第7話 処分予定リスト
僕は机の端に重ねていた別の紙束に手を伸ばした。
「そのために、倉庫の棚卸しをしながら、ひとつ表を作っておきました」
「表?」
「在庫の中で、三年以上動いていないものだけを抜き出したリストです。
最近の取引がないので、帳面の上では――どれも1リル。ほぼ価値ゼロにしているものばかりです」
紙を長机の中央に広げると、ロアンが顔を近づけた。
「三年……」
品名をなぞりながら、眉間に皺が寄る。
「言われてみりゃ、見覚えのある名前ばかりだな。
十年前に流行った毒消し用の素材だの、先代ギルマスがやたら買い込んだ魔石だの……」
「これらは今後も売れる見込みが薄くて、ただ倉庫のスペースと管理の手間を食っています」
できるだけ事務的な口調で続けた。
「査察が入る前にまとめて処分しましょう。
余計な指摘を受けずに済むし、倉庫が空けば、新しい預かり品や、新商品の在庫も置けます。ギルド全体としては効率がいいはずです」
「処分、ねえ……」
ロアンは腕を組み直し、リストを睨んだ。
「まあ、確かにずっと埃かぶってるだけだが……金を払って仕入れたモンを捨てるってのも、腹の据わりが悪ぃ」
――当然だ。
“処分”と言っても、捨てるのが最善とは限らない。
最善なのは――売って、現金に変える。
帳簿の上では1リル。
つまり、どんな値段でも――買ってもらえさえすれば、儲けが出る。
* * *
「……セラフィナさん」
僕は席を立ち、セラフィナの方を向いた。
「これらの在庫の買取りを検討してもらうことはできますか」
息を吸って続ける。
「このリストにある在庫を、まとめて売却したい。
ただし――一つの商会に決め打ちはしません」
セラフィナの眉が、わずかに動く。
買い叩かれないための牽制――“相見積もり”だ。
「今日この場で値段は決めません。
倉庫を見たうえで、明日正午までに“最終の買取提示額”をください。
他の商会にも声をかけて、条件が一番良い相手に売ります」
空気が張り詰める。
セラフィナは、少しだけ口元を緩めた。
「……面白い交渉の仕方ですね、アラタ」
彼女はリストの一行を指でなぞる。
「たとえば、この『石化蜥蜴の粉末』。五年前は需要がなくて暴落しました。
でも今は、王都で建築ラッシュが起きていて――接着剤の原料として相場が跳ね上がっています」
「えっ……そうなんですか?」
「こちらの『劣化しかけた癒やし草』も、単体では使い物になりませんが、うちの工房なら抽出法を変えて別の薬の材料にできます。
――ギルドは相場を見ずに、ただ“置いておくだけ”だったのでしょうね」
セラフィナは、机の上の二枚を見比べて、小さく息を吐いた。
「この二枚を並べると……宝の地図に見えてきました。
放っておけば誰の目にも止まらなかったものが、あなたのリストのおかげで、光の下に引っ張り出された」
彼女は、まっすぐ僕を見る。
「王都で不足しているから方々を探させていたのに……灯台下暗し。
ギルドの埃まみれの箱の奥に、こんなふうに眠っていたなんて――」
ミーナが、ばつの悪そうな顔で小さく手を挙げた。
「……あの、私たちも……存在すら知りませんでした。倉庫の奥って、何があるか誰も言えなくて……」
セラフィナは苦笑してから、もう一度こちらに視線を戻す。
「アラタ。あなたが『処分しよう』と言い出さなければ、誰も気づかなかったと思います」
胸の奥が、少しくすぐったくなった。
(――同じ帳面を見ているのに、彼女は僕の見えない“先”を見ている)
僕が「1リル」と書いた品を、セラフィナは「王都で探していた品」として読んだ。
セラフィナは微笑むと、リストの上に手を置いた。
「結論から言いましょう。このリストの在庫一式――エルドレッサが買います」
「……値段は?」
僕が問い返す。
セラフィナは迷いなく言った。
「もちろん、ゴミとしてではなく、適正な価格で。……いいえ、少し色を付けましょうか」
「え?」
僕は思わず聞き返していた。
「本来の評価額より、高い値段で買うってことですか?」
「ええ。この街のギルドが止まるのは、エルドレッサにとっても損失ですから。
その分を上乗せすると思ってください」
「具体的には……?」
「金貨120枚。即金です」
会議室に衝撃が走る。
セラフィナは淡々と続けた。
「ただし、条件があります」




