第24話 草むしり以下の儲け
「じゃあ、今度は“地味なほう”を見てみましょう」
僕は紙の別の場所に、新しいクエスト名を書き出した。
『薬草採取 報酬:金貨1枚』
「山のふもとの薬草畑のやつね。魔物もほとんど出なくて、ポーションも矢も減らなかった」
「追加で買ったものもなかったわね」
メリスが頷く。
「全部、いつもの食費の範囲だった。移動込みでも、半日もかからなかったし」
「ということは──変動費はほぼゼロです」
僕はさらりと書き足す。
『変動費:ほぼ0』
『残り ≒ 金貨1枚』
「薬草採取は、だいたい丸々1枚、手元に残ります」
「次、村への護衛です」
『村への護衛(2日) 報酬:金貨3枚』
「いつもの東の村だな」
バルグが指を折る。
「ポーションは1本使った。矢は数本」
「ポーションが銀貨3枚。矢を多めに見積もって銀貨2枚。合計、銀貨5枚」
『変動費:銀貨5枚』
『残り ≒ 金貨2枚半(=金貨2枚+銀貨5枚)』
「護衛のときは、だいたい金貨2枚半くらい残ってます」
僕はさっきのロックリザードも含めて、三つの行を並べた。
『ロックリザード:30 − 27 = 3』
『薬草採取 :1 − 0 =1』
『村への護衛:3 − 0.5 =2.5』
「──分かりますか?」
指先で三つの行をなぞる。
「“報酬が高い仕事”と、“手元に残るお金が多い仕事”は、必ずしも同じじゃありません」
静かな声で、はっきりと言った。
「大事なのは、変動費を引いたあと、どれだけ残っているか。
見た目の数字じゃなく――“残り”を見ることです」
紙の中央に、太く一行を書き加えた。
『残り = 報酬 − 変動費』
それが、この世界で僕が持ち込む“物差し”。
元いた世界では【限界利益】と呼ばれる、採算を見るときの基本だ。
* * *
「今のところ、みなさんの“財布に優しい仕事”は、護衛や採取系です」
僕は言葉を続けた。
「ぱっと見だと、『ロックリザード』と『薬草採取』『村への護衛』を比べれば、ロックリザードの方が儲かるように見えます」
ペン先で、ロックリザードの行を軽く叩いた。
「でも、かかった時間が違うんです」
一つずつ、指で追った。
「ロックリザードは、準備から帰ってくるまで、五日がかり。
薬草採取は、移動込みでも半日。
村への護衛は、二日で往復していましたよね」
――同じ“仕事”でも、消費した日数が違う。
「五日かけて金貨3枚ちょっと。
半日で金貨1枚。
二日で金貨2枚半」
僕は紙を見せるように少し持ち上げる。
「“一回あたりの残り”だけじゃなく、“一日あたりどれくらい残るか”で考えると……
どの仕事が一番“おいしい”か、見えてきませんか?
ロックリザード討伐は、見かけは派手でも、実際の残りは少ないんです」
「だから何よ」
じっと黙って聞いていたアイナが、椅子の背にもたれたまま口を開いた。
「だから“地味な仕事だけやってろ”って言いたいわけ?」
「いえ、そういう極端な話では──」
「ふざけないで!」
机がびくりと揺れた。
アイナが立ち上がり、両手をテーブルにつく。赤い髪がふわりと揺れた。
「私たちは、草むしりと見張りだけして生きていくために剣を取ったんじゃない!」
その目が、真正面から僕を射抜く。
「実績を稼がなきゃ、いつまで経ってもB級には上がれないのよ!
命張ってデカい獲物を落とすから、“グラスホーク”なんでしょ。
街のみんなだって、そういう目であたしたちを見てる」
――正論だ。
それが余計に、喉をひりつかせる。
「でも、一発当てたつもりで、変動費でほとんど消えてしまうなら──」
必死に言葉を拾い直す。
「それは、勝ちとは言えません。どれだけ死にかけても、手元に何も残っていなければ」
「そんなの分かってる!」
アイナの声が、さらに一段高くなる。
「でも、グラスホークから“デカい獲物”を取ったら、何が残るのよ!」
僕は、アイナの怒りと、自分の理屈の間で立ち尽くした。
彼女の言い分も分かる。けれど、数字の上でも、現実としても――「今のまま」は危うい。
どう言葉を選ぶべきか迷ったそのとき。
コンコン。
ノックがして、扉が開いた。




