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神、降臨  作者: 楼陽
第一章 『砂漠色の遊戯』
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第一章 World.4 赤髪の少年、精霊に聞く

「お前、なんのつもりだ!」

俺に短刀を向けた女の子は、赤毛の男に向けて強く言い放った。そして、赤髪の男は口を開く。


「大丈夫、心配ない。お前の名はハルカと言ったか。そうだハルカ・ブリューズ。聖都からの刺客といった方が伝わりやすいかな」

聖都からの、刺客?


「何あんた、何の用があってこんな辺鄙なとこ来たんや」

おっちゃんがすかさず、反応する。

「野暮な質問ですね。もちろん、強い魔力を感じたからです」

赤毛の野郎は随分と偉そうに答える。


「すまんが、そんな強い魔力、うちの義娘は使っとらんよ!」

いやそうだ。こいつは俺が落ちてきてから、ずっと物理攻撃を仕掛けずためらっていた。特別なのだって精霊くらい、つまりこの子は体力と霊司力しか使っていないはずだ。


「よっぽど自信があるようで、なんか誤解してませんか?私が魔力を感じたのは、御宅の娘じゃありませんよ。こっちの少年の方です」


 え、俺が、いつ魔力なんか使った?

 魔法を使えないことはないが、そんな表立って使えるほど、才能があるわけではない。せいぜいウォーチェンを脅せるくらいの話だ。義務教育のレベルである。


「凄すぎる量の魔力が放出されたんです。精霊騙すことくらいは簡単でしょう」

「胡散臭いこと言ってくれる。ならお前にはこいつが何者か分かるってんのか!実際、こいつはいまだに一回も魔法なんて使っていない!」

「いや、私ならわかる。無免許精霊師ごときが舐めるものではないだろう」


 そもそも舐めてねーよ。この赤髪俺ら目線なのか、自分目線なのかよくわからないやつだ。


 そのあと、何があったのか覚えていないが、目の前には赤髪がいた。こいつ結局精霊どもに、闇払いの魔法かけて話を聞いている。

ーーつまり精霊たちが嘘付けにようにしてやったりってことなのかな。


「うん、嘘ついてないね。ごめんよ疑って、ハルカ・ブリューズ。」

「凄い迷惑だよ。疑ってかかったおっちゃんにも謝れ!」

「霊に誓おう、申し訳ない」


 この人たち、なんかずっと見過ごしていたが、すごい勢いで”しりとりコミュニケーション”をしている。謝罪とかの限られたワードの中でもなんとかしてしりとりできるんだな。


「とりあえずこの者を休ませよう。私がここにきた理由は他にもある。ただそれはこのものがちゃんと休息を取った後だ」

赤髪は突然取り仕切る。

「お前をうちらの家に連れて行く。お前多分、無一文だろ」

そう言って黄色い髪の女の子、ハルカは俺の手を引っ張った。さすがに転移前のお金、持ってても使えないだろう。


 俺は半分夢にいる感覚だった。あまりにも現実離れしていることが起きすぎている。

 ーーここで死ねば、ノアに一生会えずに、屍もなく消えていたのか。


 思い出した。ノア、ノア、明日も一緒に


 「朝日を見るはずだったのに・・・・・・」


「なんだお前また虫声かよ。いい加減黙れって」

ああそうかここはしりとりの世界だったな。

「手痛いな。なんでもない。気にしないでくれ」

 気にして欲しいなんて言ったって、誰も知らない話なんだ。一世代の住人でさえ、知らないのだから。

「霊にでも取り憑かれてんのか!」

「借りてる身な訳ないだろ、この体が」

 ハルカはそう言い、ハルカとおっちゃんは、俺の前で初めて笑った。ワンテンポ遅れて俺も笑った、形而上だけれども。


「ほーら、これがうちらの家だ!とりあえずお前の目の下の隈、ひどい色してる。寝てろ!」

「ロッツオブラビッシュ(lots of rubbish)!気遣ってくれて助かるよ」

マズイ、ら行で終わる文はそれなりにあるのに、ら行からの始まり方が全然わからない。


 俺は膝をついた瞬間、上半身が崩れ落ちた。






 「おい、おい!大丈夫かお前!」

寝起きの目に黄色いツインに結んだ髪の一房が見える。

「えらい悪いもん食ったん違うか?」

よくわからない紋様の刺青の入った大きく太い腕が左に・・・・・・え?


  \\うわーーーー!\\


 何事かと慌てて体を起こした。一瞬見覚えのない景色に、脳が追いつかなかったが、転移直後に俺を道端で見つけてくれた、若しくは俺を殺しかけた二人だった。


「頑なに口開かないなと思ったら、気絶してやがってビビったぜ。まったく焦ったい」


 そうか俺は気絶していたのか。ハルカたちには今後何回助けられるんだろうか。


 まあ、機械の点検に行ったら、突然異世界に飛ばされて、訳のわからぬうちに話をしようと思えば、話は伝わらず、言語構造の仕組みに精を出し、やっとわかったと思えば変なこと言って短刀を突きつけられ、言い訳を()()()()で考え、よくわからん強いやつが突然登場してきて、やっと晴れた俺の潔白という具合にイベント詰め詰めである。


 なんという無理難題を超えてきたんだ。気絶せず耐えた方が生命の神秘?




