27話 激突
男とアリアの視線がお互いに交差し、何にも動じなかった男の目が真剣な物へと変わる。
「だとしたら――――なッ!?」
男の言葉が中途半端な所で何かに遮られ、アリアは目の前の光景に仰天した。何かが傍をかすり男の脹脛にボウガンの矢が突き刺さっていたのだ。
「あうぐっ! 起きたか――ッ!」
矢は男の脹脛に深々と刺さっており、その場で膝を落とし苦痛の表情を浮かべる。
「た、橘隊長ッ!!」「何だってんだっ!!」
男の後方にいた女とユズルが思わず声を上げた。
「……ざまあみろ」
ロギアは男に聞こえる程の声で悪態をつく。
「くっ――」
予想外の状況に周囲が唖然とする中、男は瞬時にホルスターから拳銃を引き抜く。男のその動作はアリアは勿論の事、男の仲間でさえも直ぐに反応出来ない程だったが――ロギアの方がそれよりも動くのが速かった。
ロギアは立ち上がるのと同時に地面を蹴り男に肉薄すると自分へと向けられる拳銃を上から押し返し、そのまま男の手首を捻り上げ銃口の向きを男の腹部へと方向転換させ――
「――なッ!?」
その動作が超高速と表現しても可笑しくない物で、男は目を丸くし驚く事しか出来ず、男の視界にはその時のロギアの口元が不敵に歪む光景を捉える。
瞬間、男の背筋が凍り付き間髪入れず発砲音が辺りに響き渡った。
「う、うぐ――――ッ」
男が腹部を抑え、流れ出る血を視界に捉えながらその場からバックステップで距離をとる。
「――は? な、何が起きてやがっ――」
目の前で起こった出来事に付いていけずユズルが口を開く。
「さ、下がってっ!」
そこに女がユズルの首根っこを引っ張りロギアとの間に入りアサルトライフルを向けた。
「直ぐに武器を置きなさ――――」
ロギアは女の警告が言い終わるよりも早く身体を動かすと跳びかかる様に跳躍し、遠慮無くナイフを肩へと突き立て肉を抉り取る様に手首を捻る。
「あ、あがぁあ!」
怯んだ女に蹴りを入れナイフから引き剥がす様に吹き飛ばすとロギアは休む事無く身体全身を動かし、最後の一人へとナイフを投げつけた。ロギアの手から放たれたナイフは刃先の向きを変える事無くユズルの膝へと突き刺さる。
「な、なああああぁぁぁッ!!」
今まで自分達が優勢だと思っていた状況からの今の状況への変化、いつ死んでも可笑しくない、ユズルはその恐怖に耐え切れず余裕を無くし悲鳴を上げた。
その間にもロギアは脚を動かし、最初の頃の粋がった印象が欠片も残っていないユズルへと強襲を仕掛ける。事態に追いつけず混乱しているユズルとの距離をあっと言う間に詰めると容赦なく、その横顔に蹴りをいれた。
「ご、がぁっ……」
ユズルの頭が大きく揺れ、糸の切れた人形の様に倒れ込み動かなくなった。ロギアはナイフを引き抜くとユズルの服で刃先にこびり付いた血を拭い取り、少しばかり荒い息を整えながらアリアへと焦点を合わせる。
「大丈夫か?」
「……」
「おい」
呆然とするアリアに近付きロギアは一段階声の音量を上げる。
「え……あ……う、うん。大丈夫……」
やっと反応したアリアはそう応えると、何が起きたのか今の状況を見回し、その視線は地べたに倒れ込んでいる者へとそそがれる。
ロギアはアリアの無事を確認すると距離をとった男の方へと視線を向ける。
その際に酷い頭痛を感じ、顔をしかめその場で立ち止まった。血が額を流れまつ毛の上に溜まり、ひとひとと落ちていく。
物が二重に見え頭がクラクラする「……ッチ」原因は確実に男から貰った一発だろう、そんな事が頭に浮かび、服の袖で血を拭い取る。
「……とっとと移動す――」そう言ったものの動きが遅く、ロギアは顔を振り意識を集中させようとする。
「……ロギ?」
アリアは足元がふらつくロギアを心配気な表情で眺める。
