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ユートピア・メタスタシス 〜TS転生エリート兵の異世界奮闘記〜  作者: とりさん
第一章 膠着し、硬直する世界で

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EP.6 後輩とゴミ屋敷


一つ───理性。

感情を排し、論理によって行動せよ。



二つ───秩序。

上位の命令は絶対である。



三つ───奉仕。

国家の安定こそ、最高の善である。



『〈アーケディア〉国家三大原則』 



 


 ひび割れたコンクリートで舗装された道路。

 一台の車も走ってない辺り、この国の普及率が伺える。

 或いは今の時間が日中も日中の時間帯であることから、この辺りの車を持つ人間は全員仕事に励んでいるのかも知れない。



「──♪──ッ♪───♫」



 そんな静かな住宅団地を一人の少女がてくてくと歩いている。

 白い髪をした、半袖の黒いコートとスカートを身に纏っている。

 その足運びからは、とても軽やかな印象を受ける。


 スカートを留めている腰のベルトにはポータブルカセットプレイヤーが吊り下げされ、そこからケーブルが少女の頭に付けられたヘッドホンに伸びている。



「───♫───♪───ッ! ……?」



 再生される音楽に合わせて鼻歌を歌っていた少女は、ふと足を止めて周りを見渡す。

 道路の端にはゴミが落ち───いや、人が寝ている。

 正確には、ゴミを布団代わりにしたホームレスだ。周りには空き瓶が転がっている。


 少女は一瞬、顔を顰め、そして───



 "パンッ!"



 ───軽い破裂音が、住宅団地に響き渡る。



「───♪───♫〜〜〜ッ♫」



 しかし、その音を聞いた者はいない。

 少女は音楽を聴いていたし、この辺りには、犬猫はおろか、虫や鳥すらいないからだ。

 ならばホームレスは? と聞かれれば───



「………」



 ───まあ、頭が潰れたトマトの様に弾けてるのに聞ける訳が無いだろう。


 こうして道端にやけに鉄臭さと生臭さを撒き散らす現代アート(死体)を数秒で作りあげた少女は、一度も振り返ることなく去って行った。


 これから仕事を終えて帰宅する住宅団地の住人たちも、"ソレ"を恐らく気に留めることはないだろう。

 そして明日、人々が職場へと向かう頃には消えている筈だ。


 そう、まるで最初から其処には何も無かったように。


 そんな廃棄物(ホームレス)を気に留めるとしたらそれは───



「ふふふ〜〜ん、ふっふふんっ♪ せぇ〜んぱ〜いっ!」



 ───豚肉モドキ(人肉)が好きな、何処かの上級戦闘官(コハク)とか、或いはただの清掃業者だろう。







 § § §






 "都市"乃至〈アーケディア〉"本国"は、『第一地区』から『第十六地区』まで、計十六の地区に区切られている。


 基本的に"地区"と言うのは数字が大きくなるにつれて、治安が悪化し、荒廃する傾向にある。

 地区の数字は、そのまま〈アーケディア〉にとっての優先順位を示す。


 これは、数字が小さい地区は、常に厳格な管理とリソースの投入が行われ、逆に数字が大きい地区は統制が乱れ、或いは放棄され、維持管理のための最低限のリソースしか割かれないからだ。


 当然、其処に住む人々も、数字が小さくなるにつれて、国家にとってより重要で、或いはより多くの所得を有する者に限られる様になる。



 "カッ……カッ……"



 そこそこの出費で、そこそこの治安で、そこそこの発展をしている『第七地区』。

 その中でもそこそこの大きさをした、同じ見た目の、コンクリート製の集合住宅が並ぶ住宅団地。


 昼間の閑散とした時間帯。

 側面に『D8』と書かれた集合住宅の前に、一人分の足音が響く。

 ヘッドホンを付けた、白い髪の少女。つまり、先程ホームレスの頭を携帯している『マギカピストル(魔導式拳銃)』で撃ち抜いた少女だ。


 〈アーケディア〉では軍人しか武器の所持を認可されていない。町中で平然と使用するあたり、少女もまた、軍人なのだろう。



「………」



 少女は『D8』の前で一度足を止め、顔を上げて目的の部屋のベランダを見る。3階の、右から2番目の部屋だ。

 ベランダへ通ずる窓のカーテンは、閉め切られているため中を伺うことはできない。



「ふふん」



 しかし、少女はそれで十分だったようだ。

 目的の部屋の住人の状態を概ね推察すると、勝手知ってるとばかりに堂々と『D8』へ入って行く。



 "カッ……カッ……"



