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第28話 お財布を守る戦い方

アイナは一歩前に躍り出て叫んだ。


「メリス、足を狙って! リオット、防御魔法は厚め! 

 バルグ、真正面から受け止めずに流して! 少ない手間で大きい傷をつけるわよ!」


「了解!」


「ちっ、しょうがねぇな……任せろ!」


空気が切り替わる。


メリスの矢がしなり、鉄背熊の前脚の関節を正確に射抜いた。

鉄のような毛皮の“継ぎ目”に食い込んだ矢に、巨体が一瞬だけよろめく。


「バルグ、脚を軽くする!」


リオットの詠唱。淡い光が、バルグの足元にまとわりついた。


次の突進。

バルグは大盾を「壁」じゃなく「板」みたいに傾けて受けた。

押し返さない。ぶつからない。――横へ流す。


重い衝撃が、地面へ逃げる。

盾も鎧も、まだ無事だ。


(……すごい)


木立の陰から見守る僕は、息を呑んだ。

派手さはない。でも、一つ一つの動きが「被弾を減らす」方向に揃っていく。


――これが、“お財布を守る戦い方”。


そのときだった。

鉄背熊の爪がバルグの脇腹を深く裂いた。


「ぐっ……!」


赤い血が噴き、バルグの身体が一瞬止まる。

リオットが迷いなく高級ポーションの栓を抜き、バルグに押しつけた。


バルグが一気に飲み干す。

裂けた肉が、じわりと塞がっていった。


「アラタさん、ポーション使いました!」


後ろの見習いが叫ぶ。


「はい! 今のが1本目です!」


僕は腰の袋から小さな石板を取り出し、刻んでおいた印を指で数えた。


「残り2本! 目標の3本まで、あと2本です!」


「……よし」


リオットが短く息を吐く。

“残弾”を意識した声で、前線の空気がまた少し締まった。


そのあいだにも、小さな傷は積み重なる。

鉄背熊が怒り狂ったように前脚を振り下ろし、バルグがギリギリでいなす。

その影から、メリスの矢が一本――膝の裏を射抜いた。


「いい感じに鈍ってきたわよ!」


アイナが剣を構え直す。


「焦らない。削って、止めて、最後にまとめて叩き込む!」


……そのとき。


「アラタ!」


バルグが後ろを振り向きざまに怒鳴る。


「“これ以上ポーション使うな、包帯で我慢しろ”とか言ったら殴るからな!」


「言いません! ……“あと2本まで”です!」


「それも十分厳しいわよ!」


そんなやり取りの間にも、戦況は少しずつこちらに傾いていた。


だが──。


鉄背熊が苦し紛れに大きく身を捻り、広い横薙ぎの一撃を放つ。

バルグが足を滑らせて派手に転がり、同時に、アイナの肩口を爪がかすめた。


「っ……!」


布が裂け、赤い線が浮かぶ。


「アイナ!」


リオットが反射的にポーションへ手を伸ばす。

栓に指をかけた、その瞬間──。


「待って!」


アイナが叫ぶ。


「まだ動ける!」


歯を食いしばって立ち上がり、剣を構え直す。


「誰かが本当に立てなくなったときのために取っときなさい!」


「……了解!」


リオットがポーションを握り直し、半歩下がる。


攻防を何度か繰り返し――今度はバルグの太腿に深い切り傷が走った。

リオットは一瞬だけ迷ってから、瓶を投げる。


バルグが中身をあおる。

ぱっくり開いた傷口が、またじわりとふさがっていった。


「2本目です! 残り1本!」


僕の声が裏返る。


「それ以上使ったら、今日の儲けが消し飛びます!

 ここから先は、防御厚めで! できるだけ傷を減らしてください!!」


三人が、同時にうなずいた。


鉄背熊の足取りが、矢と傷で重くなっていく。

呼吸は荒く、動きも鈍い。


「今!」


アイナが地面を蹴った。

低く潜り込むように踏み込み、止まりかけた巨体の首筋へ――渾身の一撃を叩き込む。


鈍い音。

鉄背熊がぐらりと揺れ、そのまま土煙を上げて崩れ落ちた。


森の中に、静寂が戻る。


「……ふう」


バルグが大きく息を吐く。

誰も、致命的な怪我は負っていない。


地面には、空になったポーション瓶が2本だけ転がっていた。


「……たしかに、鎧が無事だと気分がいいな」


バルグが自分の胸当てを軽く叩いて、ぼそっと言う。


「前だったら、もう一枚買い替えコースだったろうな」


「今日は素材も高く売れそう。装備も無事。高級ポーションも予定の3本以内」


メリスが、鉄背熊のきれいな毛皮を撫でながら小さく笑った。


「バルグが正面からボコボコにしなかったおかげで、背中の鉄甲羅も無傷よ。これなら査定で上乗せしてもらえるわ。

 “お財布を守る戦い方”、悪くないじゃない」


アイナは肩の傷を押さえながら、空を仰いだ。

その横顔には、痛みと疲れの中に――ほんの少しの誇りが浮かんでいた。


力任せにねじ伏せるだけが勝利じゃない。

きちんと儲けを残すために戦う。


(――これが、“お金を意識して戦う”ってことか)


新しい「強さ」の手応えが、確かに胸の奥に残っていた。

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