に入り登録、感想いただけると励みになるので宜しくお願い致します。