 再び、静寂に包まれていた集合住宅に足音が響く。


 1階……2階……3階。


 階段を上り終えた少女は、一つの扉の前で再び止まる。

 他と何も変わらない、何の変哲もない扉だ。表札には、『コハク』と書かれている。

 恐らく真っ黒な目をした上級戦闘官のことだろう。



「すぅーーー………ふぅ〜〜〜」



 少女は緊張をしているのか、深呼吸を数度繰り返した後───



 "カチャカチャカチャ……カチッ!"



 ───見事なピッキングで数秒以内に開錠し、不法侵入に成功した。


 ……因みに。

 先程不法侵入を行った少女は、この部屋の主であるコハクの後輩である。


 そしてこの際に話しておくが、〈アーケディア〉における上層・中層階級である"党員"は、全員白い髪をしている。

 下層階級である"市民"は、全員ブルネットだ。

 この分かりやすい指標は、この国の階級制度を不変のものにする原因の一つとなっている。


 地球でいう黒人と白人の様なものである。或いはもっと、覆し得ない絶対的なものかも知れないが。






 ───閑話休題。


 少女……つまりコハク(先輩)の住居に無事不法侵入した後輩少女は、部屋に入った途端、またまた足を止めた。

 とはいえ今回は、彼女の意思ではない。



 ───足を止めざるを得ないほどの事があった、というだけだ。



 そこは、端的に表すならゴミ屋敷だ。

 何日も出してないのだろう。

 玄関からリビングまでの通路があり、その途中にトイレや風呂、キッチンが置かれる極めてシンプルな、少し狭いぐらいの住居の床は、その殆どがゴミ袋で埋められていた。

 因みにリビングで寝ろということなのか、寝室はない。部屋と呼べるのはリビングだけである。



「………えぇ……」



 流石の不法侵入者(後輩)も、この事態にはドン引きである。

 なんせゴミ袋は、床を埋めるだけに飽き足らず、壁に沿って積み上げられた箇所すらあるからだ。

 見れば、一つの半透明のゴミ袋にはこう書かれている。



 ───『可燃ゴミ』と。



「……あれ?」



 ここで後輩少女は違和感に気付いた。

 匂い、即ち腐敗臭がしないのである。


 よく見ると、捨てられた生ゴミの中に、野菜くずや生モノなどの生鮮食品はない。

 あるのは、簡単な手順で作れ、お皿に盛り付ける必要すらない冷凍食品のパッケージである。

 しかし、破れたパッケージからは、半分はあるだろう食べ残しや、何かの汁が垂れている。


 これは可怪しい。

 後輩少女の見立てによると、このゴミ袋が置かれたのは一カ月前。まだこれほど水気があるものが腐敗していないのは何故なのか。



「……うぇ」



 ───っと、ここまで考えてとある考えに至った後輩少女は自分の予想に顔を顰める。

 水気や湿度に問題はない。確かに閉め切られて、全く空気が動いていないが、腐敗の条件は十分に満たしている。


 なら、何故腐敗していないのか。



「どんだけ添加物塗れなのよ……」



 腐敗しないように加工されているのだろう。恐らくは保存剤を筆頭に、大量の添加物が。



「せぇんぱい……」



 これからは冷凍食品を食べる時には成分表───信憑性はないが───をよく見るようにしよう。

 こうして新たな学びを得た後輩少女は───



「ごみは出しましょうよ……」



 ───しかしゴミ袋が消えるわけはなく。

 目的の人物、コハクがいると思われる場所まではゴミ袋の山が移動を妨げている。



「……入り口のほうから捨てますか」



 こうしてゴミ出し日をガン無視して、ゴミ出しを始めた後輩少女が、通路を進んだ先のリビングで寝ている先輩(コハク)の下へと辿り着くまで───あと二十分。






