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神、降臨  作者: 楼陽
第一章 『砂漠色の遊戯』
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第一章 World.3 ウォーチェン、砂漠での脅迫

 突然紫色の閃光が辺りを包み、僕は意識を手放した。


 目覚めると僕は石の敷かれていない道のうえで、横たわっていた。

「大丈夫、おっちゃんこの子知ってる?」

「る?・・・ルビー色の目をしているわけではなさそうや。()()()とは違うみたいやな」


 13歳くらいの茶髪で幼可愛い女の子と、髭を生やしたガタイのいいおっちゃんが、僕の、いや、俺の周りにいた。不思議な目つきをしながら。

「こ、ここはどこなんだ」

どうやら俺の声は聞こえない。


「なんでお前虫声出してるんだ?」

「虫声?なんだそれ?」

「おっちゃん、こいつ虫声しか出せないみたいだ」

やっぱり俺の声届いてないんだな。


「だから、虫声ってなんなんだよ!」

「よみにくいやつだ。虫声以外も出せるんじゃねーか」


 今のは聞こえたのか。もうこの乾燥してる空気のせいで喉が枯れそうなのに、意思疎通が取れない。こんなにストレスの貯まる境遇なんてなかなかある訳でもない。そっちも聞く努力しろって、風も吹いて・・・


 物凄い砂混じりの風が吹いてるな。でも風は涼しいはずだ!・・・・・・


 ああ日光が強過ぎて、もはや暑いというか痛い。

 期待を見事に全部裏切ってくれる。砂漠の上にあるような、薄茶色な風景が広がっている。


「虫声とやらを教えてくれよ。なんなんだそれ。」

「ああうるさいなあ、他人にそんなに虫声聞かせて何がしたいんだ。失礼すぎるってもんだ」

女の子の方が呆れた顔をして無礼だと突きつけてくる。

 虫声は相手には何言ってるのか聞こえないのか。なんだかこの雰囲気に既視感があるが、思い出せない。


「大変申し訳ない、失礼になってしまって。」

「てめぇ虫声で話したり普通に話したり、変なやつだな。お前まさかここの出身じゃ無いのか?」

 女の子の口が突然毒らしくなった。


 ただ、さっきの俺の発言で一ついいことがわかった。濁点はついてもつかなくてもいいらしい!


 つまり……そうだ、“しりとり“だ。

そういえばあのウォーチェンのやつ、



 **********************



「やあ新人、第三か?」

 最初の挨拶にしてはあまりにも略すものが多いと思うんだが・・・・。と言うか新人説明会に来てるってことはお前も新人だろう。誰なんだこの、金髪で、髭の剃りきれていない、よくわからないおっちゃんだ。


「おい返事してくれよ、俺はお前のことよく知ってるんだぞ」

「はい?なんでですか?」

「か?か、痒いななんか、敬語なんていらない。第一、ここにいるやつでお前のことを一つも知らないってのは、恐らくおこぼれで入ってくる愚民だけだ」


 こいつ人のこと平気で悪く言うタチのやつだ。少し離れておこう。自分まで毒されてしまう。()引きこもりの俺のことなら、尚更悪口がいっぱい出て来るだろう。


「お前の名は、クライス・リンノートルといい、初等教育院生時代に高等教育までをマスター、大学も大学からの推薦で入学。卒業後は世界列学研究者として、世界センターで働くことが決まった。とかいうところまでは少なくとも知っている」


