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神、降臨  作者: 楼陽
第一章 『砂漠色の遊戯』
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第一章 World.9 氷の鎌、鎧包の剣士

「まずい、黒猫が動き始めた」

黒猫の腹部は血みどろと化していたが、ついに流血を止めて、巨体がゆっくりと動き始める。


 レドルアがレンナのものだと言う、氷の鎌の攻撃と【ジェイデンアローラ】は、激しさをどんどん増していくが、黒猫の魔力は足が幕に収まらない程度にまでしか減っていない。


 こうなったら、一部分に集中攻撃して、魔力が抜けたところを一発で切り落とす以外、方法はない。


 ただ切り落とす者もいない。レドルアは、血が頭に昇っておらず、朦朧として、さらには腹部の止血でさえ、油断を許さない状況だ。他には、ムスカルのおっちゃんがいるが、ここからだと助けを呼べない。


 さてどうする。このままだと、一番近くで、()()()使()()()止血処理してる俺のところに間違いなくやってくる。今動いたら、レドルアの止血は一からだ。左右の手で分割できるだろうか。


 左手は、レドルアの血まみれの腹部に、右手には灰色の魔術構文が見える。


 小石を一直線に飛ばす魔法【ラピスグラント】

 

 やはり片方だけだと、ただでさえ攻撃力が弱めの魔法なのに、さらに威力も下がる。


 翡翠の矢を打つ【ジェイデンアローラ】で、レンナに加勢したいところだが、あれはいわば弓なので、両手を使わないと打てない。


 さあどうやって黒猫にダメージを与えよう。考えなければ、ここで二人とも死ぬわけにはいかない。レンナと意思疎通できるくらいの時間はあるだろうか。


 糸を紡ぎつなげる魔法【ファイバーランチ】

 クライスの右手から、勢いよく糸が伸びていく。



「おい、無策はやめとけよな」

 そのとき、糸の先を強引に掴む者がいた。鎧に全身を包み、顔すら明かさず、手で魔法の糸を掴んでそれ以上進まないようにしている。


 こんな隙放題の俺に黒猫がなんの遠慮もなしに飛びかかってくる。

「何してる、黒猫が来てるぞ!」

「そんなこと心配しなくていい、お前はとにかくその無策をやめろ」

この男は飛びかかってきた黒猫の足に、一発の魔法で魔力を吸い取り、出来た隙に剣で傷を創った。動きが速い。


 この体つき、筋肉だけでできているかのような足に、分厚い胸板、おまけにこんな低い声は、男だなこいつ。


「何をするんだお前は」

「はいはい、話をちゃんとしような、ガキ。簡単だ。糸を伸ばすってんなら、あの魔法ぶっ放しまくてる赤い嬢ちゃんだけにしろ。それ以外言うことはない」


 なんだこの鎧は。勝手にペラペラ喋って、まず素性明かしてから喋れよ。


「いや、理由を答えてくれないとわからないだろうが!」

「ガタガタガタガタうるせえな。そんな時間ねえよ。いいからあの嬢ちゃんだけに繋げろ!」


 鎧に身を包んだ男は、黒猫へと飛び出し、剣をかざした。その男は、空中に飛んだ上に真っ直ぐ切り返し、黒猫の髭を狙う。てっきり脳筋だと思っていたがかなり知的なようだ。


 猫の髭は神経が通っており、障害物に当たらないように、また平衡感覚を維持できるように働いている。それを切り落とす、つまり、バランス感覚を強制的に失わせると言うことになる。これはかなりのアドバンテージになるに違いない。


