EP.1 抗う者達、摘む者達
連載前提で、試しに書いたものです。
良かったら、感想・高評価してくださると幸いです。
ストックを作ったりするので、次話の投稿には暫くかかります。
───白い大地が続いている。
「よしっ!なんとかここまで辿り着けた!」
───空は青く。
〘こちら第四飛竜隊、そちらの所属は?〙
「──ッ!こっ、こちら連合軍第三飛竜隊隊長───」
───太陽の光が眩しく輝いている。
「───以下っ!同隊所属、総員20名だ!」
〘よし!にしてもこのつうしんき?ってやつは凄いな!?これが配備されたお陰で連絡が楽にできる〙
───其処は雲より上の世界。
「ああ、何でも東の方にある島国から輸入したものらしい。魔法や使い魔を使わずに一瞬で遠くの人間と会話できるのだとか。一体どんなカラクリなのやら」
〘まあ、役に立つなら何でもいいさ。これが配備されてから態々手で旗を振り回さなくて良くなったからな〙
───翼なき人には辿り着けぬ聖域。
「ところでおたくの部隊は今何処に?」
〘我々か?少し待て、驚くなよ?〙
「驚くな、つってもよ。そんな驚くことが───」
───では、翼を借りたなら?
次の瞬間、白き雲の大地からソレらは飛び出した。
「───ウオッ!?」
例えるなら恐竜のプテラノドンだろうか。
竜の頭、胴体、コウモリのような翼、鉤爪のついた2本の脚、蛇のような長い尻尾を持っている。
───その名は『ワイバーン』。
時に人を越える知見を持ち、時に信仰の対象となり、時に人の恐怖の対象となる『ドラゴン』とはまた別の存在。
人語を介することは出来ないものの人の子供程度の知能を有し、躾けることで命令に従うようになる。犬や馬の様なものと思えばいいだろう。そして最大の特徴は───
〘───第四飛竜隊、此処に参上!〙
───人が搭乗できるということである。
過去、ワイバーンの生息地である山岳地帯の部族が世界の大半を手中に収めた時代に於いて、極めて少人数の彼の者達が立ち塞がる敵を軽々と討ち滅ぼすことが出来たのは、ワイバーンへ騎乗することで、"制空権"という新たな概念を生み出したからである。
彼等の築いた帝国が崩壊した後、ワイバーンの飼育方法や"制空権"という概念は、ワイバーンそのものと共に世界各地に伝播し、人類史の中でも一際大きな変革を齎した。
「びっくりしたじゃねえか!?いきなり横に出てくるんじゃねえよ!?」
極寒の世界で、驚嘆の声が響く。
第三飛竜隊───即ち、ワイバーンに騎乗する兵士たち。総勢20名の飛んでいるこの世界で、突如として隣の雲を突き抜けるようにして、同数のワイバーンが現れたからである。
〘わりぃわりぃ。まさかこんなに近いとは思わなくてな〙
上から見ると鏃のような陣形を維持しながら飛行を続ける第三飛竜隊。───その先頭を飛ぶ、飛行帽を被って騎士のような鎧を着込んだ男の腰から声が響く。通信機だ。
まるで反省していない彼の声にその男───第三飛竜隊の隊長は通信機を持って怒鳴る。
「こんな空の果てで衝突事故なんて洒落にならんぞ!?それに此処はもう連中の勢力圏だ!作戦に問題が生じるような真似はするな!」
〘……悪かったよ。もうしない〙
男の言葉を聞いて、その相手───第四飛竜隊の隊長は本当に申し訳無さそうに謝る。悪ふざけが過ぎたと理解したらしい。少し音域を下げた声で第四飛竜隊の隊長は自分の部隊に指示を出す。
〘全員、陣形を立て直せ。作戦はもう始まってる。俺もさっき注意されたように、お前らも気を引き締めろよ〙
彼の命令によって第三飛竜隊の横に現れた第四飛竜隊の陣形がより洗練された鏃状の形へと変わっていく。
二つの鏃が同じ方向へ並行して飛ぶ。
この雲の上の世界に彼等以外の異常は見られない。彼等は真っ直ぐ目標上空へと飛んで行く。
そして───
「この辺りか?地図が正しければ此処は目標の上空な筈だが」
〘恐らく合ってる筈だ。……いよいよ攻撃の始まりだ!気合いを入れろ!連合の興廃この一戦に在り、各員一層奮励努力せよ!総員、降下ッ────〙
───光が彼等を滅した。
彼等が先程までいた場所を雲の下から穿ったその光は、周囲をプラズマ化させながら飛散する。
〘敵襲!敵襲!〙
〘どうやって攻撃されたんだ!?〙
〘そんなん知るか!とにかく避けないと〙
〘どうやって!?今の攻撃を避けれると思ってるのか!?〙
〘第四飛竜隊、応答せよ!応答せよ!〙
〘悪魔どもがっ!邪神の手先めっ!〙
〘先遣隊と連絡が途切れたのはこれが原因かっ!早く司令部に伝えなければ!〙
〘隊長!一体我々はどうすれば!?〙
突如として横にいた第四飛竜隊が消滅したことで第三飛竜隊の隊員達は混乱状態に陥る。
陣形の維持が出来なくなり、部隊の統制を失う中で、第三飛竜隊の隊長は無線越しに部下達の悲鳴を聞くことしか出来ない。だが腐っても軍人、その鍛え上げられた能力でなんとか硬直した思考を再度機能させた彼は必死に考えを纏める。
───今の攻撃の正体は?魔法か?それとも別のモノか?連発できるのか?それとも再度の攻撃には時間が掛かるのか?なら、今のうち攻撃を……。