 なんでこいつそんな当たってるんだよ。まあ仕方ないのかもしれない。

異色の経歴は噂によって瞬く間に千里を走っていく。

にしてもこいつは早口だな、ここまで言い切るのに10秒とかからなかった様な気がする。


「そろそろやめてくれないか、こんなところで、それも大声で」

身勝手なアラフォーに、禁止の句は一切をもって届かなかった。


「そして、あそこにいる『ノア』が大好きだってことも」

 そう、囁いた。


 精神の蓋は中から破れて、身が溢れる。

「お前!どう言うつもりだ!俺のあとを長らくつけたりでもしてたのか?揶揄(からか)う気ならあまりにもタチが悪い!名乗れ、今すぐこの場から追放する!」


 周りの新人が、何事かと二人を見る。

 気配を完全に察知した。これはマズイ。初日から口論で首を刎ねられるやつだ。あぁやっと手にした世界列学者の道を、こんな者のせいでこっちが追放か、絶対に嫌だ。


「ああ悪いみんな、ちょいと声を張りすぎた!」


ーー意外とこいつ、悪いやつではなさそうだ。効くかどうかは別として、下手な咳までして誤魔化して、視線が集まらないようにしている。


「お前、年をそれなりに取ってる様には見えるが、なんでこんな新人説明会になんか来てるんだ。まさかそんなにお髭を生やすほど、留年してきたとか?」

 少々嘲笑ってみるのも良い。


 クライスはまったく嫌なガキである。


「俺は世界生成室にずっといた。ただ少しやらかしてしまってな。上からのご命令で、今年から世界列学の研究者になることになった」


 ちょっとあいつにとっては嫌な嘲笑だったかもしれない。


「そうなのか。お前と一緒に働くなんて気が引けたよ」

「よ、よ・・・・・・よりにもよって、最初のまともな会話がこれかよ」

「悪いがお前の第一印象は最悪だ」


 こんなに簡単に、一言で嫌いと言える人間ができたのは初めてだ。


「だ、だ、大半(”た”いはん)がそうだな、ああ!だから、名前くらいは名乗っておくよ。私の名前は『ウォーチェン』だ。苗字は訳合って持っていない」


「ちなみに聞くが、話す最初何か考えているのか?言葉に詰まってるじゃないか」


「ああ、これは俺の趣味だ。しりとり。子供だろ?もうすぐ四十歳だっていうのに」


「しりとりか、ならば僕もそれで答える様にするよ」

濁点は無視していいならまだ簡単か。


「言ったな。次しりとりでなく答えれば、返答はしない」

そう言って、ウォーチェンと名乗る男は去った。



 つい話し相手が欲しかった()引きこもりが出てしまった!こんな面倒なやつとこれから一体何年過ごすんだろうか。しりとりって、なんなんだあいつは!



 ***********************





 結局しりとりじゃ話しきれなくて、あいつがしりとりやめたらそこで終わりにしてたな。というか、“しりとりコミュニケーション“は難しい。これまで経験したことないくらいややこしい!


 じゃない。というか今の問題はもはやそこではない!

 まさかあいつ、世界生成でこんな世界作ってたのか?!

 冗談じゃない、あいつの作った世界の座標は、メモ帳に書いてあったはず。いやあいつの世界の座標は、


 『十五世代第二世界だ』


 えっと、十五世代、十五世代、十五世代、つまり今俺はコロベルのある一世代から()()()も離れた下位世界にいると?いやそんなわけ。


 いやそんなわけしかない。こんなしりとりだらけの街、一世代にあるはずがない。しかもここに飛ばされたのは、世界監視用の機械だ。状況証拠が揃いすぎなくらいだ。

 とりあえず、話をしなければ。さっき女の子が言った最後の文字は、


「てめぇ虫声で話したり、普通に話したり、変なやつだな。お前まさかここの出身じゃ無いのか?」


 [か]か。か、から始めなければならないとは、しりとりなんてめんどくさいことを世界の基本にするなんて、あいつ頭イカれてるだろうが!


