ロースタンズ領主家にて
「…婚約を、切った…?」
「ああ、向こうから速達で文が届いた。早急に、ということであろう。」
ずずず…と朝刊片手に紅茶をすする父から唐突に伝えられた内容に、ジェラルドは呆然とした。
開いた口が塞がらない、というのを体現化しているジェラルドに、父は片方の眉を上げて話しかける。
「なんだ、お前が破談を申し込んだのではないのか?お前がユーロベルトから帰ってきた後での速達であったし、両者の悲願であったと文には書いてあったからな。」
「それは…、そうなのですけれど。」
ジェラルドはミリーナと文通のやり取りを頻繁に行っており、ジェラルド自身、ミリーナのことを愛していたのだ。
ミリーナからの文にも「早くお会いしたい」「たまらなく恋しい」など、こちらに気があるような言い回しが多く見られたため、自分とミリーナは相思相愛なのだと、ジェラルドは確信していた。
けれど、ユーロベルトとロースタンズでの国交には、不満を持つ貴族が多くいるらしく、遠い昔に国家破綻に追い込まれていたというロースタンズは婚約関係の決議にひどく慎重になっているのだ。
これは、ジェラルドがミリーナとの交流が文通だけなのに不満を持ち、どうしてユーロベルトに出向けないのか、と父に問い詰めた時に話してもらった情報であり、どうにかできないだろうか、とその内容に触れた文をミリーナに送ったところ
『わたくしが頑なに破談を拒んでいるという筋で話を通せば問題ありませんわ。そうしたら婚約解消を申し込みにジェラルド様がこちらに出向くことも出来ましてよ?』
と素晴らしい打開策が書かれた文が送られてきたのだ。これで貴族たちからごたごたと言われても、ロースタンズが破綻するまでにはならないだろうし、なんといっても、ミリーナに会う口実を作ることができるのだ。
___天才か、ミリーナは。
ジェラルドは文を最後まで目を通したあと、急ぎ足で父のもとへゆき、
「父上!ミリーナ様との婚約について、話があります」
と申したのだ。
そんなこんなで昨年から順調にミリーナと顔を合わせていたのだが…。
まさかこのまま破談になってしまうとは…。なんてことだ。
なぜ急にミリーナの態度が変わったのだろうか。よくよく考えてみたら、あの時のミリーナはどこかぎこちなかったような…。
いや、原因を考えている時間はない。きっとミリーナの父親がそそのかしたのであろう。
ミリーナの父親は妙に私を毛嫌いしていたからな。ジェラルドは奥歯をきしませた。
待っていろよ、ミリーナ。必ず私が迎えにいくからなっ!!
そう意気込む誰かをつゆ知らず。ミリーナは勉強し続けるのであった。




