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神、降臨  作者: 楼陽
第一章 『砂漠色の遊戯』
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第一章 World.7 赤髪の少年、抜剣

 俺とレドルアの前には、緋色の瞳を持ち、紫の煙たい幕をまとった、大きな大きな黒猫がいる。あいつの中身は色々と複雑らしい。研究者としては、是非とも中身を明かしたいところだが。


「二階くらいの高さであの黒猫飛んでるけど、本当に六分で片付けられるのか?」

「確信はないです。朧げに見えてきたんですよ、六という数字が」


 なんだかどこかで聞いたような構文だな。





「概括的に見て、あいつは精霊か何かだと思うが、剣でダメージは与えられた?」

「大したダメージは、ダメですね。あんまり聞いていないような気がします」

 やっぱり、魔法や精霊でできたものに、物理攻撃が効くとはどうも思えない。空気をナイフで切れるかと聞いているようなものだ。




 かと言って、俺も大したダメージを与え、レドルアを補佐することは恐らく無理だ。


 俺のことを守ってくれると、レドルアは言った。ただ、そこには、何か対価を要求するとか、部下にさせられるとか(いやそんなに強くない)、それとも恋の相談だろうか、といったような大きな裏があると察するところである。


 非常に面白くないのは、俺はそんなに強くないのに、魔力は結構持ち合わせているということだ。これも下位世界転移の結果だろうか。おかげであの黒猫は俺が目当てなのに、守ってもらうしかやることがないのだ。


 少し基本の技だけでも繰り出してみるか。ずっとこの調子ってのも退屈だし、何だか申し訳ない。

もしかしたらものすごく強かったりするかもしれない。




 クライスは下位世界に来て、数々のピンチを一度に受けたせいで、すぐさま開き直れる自信がついた。


「すると。あ、いや、お前精霊師だよな。俺の基本的な魔術が効くか試させてほしい」

「いいですよ。私が時間を稼いでいる間に、よろしくお願いしますよ」

「よろしく頼む。もし効くようなら、レンナさん、あの人を連れてきた方がいいんじゃないかと思って」


 レドルアの顔が戦慄とする。

「手負に何をさせる気だ。あの女は絶対に連れてくるな」

「な、何もそんなに怒るものとは思わなかった。ごめん」

手負ってのが少し引っ掛かるが、こんなに怒られちゃうならば、あいつに任せておいた方がいいのだろうか。


「とりあえず打ちます」





 もう五年以上も打っていないが、果たしてちゃんと当たるのだろうか。とりあえず、可能性を潰すためにもやってみるしかない。


 クライスは、黒猫に対し垂直に、足を前後に踏み出し、大きく腕を後ろに引っ張る。腕に魔力が吸い寄せられていき、紫色の靄が見える。

 左の拳を黒猫に向け、拳の上には、構文が書かれた緑の輪が出る。


 良かった。体はちゃんと覚えているみたいだ。


 翡翠の石の矢を打つ魔術【ジェイデンアローラ】

右の腕に吸い寄せられていた魔力は、構文の輪を通して、翡翠の石となり、黒猫を生来の敵と見做し飛んでいく。緑の閃光のように見える彼の矢は、大きな黒猫の腹に刺さった。


 黒猫は、大きな呻き声を轟かせて、傷口から勢いよく血が流れ飛ぶ。さらにジェイデンアローラによって放たれた翡翠の石には相手の魔力を石の中に取り込んでいく。翡翠の石は、見るも惨めな紫色となり、地面へ落ちる。





「どうだ効いているか?どう思う、レドルア」

「ああ、見ていますよ、ちゃんと。あの幕は魔力なのか。先ほどのあなたの右腕に溜まった魔力と同じ色をしていた。血が流れ出たということはつまり、この黒猫は、魔力に加護を受けた実体であるようで間違いはなさそうだ」

「だんだん声が小さくなってますよ、もっと自信持って!」

「手に余る言葉、感謝します」

 なんか大袈裟に取られてしまったのだが、まあいい。




「おそらくこいつは実態のある普通の黒猫です」

レドルアが剣で、黒猫の爪の攻撃を、左右に流しながら、俺に説明をしている。あいつの頭の中がどうなっているのかが知りたい。


「普通の黒猫はおそらく、魔女によって『自由拡大縮小化の魔術』、まあ古代魔術です、それを受けました。それはただ自由に拡大もしくは縮小するだけなので、それ自身の重さに変化はありません」

