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神、降臨  作者: 楼陽
第一章 『砂漠色の遊戯』
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第一章 World.5 クライス、たった五文字が難しい

 浮かない顔をしたのは、赤髪の少年、レドルアだった。

「どうしたんだ、お前。何か調子悪いのか?」

「勘違いですよ。ほら、私はピンピンですよ」

随分と裏のあるような話だ。俺に話せるような話ではないということなのだろう。まだあまり仲が良いというわけでもないので、話をしない方が得策である。


「ちゃんとハンマーで殴ったこと、謝りなさい!」

すごい現実離れした説教だな。ハンマーで人殴るって、鈍器とかじゃなくて、ハンマー、意外と死亡率低かったりして、いや普通に死ぬか。


「わかったよ、レンナ」

あの赤髪の女性はレンナっていうのか。あの人もあの人でかなりの魔力を持ってるように見える。


「ごめんなさい」

「いいよいいよ、大丈夫。二度としないでね。今回はいいよ、どこも怪我してないから!」

子供の純粋な謝罪を九歳も上の俺がハネるっていうのも、よくないだろう。





 ハルカは精霊術の使い手、霊司力が多いのか。魔力はそこそこと言ったところか。

ムスカルのおっちゃんは、おそらくあれは物理攻撃のデカブツだ。

レドルアは霊司力の塊だ。おまけに剣術だなんて、どんな教育受けたらこんなモンスターできるんだよ。

そしてレンナは魔力が多い、つまり魔術の使い手か、霊司力も申し分ない。


 俺のいた、一世代世界には、義務教育を受けているのにも関わらず魔術、精霊術の違いがわからない者が多い。


 魔術は魔力によって魔法構文を生成し、そこに魔力が加わることで物質として実体化し、相手に物理、心理攻撃を加える。


 精霊術は、世界のあらゆるところに生息している精霊を霊司力によって制御し、精霊自身の持つ特性に応じて、受霊構文を利用したエネルギー体として放出される。相手には、物理攻撃、心理攻撃を魔術と比べて大きく喰らわすことが可能である。また精霊による監視も可能。


 つまり、魔術は自己完結の物質攻撃、精霊術は生息している精霊頼りの大きなエネルギー攻撃になる。どちらも一長一短なのだ。ただし、魔術には、霊司力を抑えるものが存在するらしく、あまり強くない精霊術の使い手は魔術の使い手に歯が立たないことが多い。




 一世代世界では、中等教育院に上がるタイミングで、どちらを専攻するかを選択していた。護身のためには二つのうち一つは、必要なのだ。


 俺は中等教育院時代の時に魔術を専攻したので、精霊術のことはよくわからなかった。

レンナさんとは、魔術のあんな話やこんな話ができそうだ!


 そんな期待を胸に顔を赤らめていると、すかさずレドルアが聞いてきた。

「どうしたんですか、クライスさん?顔結構赤いですよ。ここの暑さにのぼせでもしましたか?」


「いやそんなことない、確かに暑いけども・・・・・・」


「どうしたんですか突然虫声だなんて、人が聞いてるのに人の目見て独り言を言わないでください!」


 ああ、気を抜くとつい“しりとりコミュニケーション“を忘れてしまう。えっと、次は[い]か。

「いやそんなことない・・・・・・」

「いやどうしたんですかって聞いてんですよ!なんでそんな上の空なんですかね?!」


 今俺が話そうとしてただろう!しりとりのせいで一回頭で頭の文字考えてからじゃないと話せない、そして新しくまた一文きたら、語尾変わっちゃうじゃないか!せっかく考えた一案が、使いもんにならなくなる。まったくこいつ待つってことを知らないみたいだ、ちゃんとしりとりできるようになれないと、一生喋れず終わってしまう。


ーー“ちゃんとしりとりできるようになれないと、一生喋れず終わってしまう“ーー


 いやどういう世界線だよ!いやこういう世界線か、クソ……あのウォーチェンのやつ、一発殴りたい気分だ。時間稼ぎの借りには、あまりにも大きすぎる貸しを今背負わされている気がする。