「可能性としてなんだが、お前ってこの世界の上に世界はあると思うか?」

俺はそう尋ねた。



「お前、精神教の刺客か?」


 女の子は顔を青くして、腰の横にあった短刀を俺の首横に備えた。隣のおっちゃんに注意を配りながら、警戒感と殺気に満ち溢れた目線を俺に向けてくる。

 おっちゃんと俺は、あまりにも早く話が展開してしまったばかりに、唖然としている。


 唖然とした俺の表情を見抜いたのかは知らないが、女の子の殺気は一時的に少し落ち着いたが、一瞬のうちに抜いた短刀は、残念ながら離してもらえなかった。

「申し訳ねえが、今この世界線でそんなことを言われれば、警戒せざるを得ないんだ」


ーー時間や現象、行動は自分の意思とは関係ないところで自動的に進んでいく。

 これもまたそういうことなのだろう。


「断じて俺は精神教?なんてものは知らないし、この世界のこともあまり知らない。俺は、もっと上に、」

「にわかに怪しいな。上の? なんだよ」

しまった。地雷を踏みかけた。自分でもよくわからない精神教だが、おそらくなんらかのカルト宗教の類だろう。少しは真実も入っているみたいだが。


 でもここで精神教を組織とかいうと尚更怪しまれるかもしれないというのは、いろんなフィクション作品から得た知識だが、いざ実践となると、かなり難解なのがよくわかった。


 とりあえず、この世界の住人には、これよりも上の世界が幾つもあることは伝えられないし、これは自分がどこから来たのか伝えられないことを意味する。さらにしりとりでというと、本当に難しい世界に来てしまったようだ。


 ならばどうやってここを切り抜けよう。適当に移民とかにしとくか。言い訳の具は後から詰めればなんとかなるだろう。

 ここで死んでは意味がない。俺の首の横に短刀があるってのに、こんな呑気にしてられない。次は[よ]だ。


「よく聞いたことはないかもしれないが、北の方、地図で見ると上の方、にある地から来たと言われた。おそらく誰かに連れてこられたんだ!信じてくれ!」

俺の頭はもう生きるか死ぬかで空っぽだ。


 この世に生を受けて、初めてかもしれない、こんな境地。どのようにして信用されるか。

普通でも難しいのに、地雷を踏んだ前科をもう作ってしまった・・・・・・


「霊々尊々、天地を治むる精霊なるは、この男の大罪、真偽を問はる」

おっちゃんが誇らしげに、呪文を唱えている女の子のことを見ている。あの人多分親バカだ。


「何て返ってきたんや?」

おっちゃん、なんで訛ってるの?

 訛られるとその後しりとりで返すのに結構苦労するんだが。


 わからないことが多すぎて頭が燃えそうだ。とりあえず、もし理不尽にも死ぬのだとすれば、こういう違和感を排除してから死にたいな。死ぬとするなら精霊と共に。ああ思考がどんどんネガティブに・・


「やはりこいつには隠し事がある」

ああ、どうやら俺は死ぬみたいだ。こんなところで、死ぬみたいだ。脳裏にノアの顔が映る。ただそれを認識できるほど、頭は動いていない。


「だが、その隠し事は、この世、この村に悪く働くものではない、というのが精霊たちの意見らしい」

あー!俺多分まだ死なない!女の子は短刀を腰に仕舞った。


「いいやん、やったら家に連れて・・!」

おっちゃんが喋り出したのを遮るようにやってきたのは、赤毛で若干長身のスラッとした青年。ただそれよりも、放つオーラで、目を向けられない。


「底辺の思考だ。あなたそんな出鱈目な診断で、生かしておくつもりですか?貴方のような、国のはずれの村に住む、()()()()()()の分際で」


 無免許、精霊師?それよりもこの男の方が、明らかに脅威だと、本能が悟っている。


ーーーー戦々恐々、人はこれを恐怖と呼ぶのだろう。


〈ややこしや〜な世界の呼び方〉

世代・・・コロベル王国のある(現実)世界を一世代とした時に、その世界から対象の下位世界までいくつ離れているか、順番に番号が振られる。

第○世界・・・同じ世代の中にも数々の世界が存在している。同世代の世界に番号を割り振ったものである。

通常○世代第□世界というが、二世代の時は世代を省略したりする。

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