第29話 一ヶ月の残り
実験を始めてから、きっかり一ヶ月。例の小部屋。
「じゃあ、このひと月のまとめです」
僕は板の前に立ち、まず大きくこう書いた。
『+ 仕事で入ったお金:金貨45枚』
「このひと月で、仕事の対価として金貨45枚を受け取りました」
僕は順番に、淡々と書いていく。
『ロックリザード(後払い分):金貨15枚』
『鉄背熊(前金+素材売却):金貨12枚』
『灰牙狼:金貨3枚』
『護衛4回:金貨12枚』
『薬草採取3回:金貨3枚』
「ロックリザードは、依頼主の完了確認が下りて――後払いの金貨15枚を受け取りました」
僕は板の端に、もう一行足した。
『未入金:鉄背熊(報酬の残り半分)=金貨10枚』
「一方、鉄背熊の報酬は金貨20枚ですが、入ったのは前金の金貨10枚だけ。
素材の売却分が金貨2枚。だから入金は合計で金貨12枚です」
アイナが小さく息を吐いた。
「……鉄背熊、まだ半分しか入ってないのね」
「はい。ただ、灰牙狼の討伐は確認が早く、今日までに全額入りました」
僕は板を区切り、続けた。
「次。仕事のために増えた支出です」
『− 仕事のために増えた支出:金貨25枚』
「高級ポーション2本と通常ポーション20本で金貨10枚。
装備の修理に金貨6枚。その他の道具と移動費で金貨9枚――合計だいたい金貨25枚です」
『= “仕事で残った分”:金貨20枚』
「ここから“息をするだけで消える金”――毎月の固定費を引きます」
『− 固定費(部屋代・倉庫・食費など):金貨15枚』
『= このひと月で増えた分:金貨5枚』
「ひと月前の時点で持っていた金貨5枚と合わせて、結果、手元は金貨10枚です」
数字が、部屋の空気を変える。
“なんとなく”じゃない。“残っている”と断言できる。
リオットが、メモ帳と見比べながら何度も確かめる。
「……手元の残りが金貨10枚。間違いありません……!」
僕は続けた。
「このうち金貨3枚分は、さっそく前借りの返済に回しましょう。
……“感謝の上乗せ”で銀貨9枚分、きっちり取られますけど」
メリスが付け足す。
「でも、それでも、袋には金貨6枚と銀貨が少し。
突然の出費があっても、すぐには詰まらない程度の余裕は残るわ」
「……本当に、残ったのね」
アイナが板を見上げたまま、ぽつりと言った。
「ただ生き延びただけじゃなくて、“次に持ち越せるお金”が」
バルグがしばらく黙っていたが、やがて照れくさそうに笑った。
「なんだ。数字ってやつも、悪くないじゃねえか」
酒代に頭を悩ませていた頃のグラスホークとは違う。
四人の輝かしい未来が、“数字”の形で確かに見え始めていた。