 § § §






 ───『109管区』某所



 簡易的な要塞化が施された村落跡地に建設された拠点があった。

 資源調査の準備を終えた彼らは、既に調査道具を片手にほうぼうに散っているため、この拠点には殆ど人がいない。


 幾つも並んだプレハブ小屋の中で一際大きな小屋。


 その中には雑多に魔導機器───魔力をエネルギーに稼働する機械のこと。用途や使い方自体は同じ見た目の電化製品と大差ない───が置かれており、一人の研究者が通信機型の魔導機器で何処かに連絡を行っている。



「問題はありません。こちらは全て順調です」


 ………。



 相手側の声は聞こえない。だが研究者の態度をみる限り、彼より高位の者であるのだろう。



「はいもちろんです。"火種"は入手できました」


 ………!



 通信相手は驚いている。"火種"を入手した事が予想外だったようだ。

 研究者はその反応に優越感を抱きながら、堂々と続ける。



「それでは物資と防衛戦力の輸送をお願いします」


 ………。



 相手の返答に、僅かな優越感は消え失せ、代わりに少しの焦りが湧き上がる。



「"例の資料"が正しいのなら、用心に越したことはないかと」


 ………。


「研究が始まったばかりの分野ですし、安全性の……」


 …………。


「しかし」


 ………!!



 幾らか食い下がったものの、これ以上は事態が悪化するだけだと悟った研究者は、感情の消えた顔で言葉を吐く。



「……了解しました。アーケディアに栄光あれ!!」



 叩きつけるように通信機を切り、机の上に置いた研究者は、無言で小屋を出る。

 机の上には、内部に緑色に光る鉱石が収められた透明なカプセルが置かれている。

 カプセルに貼られたラベルにはこう書かれている。



 ───『ウラン』と。












 ●おまけ("かる〜い"人物紹介)


 ◇コハク

 白い髪と真っ黒な目を持つ〈アーケディア〉が生み出した悲しきモンスター。或いは被害者。


 虹彩も瞳孔も両方真っ黒。目を見て話す時、相手側は反射的に目を逸らしてしまう。なんでやろ〜ね〜?(相手の目玉を抉りながら)


 戦闘時には四本の"ファンネルモドキ"(縦横無尽に飛翔するダガー)を操る。

 因みに射撃スキルもそれなり。……逃げ惑う非戦闘員の背中に撃った時はしっかり当たってた。


 人生二周目というアドバンテージも、前世の記憶が中途半端に残ってるだけで、周りの環境が地獄すぎてなんの助けにもなりません。


 精々コハクの提示する、地球科学の概念によって〈アーケディア〉がパワーアップするぐらいです。

 どうやらコハクくんちゃん、技術史をひっくり返すぐらいの知識を与えたみたいで……。


 それと、どうにも自分のことを制御できてない様子。……ていうか、この国でマトモな情操教育がされているとお思いで?


 まぁ、そのせいで半端に知恵と武力と権力を持った、プライドが高くて、妙な地雷を抱えて、情緒がバグり散らかしてるコハクみたいな子が生まれる訳ですね、はい。


 TS美少女転生国家依存精神情緒不安定人肉嗜好系エリート兵士、なコハクちゃんをこれからもヨロシク!





 ◇おまけのオマケ

 最近コハクくんちゃんが摘発した違法薬物の密造所。そこから回収された"ブツ"が計算と合わないことがあるらしい……。リストの記入漏れかな?(すっとぼけ)





時系列的には「EP.4」の数日後です。

コハクくんちゃんに関しては、特にお咎めも無かったみたい。

強いて言うなら、お薬を飲み忘れたことを怒られたぐらいかな?


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