第19話 感謝の上乗せ
その頃、僕は、山のような書類からようやく解放されたところだった。
「ふぅ……」
顔を上げると、ロビー脇のベンチでグラスホークの四人が革袋を囲んでいるのが目に入った。
グラスホークとは、僕がこのギルドに来て間もない頃からの付き合いだ。
他の冒険者たちが「雑用係」と蔑む中でも、彼らは気さくに話しかけてくれた。
ツケの回収で街へ放り出されたとき、護衛として付いてきてくれたのがリーダーのアイナだ。
右も左も分からない僕を、呆れながらも助けてくれた恩がある。
僕はカウンターから出て、四人のもとへ歩み寄った。
「討伐、お疲れさまです」
声をかけると、視線が一斉にこちらを向く。
「おお、アラタじゃねえか」
バルグが大きく手を振った。
「ロックリザード級の依頼になると、報酬も気持ちよく跳ね上がるよな!」
「跳ね上がるのはいいんだけどね……」
アイナが苦笑しながら、革袋の口を指で広げてみせる。
「見てのとおりよ。さっきもらった金貨15枚が、気づいたらこれ」
銀貨と銅貨が少しだけ。
「……そもそもさ。ギルドの仕組みが渋すぎるのよ」
アイナが不満げに口を尖らせた。
「あたしたち、ちゃんと倒してきたじゃない?
なのに、なんで報酬がすぐ満額もらえないわけ?」
「え、えっと……」
いきなりの愚痴に、僕は言葉に詰まる。
でも、この世界の報酬の流れは、ロアンから嫌というほど聞かされていた。
「依頼主から“着手金”として一部を預かって、残りは完了確認のあと。
……そういう決まりですからね」
「そう、それ! 依頼主がのんびりしてるあいだ、こっちは次の準備をしなきゃいけないの。その間のお金がないから、結局こうなるのよ」
「こうなる、というと……?」
「悪いが、また“前借り”させてもらうってこった。なぁ、アラタ」
バルグが肩をすくめた。
「今月、二回目なんですけどね……」
いつの間にか近くに来ていたミーナが、困ったように笑う。
「でも、貸さないわけにもいかないですし……。お手伝いしますね」
「すみません」
僕はカウンターの内側に回り込み、前借り用の細長い木札を取り出した。
パーティ名、代表者名、借入希望額。
黙々と書き込むミーナを見ながら、ふと気になっていたことを口にする。
「この前借りって……返すとき、利子はどう扱われているんですか?」
ミーナがぴくりと肩を震わせ、慌てて僕の袖をつついた。
「ア、アラタさん……! その言葉、あまり大きな声で言わないでください……!」
「えっ、あ、ごめんなさい」
思わず声をひそめると、ミーナも同じように声量を落として説明した。
「返していただくときに、“感謝の上乗せ”を少し付けていただくだけです。
……まぁ、正直ちょっと取りすぎじゃないかなぁとは思うんですけど」
「感謝の……上乗せ」
(名前を変えてるだけで、やってることは、利子そのものじゃないか……)
僕は心の中で思いきり突っ込んだ。
「それで、その上乗せはどれくらいなんです?」
僕もつられて、思わず囁くように聞き返す。
ミーナは指を一本立てた。
「借りた金貨1枚につき、返すときに銀貨1枚……です。“十日ごと”に、です」
「……十日で、銀貨1枚!?」
頭の中で即座に換算する。
金貨1枚は銀貨10枚相当。つまり、十日で1割。
(十日で一割。ひと月で三割。年にしたら――いや、考えるのも嫌だ)
背中に冷や汗が噴き出した。




