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ユートピア・メタスタシス 〜TS転生エリート兵の異世界奮闘記〜  作者: とりさん
第一章 膠着し、硬直する世界で

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EP.4 血塗れゲート


混沌を拒め。秩序に従え。



『プロパガンダ用スローガンその①』


 


 〈アーケディア〉に於いて"本国"と言うのは、全領土から"非統治管理領域"を引いた非常に小さい領域を指す。


 任務を終えた後、調査団から貸してもらった魔導車に乗って数時間ほど運転していると平原の向こう側に大きなシルエットが見えてくる。


 40メートルは超えるであろう灰色のコンクリートモドキで築かれた外壁に囲まれた都市。そこがアーケディアの"本国"だ。


 壁の中の面積は東京23区に匹敵し、16の地区に分けられて統治されている。人口は1500万人……らしい。


 戸籍制度なんてどれほどマトモに機能してるのか分かったもんじゃないからホントの人口は誰も知らないんだけどね。


 もしかした人口は100万人で、面積は関東ぐらい広いのかも知れない。でもそれを調べる人はいないし、それを裏付けするデータもないから気にしてもしょうがないかも知れない。


 アーケディアに存在する情報は全てなんの根拠も提示されないものばかりだ。

 政府が公表した情報には脳みそを空っぽにして「はいはい」って言っておくぐらいがちょうど良いと思う。


 いずれにせよ、得る手段が限られている上に改竄され続けている情報を前に真相を探ることは意味のないことである。



 《間もなく『第三東ゲート』です。現在の混雑状況は……》



 ……って考えてたら外壁に置かれたゲートが目視できるところまで近付いてきたみたいだ。


 カーオーディオから音質の悪い機械音声聞こえてくる。

 一定範囲内に入った時に電波を受け取った機器が自動で音声案内を流れるようになってるんだよね。


 ボクの他にも数台の魔導車が並んでるみたいだったので、その後ろに車を停める。


 前の魔導車は、ボクの乗ってる魔導車より大きくて、車体の後ろにはコンテナが付いている。多分輸送用の魔導車、魔導トラックだね。兵士とか物資とか載せるやつ。


 因みに浮いてる。ホバーカーと言われるやつだ。というか、ボクの乗ってる2人乗り用の魔導車も含めて、『魔導車』と名のつくものは全てホバーカーだ。



 ───大気中の"魔素"を収集し、万能なるエネルギーである"魔力"を精製する『魔導転換炉(マギカリアクター)』。


 ───魔導転換炉(マギカリアクター)と共に、魔力という"力"で車体をホバー推進させる機構を搭載した『魔導車』。



 ボクの前世で主流だった"科学技術"でなく、"魔導技術"を基盤に発展した文明が〈アーケディア〉だ。


 分かりやすい違いといえば、科学技術が化石燃料をエネルギー源にする技術で、魔導技術が魔素や魔力をエネルギー源にする技術であるといったところか。


 使用する技術体系が違えば文化の発展も違うのか、デザインや仕様にはチグハグな印象を受けることも多い。


 例えば、魔導車は重力に逆らって浮遊するのにクラシックカーの様な昭和期っぽい古風なデザインだし、人工衛星がなくても遠くの方まで通信できる技術はあるのに未だに固定電話が現役だったり。……因みにスマホみたいな色んな機能を持った携帯できる情報端末はない。


 あと何故かカセットテープを挿入したら、その上にホログラム映像が投影されるテープレコーダーとかね。まあ、青一色でノイズ混じりの画質が悪いホログラムなんだけど。


 なんか古風というかクラシックというかレトロと言うべきか。どう言えばいいんだろう?

 ……レトロフューチャーな世界観と冷戦期・昭和期っぽい粗雑さが混じった様な?



