表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

The Mystery of My Grandfather`s Clock

作者: 霜月立冬
掲載日:2025/09/16

 日本のとある県に「吾郷(アゴウ)中学校」という公共普通教育施設が有った。その三階建ての白亜の箱の二階、二年生教室で、ちょっとした推理が始まった。


 季節は秋。

 今日の給食には「秋の味覚」がふんだんに振舞われた。それに満足した冬服(男子は黒の詰襟。女子は黒のセーラー服)姿の生徒達が、次の授業までマッタリ寛いでいる。

 そんな平和な時間の中で、一人の男子生徒が立ち上がった。


 その生徒の名は「真田悟朗(サナダ・ゴロウ)」という。


 悟朗の席は教壇のド真ん前。他の生徒からすれば「運がない」と言いたくなる位置だ。

 しかし、誰も悟朗に同情しなかった。「悟朗だから仕方ない」と、納得していた。


 悟朗は、常に先生の目の届く場所に置いておく必要が有った。何故ならば、彼は問題児だからだ。


 悟朗は、自らを「孤高のフリチンダー」と称して、問題行動ばかり起こしている。

 記憶に新しいところでは、一学期の授業参観の際、保護者の前で全裸ダンスを披露している。アホである。

 しかしながら、その踊りは(仔細は省くが)実に見事だった。その為、保護者達は悟朗に拍手喝采。だからと言って、お咎めが無いはずもなく。


 授業後、悟朗は職員室に呼び出され、学校長を始め、全教員から説教を食らった。

 尤も、それで懲りる悟朗ではない。その事実は、他の生徒達も骨身に染みてよく理解していた。

 だからこそ、悟朗が立ち上がった際、嫌な予感がした。だからと言って、積極的にかかわろうとする者は皆無だった。


 悟朗は皆の視線を浴びながら、スタスタと窓際まで歩いた。その脚が止まった場所は、最後列ひとつ前の席。そこには、眼鏡を掛けた男子生徒が座っていた。


 男子生徒は、ぼんやりと窓の外を眺めていた。余程気が抜けているのか、悟朗の接近にも気付いていない様子だった。


 その生徒の名は「金田一耕(カネダ・イッコウ)」という。


 その名前は、とある名探偵を彷彿とする。その偶然が、全力で一耕に災いした。

 一耕は自らを「名探偵」と思い込み、それを自称した。しかしながら、現実は一耕に非情だった。

 一耕には、名探偵としての実績は皆無。一耕の推理は、的を外れるどころか異次元の方向を射る。その為、謎を深めるばかり。

 その悪癖故に、他の生徒達からは「迷探偵」と呼ばれていた。


 問題児と迷探偵。吾郷中学に於いては「最悪」と言えるコンビ。生徒達が覚えた嫌な予感が確信に変わっていた。


 衆目が集まる中、悟朗は一耕に話し掛けた。


「一耕」

「ん」


 名前を呼ばれて、そこで漸く一耕は悟朗の存在に気付いた。

 一耕は、ボンヤリした表情のまま、反射的に悟朗の顔を見た。その視界に映った悟朗の顔に、満面の笑みが浮かんでいた。それを一耕が直感した瞬間、再び悟朗が声を上げた。


「俺、『凄いこと』を思い付いたんだが」


 凄いこと。悟朗が言うのだから、きっと「ろくでもないこと」なのだろう。誰もがそう思った。確信していた。それは、一耕も同様だった。

 悟朗を見る一耕の眉が不機嫌そうに歪んだ。その反応は、悟朗の視界にも入っていた。

 しかし、そんなことを気にする悟朗ではなかった。


「小学校のとき、『大きなノッポの古時計』って、習っただろう?」


 大きなノッポの古時計。正確には「大きな古時計」である。十九世紀、アメリカの作曲家が作った民謡だ。

 悟朗達は小学二年生の音楽の授業で習っている。その為、居合わせた生徒達の脳内に、件の歌が流れ出した。皆、一字一句違わず諳んじることができた。その最中、教室内に悟朗の声が響き渡った。


「あの『古時計』って、実はお爺さんの――」


 悟朗が「続け様に言い放った言葉」が、殆どの生徒達を心底呆れさせた。


「『チムチム(まろやかな表現)』を意味していたんじゃないか?」


 悟朗が「それ」を告げた瞬間、教室内に溜息が溢れた。


 くっだらねえええええええええええええええっ。


 百済の国も吃驚のくだらなさ。殆どの生徒が、「聞くんじゃなかった」「興味を持つんじゃなかった」と、自らの愚行を反省した。ところが、全く別の反応をする生徒がいた。


「それは――有り得るな」


 一耕は「ふむ」と頷いた。その反応は、他の生徒にとっては全く意外なものだった。


 え? 食い付くの?