「寝起きでまだ頭がボケーっとしてて。申し訳ない。別になんかあったというわけではないんだ」

レドルアがさっき押さえ込んでいた理由が少しわかる気がする。


「だったらいいのですが」

「隠してなんかないよ」

こいつより嘘一個多くついたぞ俺。


「というよりなんで敬語なんだ?俺はタメ口で喋ってるけど、お前俺より年上だし、強いし・・・・」

「知らないですよ。なんとなくです。貴方はいちいち相手によって敬語使うがとか決めてるんですか?」

一世代でも十五世代でも、敬語使うべき、使わぬべき論争は健在みたいだな。


「勘だ。だからお前もタメ口で話してくれ。こっちが恥ずかしくなっちまう」

「承りました」

「短時間で裏切ってくれたな」


「なんと、忘れてたよ」


 うん。やっぱこいつがタメ口にしてると、高貴な感じが薄れて、ちょっと金持ちな地主の令嬢がでしゃばっている感じに聞こえてものすごく違和感だ。


「予定だと、こんなはずはなかったんだが・・・」

「が?」

 無駄な相槌を打たないでくれ。


「が、やっぱり敬語にしてくれ。なんかお前がちゃっちく見えてきた」

「楽しい物ではないですね、タメ口ってなんか相手を見下しているみたいで」

レドルアがじっと俺を見つめてくる。タメ口で話し続けていてごめんなさい。


 心の中ではそう思うが、こいつに謝るとなると、なんか気に入らないんだよな。本当に見下しているのか?俺の方が賢いんだとか思っちゃってるのか、俺?


「あ、いや別にあなたに言っているわけではないですよ!そこはあなたのチャームポイントですか()



 俺の今の生活において一番最初に判明した、生活に支障をきたすかもしれない重要な問題……


 そうだ。「ら」行だ。子供の頃、一人で欲求を満たすのが本当に下手だった俺はよくしりとりで遊んでいたが、このら行とやらがとんでもなく難しいのだ。ライオン、鱗粉、レンコンあたりは、まだ他にも言葉があるので避けられるのだが、「る」とか「ろ」とかってそもそもそれから始まる言葉が見当たらないんだよな。「る」なんかもうルビーばっか言ってる感じがする。


 [ら]から始まるかつ、突然出てきてもあまり違和感ないワード・・

「楽な方が俺好きだから!子供の頃から口調はあまり変わってない。そのせいで、大人に偉そうだと反感を買うこともあったが、そういう奴は総じてバカばっかだったから、対処が簡単だったんだ」


 いやなんか楽するとサボってる気分になって、とても嫌なのである程度障害物の多い道を好む傾向にあるが、これは「ら」を切り抜けるための作戦だ。しょうがない。もし俺がサボりグセのあるやつなどと覚えられてしまった時は、誤解解く方法を考えなけりゃならない。



「というよりもっと大事な話がある、レドルア」

「あ、えっと、なんですか?」

次「あ」が来た時はこれで切り抜けられそうだ。


「確実に」

 レドルアは口に出てきた全ての息をのむ。レドルアとかいう、頑張れば世界征服できそうな者が、息をのむことに驚いた部屋中の皆が、俺のことを見た。


《《グ〜〜《《

「お腹が空いてきてしまったんだ!」


「大したことがなさすぎだ・・」

ハルカが呆れて踏ん反り返っている。

「大変悲しい話、そうかそうか。お前はずっと飯を食えずにひもじく生きてきたんだな。そうかそうか(涙声)」


 ムスカルのおっちゃんも下手な芝居はいらないよ。スベったならスベりきってくれない方が、かえってこういうのは辛いんだ。いっそ全無視を期待していた。


「帰ってきてからバタバタだったけど、そういえばそうだったわね!ご飯の時間ですね!用意してきますわ!」

レンナさんには、どうやらボケが通じなかったみたいでよかった。


 レンナさんは下にあるキッチンへ降りて行った。

「今日は、初めてのお客さんがいるもんだから、ちょっと張り切ったご飯みたいだ。あんなに笑顔でキッチンに降りてくるのなんて、二年前()()()兄が聖都で兵士として働くためにこの家を出る前日以来じゃないか、おっちゃん、そうだったのか?」


 ハルカの二年前って、まだハルカが六歳ってことになるが、随分と物心がつくのが早いみたいだ。それに精霊術まで習得しているなんて。何回聞いても驚いてしまう。


「かなり自身はないが、()()()が家出る時は、あっちゃーなんだったかな、忘れちまったよ。夜に、クロネのやつも一緒に皆で酒を交わしたのは、よく覚えているがな」

おっちゃん絶対飲んだくれだな。




「きゃーー!」

突然の悲鳴が二階に一切減衰せずに届いた。


「何が起きた!一階へ降りろ!あの悲鳴は尋常やない」

おっちゃんは何かを察知したかのように言う。少なくとも、さっきの悲鳴からして、ただの虫ということはないだろう。きっと何かが起きている、俺の真下で。だって全く見てもいないのに、

「急げ、クライス。足なんか震わしている暇ないぞ!」

ハルカはそう言うが、俺の足は頭の言うことを聞かず、ただただ毛を立たして震えている。


 レドルアとハルカが俺の腕を両方とも掴みながら、部屋の中にいた四人全員が、急いで駆け降りた。すると訳もわからないうちに、


ーー大きすぎる黒い猫が、紫色の煙たい幕に身を包み、緋色の瞳をチラつかせながら、私たちを睨んでいた。


 続けて猫は不気味口を開ける。

「こんばんは、皆さん。今日の夜ご飯はここにしましょう……」

その重たるい声を聞いた後、辺りを見渡すと、壁も屋根も家が全て消えて無くなっていた。

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