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第23話 金貨30枚の正体

僕はペンを握り直した。


「みなさんが“戦うほど消える金”。その正体を、仕事ごとに見ていきましょう」


アイナは数字の並んだ紙を見下ろしたまま、低い声で言った。


「難しい話はさっぱりだけどさ……“みんなを食わせる責任”は、リーダーのあたしにある。

 分かるように、ちゃんと教えなさいよ」


「もちろんです」


僕は新しい紙に、簡単な式を書いた。


『クエストの残り = 報酬 − その仕事で増えた出費(変動費)』


「固定費はさっき出したので、ここでは、この“増えた出費”だけを拾って、比べていきます」


そう説明したところで、アイナが口を開いた。


「じゃあ──また、あのロックリザードからいきましょう」


紙の一番上に大きく書く。


『ロックリザード討伐』

『報酬:金貨30枚』


「30枚、ね」


アイナが腕を組んでうなずく。


「あのときは“デカい獲物を落とした”つもりだったわ」


「そこから、“この戦いのせいで増えた出費”を引いていきます」


僕は振り返り、まず一番大きい項目から書いた。


『ポーション』


リオットのメモと、当日の話を突き合わせる。


「通常ポーションが一本銀貨3枚。予備も含めて4本。

 それと――高級ポーション。一本金貨2枚」


バルグが視線を逸らした。


「……あれ、飲みすぎたか?」


「でも、飲まなきゃ死んでましたよね」


メリスが苦笑する。


「戦闘中に6本、飲み切ってる。命に関わるから、あれ以上はケチれなかったわ」


僕は計算して、そのまま書き足した。


『ポーション類:金貨12枚+銀貨12枚(≒金貨13枚ちょっと)』


「次に、盾の修理です」


「鍛え直し込みで、金貨8枚も払ったわよ」


メリスが答えると、バルグが頭をかく。


「“よく真っ二つにならなかったな”って、鍛冶屋に怒鳴られた」


「修理と鍛え直しで、全部で金貨8枚。

 それだけのへこみ具合なら、ほぼロックリザードのせいと見ていいでしょう」


『盾の修理:金貨8枚』


「その他にもいろいろあったはずです。

 遠征用の食料。縄や杭。予備の矢束。街道税。帰りの荷馬車代。

 “普段より余分に”かかった分を、ざっくり教えてください」


リオットのメモと記憶を頼りに、僕はざっくりと数字を積み上げていく。


『道具・移動費など:金貨6枚』


「ポーション類で金貨13枚ちょっと。盾の修理で8枚。その他で6枚。

 全部合わせて、“この戦いのせいで増えた出費”は――だいたい金貨27枚分です」


紙に合計を書き込む。


『ロックリザードの変動費:金貨約27枚』

『30 − 27 = 残り 金貨3枚』


「──というわけで」


僕はペンを置き、四人のほうを向いた。


「ロックリザード討伐で、本当に残ったのは……金貨3枚です」


一瞬、空気が固まった。


「……はああああっ!?」


最初に叫んだのは、やっぱりバルグだった。


「命がけでやって、その“ちょっと”だけかよ!?

 30枚ドカンと入った気でいたのに!」


メリスが溜息をつく。


「体感的にはそんなもんかも、とは思ってたけど……

 数字になると、余計に堪えるわね」


「もちろん、かなりざっくりした計算です」


僕は両手を軽く上げてみせた。


「高級ポーションを節約できていれば、もう少し残ったかもしれない。

 逆に、もう一歩間違えれば――誰か大怪我して、治療でもっと消えたかもしれない」


でも──僕は紙の上の“3”を指で叩いた。


「少なくとも、“金貨30枚ドーンと入ったから大勝利”ってわけじゃなかった。これは確かです」


「あ、あと素材の銀貨7枚があったわよ!」


アイナがすかさず言う。


「もちろん、足しましょう」


僕は紙の端に小さく書き足した。


『+素材:銀貨7枚』


「それでも、結論は変わりません。“金貨が見える”ほどは残っていない。

 きれいな素材なら銀貨じゃなくて金貨が見える値段になったはずですが……」


「……悪かった。次は、傷つけねえ」


メリスが小さく笑う。


「言ったわね。次は“金貨が見える倒し方”でお願い」


バルグが気まずそうに頭をかいた。


僕は、もう一度だけ式を見つめた。


『30 − 27 = 3』


そして、はっきりと口にした。


「高額クエストは、派手です。でも――派手なほど、変動費も跳ね上がる」


ペン先で“27”を叩く。


「つまり、同じ一日を使うなら――

 “報酬がデカい仕事”より、“出費が増えない仕事”のほうが残る可能性がある」


「……そんな都合のいい仕事、あるの?」


アイナが、不信と期待を半分ずつ混ぜた眼差しで僕を見つめてきた。

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