 ───「サイエンス(科学技術)でデジタルな技術をファンタジー(魔導技術)でアナログな機器で再現してる」



 多分これが一番しっくりくると思う。

 見た目は凄く古臭いのに、使ってみたら現代の科学技術を超えてることがよくある。


 でも、テレビは例外だったね。箱型テレビなんだけど、点けてみても普通にブラウン管テレビみたいに少し色褪せた映像が流れるだけだった。



 《次の方どうぞ》



 あ、ボクの番が来たみたい。いつの間にか前にいた魔導トラックはゲートを潜り、アサルトライフル(科学式自動小銃)……では無く『マギカライフル(魔導式自動小銃)』を持った警備兵がボクの方を見てる。待たせちゃったかな?ごめんね。



「こんにちは、同志。ゲートの通行許可証はお持ちですか?」



 セキリュティーゲートの前まで車を進めると、オリーブ色の制服を着て、金色の星の帽章が付いた軍帽を被った係員が話しかけてくる。


 "同志"。この国、アーケディアで互いを呼び合う時に使う言葉だ。



「通行許可証はない。この車は先日出発した調査団からの借り物だ」


「おや、では何故一人でここまで?」



 少し目線を鋭くして聞いてくる。……疑われてるね。でもどう言ったもんか……。


 まず第一としてボクは調査団"からは"許可もらってこの魔導車で帰還している。


 ただ、司令部には一切許可をもらっていない。そもそも今から帰りますとも、任務が終わりましたとも報告してないしね。

 だってしょうがないじゃん。村落に襲撃を仕掛けたタイミングでオペレーターが音信不通になったんだから。


 多分事態が発覚した今日か明日にはオペレーターさんは「職務怠慢」を理由に粛清されてるんじゃなかろうか。……ボク?ボクは悪くないよ。ちゃんと通信機用のヘッドセットは、ずっと電源入れてたし。


 ……兎に角、今は目の前の係員を何とか説得しないと。嫌だよ?ここまで帰ってきたのに留置所に拘束されるのは。もう家に帰って寝たい。忘れてるかもしれないけど昨日から一睡もしてないんだよ。


 食欲は……さっき人食ったばかりだし大丈夫か。この世界の人間はあんまり美味しくない。"市民"と比べて肉質が悪い気がする。



「ボクは軍人でね。任務からの帰還手段がなかったから向こうで無理言って貸してもらったんだよ」



 軍人。そう身分を明かすとピクリと目尻を動かしてボクのことを疑わしげな視線で見てくる。

「こんなガキが軍人?冗談だろ。」そんな思考を視線から感じてボクの機嫌は一気に悪くなる。


 ……なんだよ、疑ってんのか?下っ端党員の分際で。



「証拠もある。というか、そんなに怪しいと思うならそちらで調べるといい」



 思わずぶっきらぼうな口調で言ってしまう。……駄目だ。冷静に。冷静に。

 感情が表に出やすいのはボクの悪いところだ。ストレスを感じるとついやってしまう。今は疲労も相まって余計に感じやすい。

 でも疑われるのは酷く不愉快だ。



 ───お前らはボクがどれだけ大きな功績を残してどれだけ"党"に重宝されてると思ってんだ?



 そんな気持ち沸々と湧き上がってくる。"昔"からナメられるのは大嫌いなんだ。特に立場的に下のヤツからは。



「では()()。車から降りて後ろのトランクを開けて下さい」


「………」



 フンッと鼻で笑って小馬鹿にしたように偉そうな態度で命令してくる。

 やっぱ腹立つ。



「同志?……取り敢えずトランクを開けますよ」


「………」



 普段だったらここまで荒ぶることはないのに。



「ふむ……。君、ちょっと来てくれ。……同志。この()()()は?」



 何でなんだろう?……あ、駄目だ。なんか頭がふわふわしてきた。なんだこれ?気持ち悪い。ガンガンする。痛い。


 イライラとふわふわが同居してる。


 スッキリしたい。


 どうすればいいんだろう。



「同志?質問に答えて下さい。あと早く車から降りてくれますか?」



 ───▲……■…□



 なに?



 ───コ…■□



 こ……なんて?