 俺はこの機を逃さない。通信するために、レンナへ向けて、勢いよく糸を伸ばした。

「魔法の投射位置から見て大体ここら辺か」


 糸が突然ぎゅっと張った。誰かが引っ張った。糸の先には研究室で持っていたコーヒー用の紙コップをつけている。

 これは、糸電話だ。所詮子供の遊びであっても、こう言う時はかなり役立つ。




「もしもし!レンナさん、聞こえてます?」


「すごく鮮明に聞こえてますよ。クライス!どうされました?」


「大量の魔法ぶっ飛ばしてるの、あなたですよね、そうレドルアが言っています」


「す、すみません。本当は隠しておくつもりだったのですが、レドルアは騙せませんね。レドルアは今どうしてますか」


「かなりの流血があって、今【トリーテ】を使って治療中ですが、止血は、正直、難しい」


「いや、それは難しいでしょうね、あの子は精霊師から。治療するなら、ハルカを持っていかないと、まともな治療はできないような気がします。行かせましょうか?」


 「可能であれば。ただ、今はそれよりも大事なことがあります。そちらに鎧に身を包んだ剣士は見えますか?」


「甲冑みたいなやつですか、空飛んでますね。見えますよ」


「よかった。彼はおそらく仲間です。かなり強いようですが、どちらにしろ、魔力の吸収は必要なので、氷の鎌を引き続きお願いします」




 これで、ハルカがやってくる。土の精霊の術ならば、すぐに治るだろう。


 氷の鎌が入り乱れて黒猫に刺さる中、鎧に包まれた剣士は、黒猫の攻撃を魔法で回避しながら、氷の鎌の刺さって弱くなったところに斬りをいれている。二重の攻撃に、黒猫も、もがき苦しむものがある。


 剣の出す鋭い音が、ヒカリダケの森中に伝わる。光の精霊は、闇の力に効果がある精霊だが、相手が魔力で戦っていたら、レドルアにそもそも勝ち目はなかったのかもしれない。ここはあの剣士に任せておいて正解だろう。


 あの剣士は何者だ。まだこの世界であった人が数人しかいないので、突然知らない人が出てくると困る。

 彼はおそらく魔法を多少扱える、剣士だ。レドルアとは、仕組みが逆である。そうでもなければ、あんなに繊細に剣を扱い、狙った場所を確実に仕留めるなんて芸当はできない。


 だから彼は防御魔法をずっとかけて戦っているので、黒猫にやられる心配も少ない。レドルアの治療に専念できるので、今非常に助かる戦力だ。


 クライスは【トリーテ】をレドルアに、ハルカが来るまでかけ続ける。ただ少し気にかかるような顔をする。


 助けてくれるのはいいんだが、最初に言っていた「おい、無策はやめとけよな」「糸を伸ばすってんなら、あの魔法ぶっ放しまくてる赤い嬢ちゃんだけにしろ」という二言。あれが気になるのである。

 つまりあの剣士は俺は無策でレンナに糸を伸ばそうとしたと、そういうのだろうか。ただ剣士はレンナに糸を伸ばすことを、止めているわけではない。逆に促してもいたように取れる」


 レンナでなきゃダメな理由が何かあるのか。ハルカやおっちゃんではダメだったのは何故だろうか。

あいつは絶対に何か重要な情報を隠している。一体なんのために隠すのだろうか。



 氷の鎌がやって来ると同時に、ハルカがやってきた。

「ハルカ、早く来い!」

「いいからいいから、多分この傷なら割とすぐに治るよ。よく効きが悪くて心配になる中魔法をかけてくれてありがとう、クライス。あと少しの止血と、創傷部の再生だな、任せてくれ。」


 「霊々尊々、天地を治むる神なるは、土の精霊を呼ぶべし。この世の全ての傷は癒ゆべきなり」

 ハルカは土の精霊をよんで、レドルアの掻かれた腹の傷を修復していく。さっきまでの俺の魔法とは比べ物にならないくらいの速さだ。


 精霊術は精霊の使い手のために。魔術は魔術の使い手のために。

中等教育院で耳が痛くなるほど言われたこれは、本当だったのだな。学校はあんなに満足度は低かったが、いまいち恨めない。


 「そこの糸出してた少年、次の氷の鎌でこの化け物猫に蹴りをつけたい。合図をしたらすぐにレドルアを連れて逃げるんだ」

鎧で身を包んだ剣士は、レドルアのことを知っていた。レドルアの知り合いと言ったところか。レドルアが起きたらなんていうんだろうな。レドルアの反応が今からでも気になる。


 「助かった、ありがとう。もしよかったら、俺も翡翠の槍で加勢した方が安心だったりするか?」

「関係ない。むしろ照準を間違えたときが怖い。引っ込んどいてくれ、お前に課された役柄は『レドルアを安全に、村へ送り返すこと』だ。それ以上でもそれ以下でもない」


 そんなにきつい言い方されなくてもいいのにな。少々言葉の粗い人だ。別に照準を外すことは、ないとは思うんだけども。

 あいつが俺を邪魔だというなら、今は素直に身を引いておこう。


 遠くからさらに多くの氷の鎌が飛んでくる。それに合わせて剣士は剣を月にかざす。


 氷の鎌が黒猫の首に刺さった時、剣士は黒猫の首を切り落とす。

 これでこそ、正しいジ・エンドだ。


 「今だ少年!また会おう!」

鎧包の剣士の声を聞いた俺は、ハルカと共にレドルアを連れて、森を出る。

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