第6話 ロアンの強がり
(言いすぎたか……? いや、誤魔化したら意味がない)
椅子が軋む。
誰かが唾を飲み込む音がした。
「……で、だ」
ロアンは椅子の背にもたれていた上体を起こし、わざとらしく咳払いをする。
「さっきから難しい言葉を並べてくれたがよ。結局のところ――“今すぐ潰れる”って話じゃねえんだろ?」
乱暴な言い方だ。
でも、部屋に充満していた絶望を、無理やりほぐそうとしているのが分かった。
「倉庫にモノは積んである。金だってもうじき入ってくる。
今日明日、ギルドの扉を閉めるわけじゃねえ。だったら――そこまで悲観する必要はないんじゃねえか?」
……そう言いたくなる気持ちも分かる。
けれど。
「“今すぐ”じゃなくても、放っておけば、いずれ行き詰まります」
僕は静かに言った。
「いまのギルドは、借り物と偶然の上に立っているだけです。
どこかで少しでもバランスが崩れたら、簡単に倒れます」
「借り物、ねえ……」
ロアンは鼻を鳴らす。
「金を借りたり預かったりするのは、どこも同じだ。
ちゃんと回ってる限りは問題ねえだろ」
「この街の冬を、忘れたわけではありませんよね?」
穏やかな声が、議論に割り込んできた。
セラフィナだった。
「ここ数年、採取クエストは秋から冬にかけてぐっと減って、その分、護衛やモンスター討伐の比率が増えています。
護衛クエストは、前金より成功報酬のほうが大きいですよね?」
「……まあ、そうだな。前払いは少なめだ」
「つまり、冬になれば“自然に”前金が減る。手元の現金も細る、ということです」
セラフィナは、僕の説明をさらりと引き取った。
「そんな時期に、街道の崩落や建物の修繕が重なったら――」
「その瞬間に、支払いが回らなくなって破産です」
僕も重ねる。
「いまは、たまたまかろうじて回っているだけです。
……というか、もう回っていないから給与が遅れているわけですが」
ミーナがびくっと肩を震わせた。
「で、でも、これまでも……遅れることはあっても、ちゃんと払ってはもらえてましたし……」
「それは、たまたま運が良かっただけです」
言いながら、自分でも嫌な役回りだと思う。
だけど、ここでごまかしたら、本当に取り返しがつかなくなる。
しばらくの沈黙のあと、セラフィナが口を開いた。
「……アラタの言う通りです」
紫の瞳が、真正面からロアンを射抜く。
「少し前、前金頼みで回していたギルドが、一度の事故で本当に潰れるところを見ました。見かけだけなら、現金も在庫も十分に持っていたのに、です」
短く、それだけを告げた。
「ローレンツァも、同じ道をたどりかねない。私はそう感じました」
彼女は、そっと机の上の一覧表に指先を置いた。
「でも、これは“救い”でもあります。
この表があったからこそ、危うさに気づけた。どこをどう動かせばいいか、輪郭がはっきりしました」
その指先が、資産の欄――「在庫」の行をなぞる。
「たとえば、ここ。長く眠っている在庫の山。これをどうにかできれば……」
――今だ。
ここから先は“説明”じゃない。“取引”だ。