“ど、どうしよう……け、怪我、してる……”アリアはロギアのふらつく様な足元に目をやり、頭から流れ出ている血液に目を捉われた。
その途端アリアは胸が疼く様な嫌な感覚に襲われ咄嗟にロギアを視界から外す。
“何……今の……”
アリアは自分の胸を抑え、さっき感じた違和感について頭の中で考えを巡らすが、自分達が置かれた状況を思い出しその疑問を振り払いロギアの傍へと駆け寄る。
“それよりも今は――――”意識が未だに朦朧としているだろうロギアの身体を支える為傍まで駆け寄ろうとする――
「――血を見て自分の中の人間じゃない細胞が疼いてるんだろうな。お嬢ちゃん、自分さえ制御出来ない状態でこれから先もそいつに迷惑をかけ続けるのか?」
「――――え?」
突然声をかけられ戸惑うアリア、ロギアもその声に瞬時に反応する。
「少年、良い技術だ。オレがお偉いさんならスカウトしたいぐらいだ」
男の纏う空気が刺す様な物に変わりロギアをじっとりと見据えていた。
二人が睨み合い、ロギアが先に動く。拳銃を引き抜き早打ち。
ハンター相手ならこの速射は通じるが、男は明らかに違う動きをする。膝と腹部に傷を負っているのにも関わらずロギアの腕が動いた途端地面を蹴り猛スピードで突っ込んでくる。
弾の軌道を予測し男はその爆発的なトップスピードを落とさず顔をずらす。
「読めさすれば流石に通じんよ」
ロギアの速射は男の髪を霞め虚空を貫いていく。
「フッ――!」
ロギアも遠距離攻撃を捨てナイフへと切り替える。
二人のナイフがぶつかり火花を放つ。何度かの切り合いで互いの切っ先をいなしいなされ嫌でもお互いの実力を把握する。
ロギアがこの男に対して感じた違和感。
この男は余りにも感が鋭すぎるのだ。目が合った時もそうだがこうして切り合っている最中でもそれは顕著だった。
軌道を変えナイフを振っても、まるでそれを読んでいるかの様にいなす。逆に相手の攻撃は全てカウンターの様に突いてきており、いなすのがやっとの程だった。
男の実力は間違いなく一流。
「これは、気がすすまないが……アイツラ等の事もある、早々にケリをつけさせてもらうぞ」
男の動きが突然変わりアリアへと切っ先が向かう。
「ちぃッ!」
守る戦いをした経験が少ないロギアにとっては致命的な部分だった。それがフェイントだと頭では理解してはいたが咄嗟に身体が庇う様に動き、それが大きな隙を作る。
「悪いな、普段はしないが今回は特例だ」
落ち着いた声と共に男の鋭いつま先蹴りが再びロギアの腹部を撃ち抜く。
「があぁッ!?」
何とかその場で踏みとどまるロギアに男が碧色の目を見開く。
「驚いたな、これ程か……なら――――ッ」
そう男が呟くと同時によろめくロギアに向け止めとばかりに強烈な膝蹴りが放たれる。
「ぐぅ!」
鳩尾に膝蹴りを貰い前のめりになった所に続けざまに腕を後ろ手に回され組み伏せられてしまう。
「――くッ!!」
足掻こうとするものの人間とは言えない程の力で、そうこうしてる内に首元にチクリと何かが刺され身体中の力が抜け出ていとも簡単に無力化されてしまった。
”何か打たれたッ!?”
首が微かに動き男を見ようとするが身体が上手く動かせない。
「悪いな、少年。情報として頭には入っていたが想像以上だったな、流石にここ迄来るとオレも加減出来んかったわ」男はそう言いつつ空っぽの注射器を拾い上げポケットにしまうと呆気に取られているアリアと視線が合う。
「まぁ取り敢えず、ご同行頂こうかな?」
そう言って目の前の二人に微笑みかけた。
この度は第27話を読んで下さりありがとうございました。
☆マークから評価・お気に入り登録、感想いただけると励みになるので宜しくお願い致します。