 ーーーーだが、ーーーー

 

「いーくらなんでも、寝すぎだろうがぁぁー!今何時なんだよ。外真っ暗じゃん、今日外巡ってこの街だけでも歩けるようになっておこうって思ってたのに!ああなんて無駄な時間を過ごしたんだろう」

「うるさいなあ。怒涛の勢いで言われたら、何言ってんのかわかんねー!」


 ハルカに、大きなハンマーみたいなもので、鈍い音を出しながら頭を叩かれた。

「痛っター!」

「寝ぼけてるお前にはちょうどいい!」」

どうやら痛いとかそういう生理的に仕方ない言葉はしりとりじゃなくてもいいらしい、というかそもそも、ちゃんと言葉で発せていないことも多いと思うので、理論的に追求しても無駄なようだ。


 それよりも、あの子のハンマーパンチが結構痛い。正直舐めていたんだが、床がめり込むかと思ったほどの勢いだった。


「ごめんね!」

ハルカはテキトーな謝罪をしてきた。これがウォーチェンだったら…………あいつ死んでたかもなあ。

 クライスの手は突然グッと虚無を握った。


「寝て起きて突然ハンマーで殴られるなんて、初めてだ」

おっちゃんが笑っている。あの人の体は見るからに頑丈すぎて、ハンマーではやられそうにない。


 まさかハルカのやつ、小さい頃から、おっちゃんとハンマーで遊んでて、その名残とかじゃないだろうな。もしそうだとすれば、昼間見た印象よりも千倍おっかない。





「あれ、そういえば、あの赤髪の、いかにも強そうなやつは?」

あいつ、なんか話があるって言ってたよな。


「はぁ、あいつならすぐ来るよ多分、5秒で」

「ででーーん!お待ち望みの赤髪ですよ!」

赤髪は随分と天真爛漫な人である。


「よく盛り上がっているところ悪いんだが、そろそろ名乗ってもらってもいいか?俺らだって、突然出てきたお前が、……強すぎて戸惑っているんだ」

「大丈夫ですよ、貴方たちを殺したりしませんから」

俺らじゃなけりゃ殺したみたいな言い回しだ。





「ちゃんと名乗りますね。赤髪のこの私は、特級精霊師のレドレア・コルテです。おそらくこの世界で一二を争う精霊師であると自負しています」

「すぐには信じられないな。なんで特級精霊師がこんな村に」

無免許精霊師だと言われた女の子、ハルカが言い返した。精霊術の世界には精通しているようだ。


「憎らしいような目で見ないでください。貴方を捕まえにきたわけじゃないですよ」

ハルカにこれまで見なかったような、向日葵のような笑顔だ。

おっちゃんはその笑顔を見て、顔が溶けていた。



 《人物紹介》

 ハルカ・ブリューズ(8) テリテテ村 自称精霊師

  黄色いツインでまとめた、幼いところが垣間見える女の子。天真爛漫な笑顔がチャームポイント。自身でも精霊師としての、素質があることを理解しており、免許をとりに行けるほどのお金が集まるまで、自称精霊師をしている。過去に分け合って、一人ぼっちになったところに助けてもらったムスカルの義娘になっている。


 ムスカル・ブリューズ(43?) テリテテ村住人

  ハルカの養父。過去にハルカを助けた経験を持つ、かなり戦えるガタイのいいおっちゃん。腕にイカつい刺青があり、初対面では怖がられるが、面倒見の良い優しい中年男性。みんなにおっちゃんと呼ばれていることは、気には食わないが、嬉しくもある。


 レドルア・コルテ(22) 聖都出身 特級精霊師

  赤髪でやや長身のスラッとした体型ではあるが、剣術も得意とする強者。特級精霊師の中でも、抜きん出る才能を持ち、まさに世界のバグである。


========================


「ねえ、ちょっと待ってください!大丈夫ですか?凄い音でしたよ?」

 赤い髪の色をした女性が入ってきた。ノアの髪も赤色だったので、少しだけ彼女の面影が浮かんでしまった。


 飛んできた理由はどうやらさっきのハンマーの音は下の階にも響いてきたかららしい。


「コラ!何してるのハルカ!人様をハンマーなんかで叩いたらダメでしょう!ハンマーで打つのは釘かムスカル爺やだけにしなさい!」

「いいよ、打つのがダメなら、殴るのは問題ないね!」

 まったく、ハルカは本当に無垢な子供である。母親と子供の戯れのようだった。

 ノアの未来の想像が浮かんだ。なぜか赤髪の女性とノアを重ねてしまう。



 ただ、そこに呆れ切った顔が一人いた。

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