34話 治癒能力
流石に今から寝るのは早すぎる。感染者達の対策は橘達が受け持つと言い出した事もあり、今は自分達が警戒し続ける必要はない。
“まぁ十二分に休めるだろう……”
「アリア、今後の予定だが一応下に居る連中の言う通り、今日は休んで明日にはアイツ等が言う回収地点に出発するつもりだがそれでいいか? 確かに後先がどうなるか判断出来ない危険な選択だが、正直今はこの怪我のせいもあって頭がクラクラする。それに流石に此処を抜けた後先で感染者と鉢合わせしようものなら今度こそ何も出来る気がしない」
「……っ、う、うん分かった。そんなにハッキリと言う事じゃない、と思うけど……でも、これからどうするかはロギに……任せるよ。……私には全然分からないから。」
膝に顔を埋めていた為アリアの声は小さくこもったように聞こえた。
ただ声の調子からこのじめじめした、いかにも感染者が好みそうな場所には長時間居たくなさそうに見える。
「で、でも……これから私達……どうなるのかな?」
アリアのその疑問についてロギアも正確には応えられなかった。
「さぁ、初めの戦闘であの橘って奴は少なくとも俺に警戒しているだろうし、アイツが使ったと思われる薬品に関しては情報がゼロだ。大方の想像はつくがそれだけで無茶な選択は取りづらいし、まぁ、どの道なる様にしかならんだろう」
「……やっぱり、そうなんだ……」
「アリア、悲観的に捉えるばかりじゃなくてたまには楽観的に捉えてみたらどうだ?」
「楽観的って……ロギって……何か雑……」
アリアのその容赦の無い言葉が胸に刺さり、ロギアは苦笑いを浮かべつつ同時にアリアが取り敢えず自身の意見を聞いてくれる事に安心した。
「雑って言うな、雑って……まぁ、これからの事は取り敢えず決まったと言う事にして……話が全然変わるんだが、寝る場所の事で言っておきたい事がある」
アリアはロギアに顔を向け首を傾げた。
「アリアには悪いと思うが今お前を一人に出来ない。アイツ等の事を俺は信用していない、そこまでは言うつもりは無いがもしもって時があるからな。」
それを言った後、アリアに床で休まず一人掛けソファやベッドで休むように勧めたが相変わらず一向に動く気配すら無い。
「ロギは?」
顔は上げたものの口元が腕で隠れている為まだ声はこもっていた。
「さっきも言ったが俺は此処でいい。見張りも兼ねているからな」
「……」
「安心しろ、何もするつもりも無いし、何かあったら起こす」
「……いい」アリアは小さく呟いた
「ん?」
「私もここにいる……」
「ここにいるって……そこにベッドだってあるし、ここより疲労は取れる」
「ここの方が……居心地がいい」
「……そうか、やっぱり変わってるなお前」
そう言うとロギアは全身の力を抜き足をだらんと伸ばし、一番楽な態勢を探す。
それから数分の時が流れアリアはロギアがこれ以上話を続ける気が無いと分かると、立ち上がり今度は部屋内をウロウロと歩き始めた。
最初のうちは疲れもあってかアリアの行動は全然気にならなかったのだが、いつまでたっても同じ所を歩き回ったり、落ち着かないのかキョロキョロと辺りを見回す様子がちらちらと視界に入り込みどうしても気になりその動きを観察する。
“……な、何してんだ”
アリアを眺めていたロギアはショッピングセンター内で見た書類の中にまだ目を通していなかった物がある事を思い出し、あいつ等に取られていない事を祈りながらアタッシュケースから移動させていた書類をバッグから探し出そうと腰を上げる――
「ッ!」
ロギアが移動した時の衣服の擦れる音に驚いたのかアリアがガタっと飛び跳ねた。
「悪い、そこまで驚くとは思わなかった」
ロギアはアリアが視線を向けてくるのを気にせずバッグに手を突っ込み目当ての物が見付かり取られていなかった事に驚きながらも「取られなかったんだな」そんな言葉が漏れる。
「うん……何でか知らないけど……」
「……そうか」
独り言で呟いたつもりがアリアが返答して来た為一言だけ返し書類を取り出し読み始めた。
実験内容と実験結果、書類に記載された被検体の多くが人体実験の末に残酷な結末に辿り着いている事に不快感を覚えながらも書類を読み進めて行く。
「…………ねぇ」
書類を読みふけっているとグイッと左肩を引っ張られ、ロギアはアリアに声をかけられている事に気付いた。
「ん? 何だ?」
「……や、休まないで平気なの?」
「心配しなくても休んでるつもりだが?」
ロギアは書類から視線を離しアリアを見上げ、その際にアリアが怪我をおった個所が視界に入る。
「アリア……その傷口はどうなってる?」
ロギアの問いかけの本意に気が付いたのかアリアは少しバツが悪そうに首を俯き袖をめくり上げ自分の腕をロギアに見やすいように向ける。感染者に付けられたばかりの傷はこの短期間の間に殆ど治っていた。
“直ってるな……”
書類を読んだ時に治癒能力の事については頭に入っていたのだが、実際に目の前で見てしまうとその不気味さに背筋が冷たくなる。
「……気持ち悪い、でしょ?」
絞り出すかの様に掠れた声はか細く弱々しい物だった。
「まだ全部と言う訳じゃないが、一応この記録には目を通した……確かに直に見るとお世辞にも気持ち悪くない、だなんて言えないな……」
「そう……だよね……」
少しの間が空き、アリアは深く項垂れてしまう。
「だが――それがどうかしたか?」
「え?」
アリアは顔を上げロギアの横顔を見据える。
「誰がどう思おうが結局は個人の主観でしかない。そんな物を素に聞き入れた所で何の役にも立たないし、この先、生きていくのに邪魔になるだけだ」
ロギアは言うか言わないか迷ったのち少し間隔をあけてからいつもと変わらない口調で告げた。
「治癒能力がある……それは紛れも無い事実だ。例え自分では望んではいなかったとしても、その特性についてメリット、デメリットを考えた上で十分に活用して行けばこの世界では誰よりも上手くいきていけるだろうな。別に大きくマイナスに捉える必要なんかない……特性が無くても行動、性格がぶっ壊れている奴なんて沢山いる。それよりかは全然マシだ」
ロギアが言うとアリアの眼差しは一向に変わらず、ロギアはその視線に耐え切れずに身体をアリアが視界に入らない様に動かした。
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