 もやもやする。……違う、今のボクはムシャクシャしてるんだ。



「うわっ!?トランクの中からダガーが浮いt───」


「何が───」



 ほんの僅かに音が聞こえてくる。


 サイレンと、そして誰かの悲鳴。


 焦点の定まっていなかった目がボヤけた視界を映す。


 ボクの肩を掴んでいた"同志"が真っ赤な絵の具を撒き散らす。



 ───コ■セ



 生暖かいその"絵の具"がボクの顔に飛び散ると、頭痛は治まり頭の靄が晴れていく。


 "絵の具"がボクの頬を伝い、口の中に入る。


 金属っぽい、特に特徴のない味。


 口の中で転がしていると、どういう訳かさっきまで不安定だった感情がフラットになっていく。


 凄く落ち着く。まるで寒い日の布団の中の様な居心地の良さを感じる。


 眠い。そう言えばボクは帰って寝ようとしてたんだっけ?


 帰って……もう帰ってるじゃん。


 ボクの、ボクが愛してる、ボクが大好きなアーケディア。


 格差は大きく、正義は弾圧され、反乱は破壊され、情報は改竄され、理想は欺瞞だらけのボクの祖国。


 軋みを上げながらも無理矢理動き続けるディストピア。



「………」


「………」



 ……あぁ、漸く静かになった。



 ───コロセ



 ……なんで?



 ───コロセ



 落ち着こうよ。



 ───コロセ



 あれ?今日"赤いの()"飲んだっけ?……まあいっか。



 ───コ、ロ……セ



 それより寝ようよ。もう誰も邪魔してこない。だから大丈夫。



 ───………。



 おやすみ。

















 ●おまけ


 ◇コハク

 TS主人公。

 食人嗜好持ち。一番美味しいと思ったのは◯歳の"市民"。


 自分より立場の低い人間にナメた態度を取られることを死ぬほど嫌う。

 沸点が低い上に、少しでもストレスが溜まると直ぐに視野が狭くなるので、一度機嫌を悪くさせたら暫くは戻らない。

 研究者はコハクのことを知っていたので最初から敬意を払って接してた。


 腐り切った祖国を愛してる。……前世の祖国以上に。




 ◇ゲートの警備兵たち

 職務態度は良好の、至って真面目な人たち。

 コハクに皆殺しにされた。


 彼らの悪かった点は3つ。


 ①コハクの話を疑った。

 身分とかね。この国では軍人は上層階級。

 彼らも軍人とはいえ、たかが門番。そんな下っ端が本国の外に出征する様な高位の軍人に疑惑の念を抱くなど言語道断である。


 ②コハクを軽視する態度をとった。

 ダメだよ。軍人が乗ってるかもしれない車のトランクを勝手に開けるとか。

 もし軍事機密に関わるものがあった場合、例えコハクでなくても"口封じ"される可能性が高い。


 ③単純に運が悪かった。

 寝不足とその他()()()()()で精神的に不安定なコハクに当たったこと。

 任務モードのコハクなら多少自分が疑われても「まぁこんな見た目だしね」と受け流してくれた。




 ◇カプセル剤

 コハクが毎日飲んでる薬。

 精神的な揺れ動きを抑制できる。

 二重人格が疑われていたコハク用に特別に処方される薬のため、普通の人間が飲むと一時的に廃人になる。


 2日間の任務で持ってくるのを忘れてた。

 尚コハクは自分のイカれ具合を自覚してないので「毎朝飲めって言われてるけど……まぁいっか」と考えてる。


 精神的に不安定な原因その①




 ◇鎌鼬(かまいたち)

 四連式個人用浮遊短剣兵装。コハクの二つ名の元となった存在。

 コハクの脳とパスを繋ぎ、思考を読み取る操作方法を採用している。


 "繋がっている"という状況は決して一方的に命令を出せるということではない。相手を操る時、相手もまたこちらを操っているのだ。


 ご主人様(コハク)は大好き。祖国(アーケディア)は大嫌い。


 トランクから出そうと大嫌いな連中(本国の人間)が触ってきた時、ご主人様(コハク)の頭の中に直接スパムメールを連投した。



 ───コロセ





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