彼は部下へと指示を出すべく無線機を持ち───
「攻撃」
───第三飛竜隊も雲の下より、再度放たれた光によって消滅した。
後に残るのは何人も存在しない、白き雲の大地と青い空だけである。
§ § §
『ENEMY DESTROYED』
暗い室内で、コンソール上にホログラム投影されるその文字列を見て、彼女は息を吐く。
机に表示されているバーチャルキーボードを操作して基地全体に指令を出した彼女は、座っていた椅子から立ち上がり、入口に『コントロールルーム』と表示されてい部屋を出て、外で待機していた兵士に話し掛ける。
「終わった。敵の航空戦力は全滅したと考えていいだろう。仮に他に居たとしてもすぐに来るわけじゃないと思う」
「分かりました。司令部へ連絡は?」
「いや、まだやってない。そちらに任せても?」
「ええ、お任せください。"四刃"の貴方様のお手を煩わせる訳にはいきません。こちらで後始末はしておきます」
「……分かった。この後の指示は?」
"四刃"───自身の"二つ名"で呼ばれたことに若干顔を顰めつつも、彼女は次の指示を求める。
「『基地を無人制御モードにした後、駐屯地に帰還せよ』とのことです」
「分かった。それと本来の任務についての進捗は?」
「本来の任務───基地への補給の方に関しましては、少々想定外が生じましたが滞りなく進んでおります。間もなく完了する見通しです」
「それはよかった。このまま時間通りに進めてくれ。それが終わり次第移動する」
「了解」
会話を終えた彼女は仲間に連絡を取る兵士を尻目に外へと通じる扉へ歩いてゆく。
やがて、扉を出た彼女は暫く歩いた後、一度立ち止まり、後ろを振り返る。
コンクリートで建造された塔と、その周りをグルリと固めるように築かれた土台、そしてその上に置かれた砲台と、更にその上に置かれた要塞砲───先程まで砲門を上へと向けていたソレをジッと見た彼女は、溜息を吐き、再び前を向いて何台も停められている装甲車へと歩いてゆく。
その姿を見て、車の周りで慌ただしく作業をしていた兵士達は気を付けの姿勢を取り、ビシッと彼女へ敬礼する。彼女はさっさと続けろとばかりに手をヒラヒラと振って返すと車の中へと入る。
「疲れた……寝よ」
そう言って彼女は、静かな装甲車の中で目を瞑った。
───彼女の住む都市国家〈アーケディア〉は元々この世界には存在しなかった。
"存在しなかった"。なぜならこの国は此処とは違う世界からこの世界───〈アーケディア〉にとっては異世界───にある日何の前触れもなく転移したからである。
ある日突如として外壁より外側の景色が変わったという異常事態に気付いた彼等は大いに混乱することになる。
そして異世界に転移するという大事件が起こった後、何とか状況を整理した彼等は、周辺地域の調査を行った際に発見した現地の国家とも接触し───
───戦争が始まった。そして圧勝した。
戦争になった理由は分からない。偶然なのか、必然なのか。相手側から仕掛けてきたのか、それともこちら側から仕掛けたのか。
少なくとも政府の公式声明では、仕掛けてきたのは相手側からだそうである。
───彼女は全く信用していないが。
ともあれ勝因なら簡単に推測できる。
最大の勝因は技術格差である。
地球の技術力を基準として見た時、〈アーケディア〉は近未来、それに対して戦争の相手国は中世レベルである。一部では"魔法"という摩訶不思議な力によって遅延が生じることもあったが、それでも全体で見れば概ね順調───〈アーケディア〉側にとってだが───に戦況は推移した。
こうして相手国の首都を陥落させ、広大な領土を占領した〈アーケディア〉はその地に眠る各種資源の開発を進める。
───勿論、現地への影響は一切考慮していない。彼等からすれば当たり前のことである。
さて、この世界でも自身な力が通用することに自信をつけた〈アーケディア〉の上層部は一つの決断を下す。
───国家を、〈アーケディア〉を拡大せよ。
───大地を征し、資源を掘り出し、国家に繁栄を齎せ。
こうした号令の下、国境線を推し進めるべく周辺国への侵攻を始めた〈アーケディア〉と連合国───突如として誕生した未知の勢力に対抗する為に創設された多国間同盟───との間で戦争が起こったのが一年前の出来事である。
───そう、一年前。連合国は想像以上の粘りを見せていた。
人口という面では圧倒的に不利な〈アーケディア〉は、連合国との間に生まれた広大な戦線を維持するのに手一杯になっていたのだ。
キルレートが10〜20───場合によっては100───を推移する〈アーケディア〉の兵士達も流石に一人で千人を相手取るのは不可能だ。
結果として何百倍もの人数差を前に急遽構築された防衛線に籠もらざるを得なくなっている───というのが今の戦況だ。
更に未確実だが連合国が何処かから支援を受け取って装備の近代化を進めているという情報もあり、依然として予断を許さない状況である。
───これはそんな世界を生きる一人のTS転生者の話である。