「・・・・・・」

レドレアがこんなに考えながら剣振ってるなんて。

「まあ他にも空を飛ぶ術や、消失の術など、他にも何個か手に入れているらしいですが」


「かなり説得力のある説明すごい助かる。つまりこいつは、魔術によって周りの魔力の幕を消せば、ただの大きい猫であり、お前が使う、剣術のダメージも諸に与えられるというわけだな」




「なんと理解の素早い。すばらしい、その通りです。ですから、お願い・・・・」

「言われなくたってわかるよ。ジェイデンアローラを打ち続けろと、そういうわけだな」

「ナイスです」


 正直それは結構きつい依頼だな。魔力的にではない。この世界では使用する魔力量は少なく済むらしいからな。

問題なのは、『体力』だ。


「すまない、悪いんだが。足がビクビク、心臓がガクガクいっている。これ以上遠くに行く必要があるのか」

「完全に村に被害が及ばないと約束することはできませんが、あなたがそんな状況では、どうしようもありませんからね。なんとかしてここで撃つしかなさそうです」

「すまない」


 俺は()引きこもりだから、体力なんてほんの少しだ。体育の成績のせいで、大学から推薦が来るかどうかも怪しくなるほど、酷い成績だった。俺の体力に関して、父と祖父が言い合いになっているのは見たことがある。俺としては、体力なんて、あってもなくてもどちらでも良かったんだがな。


 ただそのつけを今払わされることになってしまった!


「ゲェェ、もう一発いきます。【ジェイデンアローラ】」


 再び翡翠の矢が飛んでいく。

 クライスの口が、『体』『力』不足による激しい呼吸により、全く塞がれないので、唾液が口から滝のように溢れている。全く見るのも不愉快なほどに。





 久しぶりの運動が、まさかこんなに厳しいものになるなんて、一度たりとも思っていなかった。少なくとも一世代世界ではこんなことになることはなかった。ただ俺よりも、レドルアの方が心配だ。


 あいつの魔術の能力はそこまでないのだろう。その中で霊司力が抑えられてしまっている今、彼の戦う方法は唯一剣術のみである。防御の精霊は呼ばないのだろうか。確か水だったような気がする。理由は知らないが、一世代世界と、十五代の世界、あまり法則や力の構成、魔法構文などは変わらない。


 ーーーーノアが得意としていたのは月の精霊だったかな。嫌味な精霊術だが、俺は嫌いじゃなかった。





 ああ、今思い出している暇なんてない。とりあえず、【ジェイデンアローラ】を打ち続けなければ。


「大丈夫か、レドルア!なぜ水の精霊を使わない!」

「嫌なことを聞きますね、あなたは。使えるんでしたらずっと使っていますよ。確かに水の精霊の防御は強いですが、霊司力の消費も大きいんですよ。使用が抑制されている今、ずっと水精霊なんて使っていたら、もう防御の手立てはありません。でも心配なさらず、その前にこの剣術で倒してしまいますよ」


「予感が当たらないことを祈るばかりだ」

あいつは今気にしないでくれと言ったが、あいつの顔が最初清々しかったのに、今は踏ん張っているが故のしわができている。かなりきついのだろう。ならば、


 \\自分が頑張る以外、誰があのヒーローを助けられる\\


 ただでさえ不利な、レドルアの持つ「ヒーロー」という肩書きは、なんとしてでも俺が守る。





「【ジェイデンアローラ】」

レドルアは、翡翠の矢が足に刺さったのを見落とさなかった。すぐさま足を斬りに向かう。


 黒猫の呻き声は、この戦いで一番大きなものとなった。それだけダメージを与えられているということだ。


 ただ、上位世界の奴ら、言い換えれば()()は、必ず我らの味方をするわけではない。報われないことの方が多い。


 痛がった黒猫は、足元にいるレドルアに、背筋が凍るような緋色の視線と鋭い爪を向けた。レドルアは、地面との反動を利用して、宙へ飛び出すが、時はすでに遅かった。


 黒猫の鋭い爪が、レドルアの体に近づく頃、レドルアは唱える。

「霊々尊々、水の壁」

素早く水の精霊は防御に入ったが、猫の爪はレドルアの腹を掻いた。


「レドルア!」

体が頭に有無を言わさず、レドルアの方へ走る。


 流血の腹巻きをしたレドルアの最悪な光景を目の当たりにした。

「【ジェイデンアローラ】」

黒猫に打つが効かない。


 ちょうどその頃、空には氷の鎌のようなものが、夜空の半分を覆い尽くすほど、向かってきた。

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