 一耕の反応を目の当たりにして、生徒達の首が一斉に傾いだ。正直、これ以上悟朗の話を聞く気にはなれなかった。だからと言って、この二人の間に入ろうとする剛の者は皆無だった。皆、後難を恐れて遠巻きに見ていた。


 衆目が集まる中、迷探偵の推理が始まった。


「俺の記憶が確かなら、あの時計は『おじいさんが生まれた朝にやってきた』と、なっているよな?」

「ああ、うん。それが――『何か』有るんだな?」


 悟朗は一耕の机に両手を着いて、前のめりになった。そこに、迷探偵の口から奇妙な「謎掛け」が飛び出した。


「『やってきた』ところが、実は『たっていた』としたら?」


 たっていた。それを聞いた他の生徒達の首が更に傾いだ。悟朗の首も傾いでいた。ところが、悟朗の反応は途中で変わった。

 悟朗の目が、「かっ」と擬音を立てて開いた。続け様に一耕に向かって声を上げた。


「もしかして――『朝立ち』か?」


 朝立ち。それは、男子の生理現象だ。その言葉を告げた瞬間、大半の女子の顔に渋面が浮かんだ。


 無いわ。百年の恋も冷めるわ。


 続け様の「下ネタ」である。それを食らって、女子達は心底呆れていた。そんな周囲の反応を他所に、迷探偵はニヤリと会心の笑みを浮かべた。


「ご明察」


 一耕は、悟朗に向かってサムズアップした。すると、悟朗は「よしっ」と、会心のガッツ石松ポーズを決めていた。

 しかしながら、二人の様子を見る周囲の視線は氷点下だった。


 何がご明察だよ。お前らの察しが悪過ぎて吃驚だわ。その小洒落た物言いも、いちいちムカつくわ。


 盛り上がる二人を他所に、周囲の空気は冷めきっていた。しかし、察しの悪い二人は、全く無頓着に推理を続けた。


「そうすると、『今はもう動かない』ってのは――『ED』か?」


 ED。勃起障害。男としては避けたい事態である。それを告げたところ、迷探偵の首が傾いだ。


「いや、そのときお爺さんは百歳だろう? 加齢が原因だな。『常識』的に考えて」


 一耕は、悟朗の推理を否定した。一耕の推理は、悟朗のものより「マシ」といえなくもない。しかし、周囲の生徒達の顔は、どれも渋面ばかり。


 お前の口から「常識」と言われてもな?


 そもそも、他の生徒達は「お爺さんのチムチム説」に否定的なのだ。それを大真面目に語られたところで、真面な反応を返す気にはなれなかった。


 しかし、他の生徒達にとっては残念なことに、この世界には「類は友を呼ぶ」という諺が有る。悟朗達が盛り上がっているところに、一人の生徒が現れた。

 その生徒は、悟朗の背後に近付くなり、二人に向かって声を上げた。


「いや、そうとも限らんぞ?」

「「!?」」


 悟朗は、咄嗟に振り返った。一耕も、声が上がった方を見た。


 悟朗の背後に一人の男子生徒が立っていた。その顔に、気難しげな表情を浮かべながら、右掌で口許を抑えている。その詰襟に付いた校章の隣に「Ⅲ」のマークが付いていた。

 中学三年生。悟朗達にとっては上級生だ。「馴染み」と言える者は少ない。

 しかし、その生徒は(他の生徒にとっては不幸にして)二人の知己だった。その気難しげな顔を見た瞬間、悟朗達は揃って相手の名前を告げた。


「「『ヤマさん』っ!?」」


 ヤマさん。当然ながら、愛称である。


 その生徒の名は「山口茂平(ヤマグチ・モヘイ)」という。山口だから「ヤマさん」だ。


 突然の上級生の乱入。その異常事態に対して、声を上げる生徒は皆無。皆、全力で目を逸らしていた。


 もう、気まずいなんてもんじゃない。


 混沌とした空気の中、茂平は気難しげな表情を浮かべたまま、大真面目に自分の推理を披露した。


「仮に、お爺さんが『エルフ』だとしたら――どうだ?」


 エルフ。簡潔に言えば「長寿種」である。その言葉を聞いた瞬間、教室内の空気が一層悪化した。誰も彼もが、深海魚のような重苦しい表情を浮かべていた。

 しかし、重苦しい深海の中で、明るい声を上げる生徒が、二人解いた。


「エルフっ。それならEDも有り得るのかっ」

「その発想は――うむむ。名探偵の俺にも閃かなかった」


 悟朗も、一耕も、茂平に向かって全力で脱帽した。


 終に、「お爺さんエルフ説」まで加わってしまった。それを考慮した上で、新たな推理が展開される――はずだった。

 ところが、ここで他の生徒達にとって朗報。昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。


「ここまで――だな」


 ヤマさんは、クルリと踵を返して教室から去っていった。すると、一耕が悔しそうに歯噛みした。その想いが、彼の口からポロリと洩れた。


「勝ち逃げ――か」


 一耕としては、自分が勝つまで推理合戦をしていたい気分だった。その想いは、意外にも悟朗が察していた。


「また、次の機会が有るさ」


 悟朗は右手を掲げて、一耕の右肩をポンと敲いた。その瞬間、一耕の口許にシニカルな笑みが浮かんだ。

 二人の間に友情が育まれた。微笑ましい青春の一コマ。しかし、それを見詰める他の生徒達の顔は、深海魚のままだった。


 え? またやるの? もう、勘弁してくれ。勘弁してくれ。


 生徒達の心の声が、教室内のアストラル空間に木霊し続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
小中学生ダンスィが大好きそうなやり取りだと思いつつも、悟朗と一耕と茂平のカオスすぎる考察をもっと読んでみたいと思ってしまいました。 要するに続編希望です。
個性的な登場人物たちが織りなすシュールで愉快な日常が描かれていてとても楽しかったです笑 周囲の生徒たちの冷めた反応と当の本人たちである悟朗と一耕と茂平の真剣なやり取りのギャップが面白くて笑ってしまいま…
2025/09/17 03:55 退会済み
管理
登場人物の苗字が私の作品と同じでご縁を感じます。 お互い、楽しく書きましょう。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